近いと思っていたが、実際思ったより遠かった。

城壁で囲まれた街の門を目の前に俺はつくと同時にそう思った。

 

「とりあえず入るか……」

 

呟くように俺は独り言を言うと街の門をくぐっていく。

門をくぐるとそこには大きな広場があり周りには見たこともない動物などを飼育していると思われるテントが多々あった。

俺はそれらの光景に驚きつつ広場を歩き始める。

 

いや、放してよっ!!

 

「ん?」

 

少し奥のほうからかすかに声が聞こえた。

俺はなんとなくいやな予感がし、その声が聞こえたほうへ走り出した。

そして声のしたところへたどり着くとそこには見た目幼い……おそらくなのはと同じくらいの年齢だと見える少女と少女の腕を掴んでいる男、そしてそれを囲むよう四人の男たちがいた。

腕を掴まれた少女はどう見ても嫌がっており、それを男たちが無理やり連れて行こうとしている。

少なくとも俺の目にはそう映った。

 

「ん? なんだ、貴様は」

 

囲んでいた男の一人が俺に気づく。

俺は何も言わず、少女の腕を掴んでいる男の懐へ駆け顎に掌底を叩き込む。

 

「がっ!!」

 

男は呻き声と同時に後方へと吹き飛ぶ。

それを見て男たちは各々の武器を手に持つ。

斧一人、剣二人、それに杖が一人。

正直武器がない俺には少し厳しい戦力差だ。

見たところ男たちは強そうには見えないが素人ではないだろう。

そして武器と人数の差もあるが、こっちは少女を守りながら戦わなければならない。

 

「死ねっ!!」

 

剣を持った男はそう言って駆けだす。

それに続いてもう一人の剣を持った男と斧を持った男も。

杖を持った男は動かず後方で何かぶつぶつ言っている。

なんだろう……いやな予感がするな。

だがとりあえずは目の前の男たちに意識を向け、倒すことに専念する。

剣を振り下ろす男の剣の軌道を読み避ける。

するともう一人のほうが横薙ぎを放ってきた。

 

「遅いっ!」

 

俺はそれをしゃがんで避け、男の腹に掌底を放つ。

 

「ぐえっ!」

 

男は後方へと倒れこむ。

しばらくは立てないだろう……徹を込めたからな。

男が倒れたと同時に剣を持った男と斧を持った男が襲い掛かってくる。

俺はその二人の攻撃を避けながら斧を持ったほうのこめかみに蹴りを放つ。

そして男が倒れると同時にもう一人のほうへ向けて蹴りを放つ。

蹴りは男の腹部に当たり男はよろける。

その隙を狙い男の後方へと回りこみ首筋に手刀を放ち意識を刈り取る。

それらを少女は後ろで呆然と見ていた。

俺はその少女に気を配りつつ最後の一人へと視線を向ける。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

そう杖を持った男が叫ぶと突然大気が揺らぐ感じがする。

そして男の上空で光が収束し形を成す。

 

「なっ!」

 

なんなんだあれは……。

見たこともないそれに俺はなぜか危機感を憶えた。

 

「ゼルギュノス!? こんないっぱい人が居る場所で!!」

 

ゼルギュノス? あれはそう言うのか?

全身が機械の形をしたそれは両肩についた砲塔を俺に向ける。

するとその先端には先ほどと同じような光が収束する。

 

「逃げてっ!!!」

 

少女の叫び声で俺は我に帰る。

ゼルギュノスと呼ばれたそれは光を収束し終え俺に向けて放ってくる。

それに俺は咄嗟の判断で少女を抱え避けるために走る。

 

「くっ、間に合わん!」

 

当たる。

そう思った瞬間だった。

 

『来て……』

 

そう聞こえた瞬間、妙な浮遊感が体を包む。

そして次に目にしたの……先ほどまで居た場所じゃない、別の場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Lost Memory

 

【第一章 侵食汚染】

第一話 魔と呼ばれた剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんなんだここは?

それが俺のそこに対する最初の感想だった。

中央に祭壇のようなものがありその周りを囲むように湖がある。

明らかにさっきまで居たところとは異なるのは明白だった。

 

「えっと……」

 

思考の渦に飲まれそうになるところに俺以外の声が聞こえた。

しかもすぐ近くだ。

そう、声を出したのは俺に抱えられた少女だ。

 

「っと、すまん。 怪我はないか?」

 

「う、うん、大丈夫……」

 

少女は戸惑いながら頷く。

そこでよく見ると少女の頭に角のようなものがついているのに気づいた。

それに後ろのほうには尻尾のようなものがついている。

海鳴にもこういった者たちはいるがそれらとはまた違う、見たこともない形をしていた。

 

「一つ、聞いてもいいか?」

 

「な、何?」

 

「それは――」

 

質問しようとした矢先のそれは聞こえた。

コツッ、コツッ、と何かで床を叩くような音。

その音に質問をやめ、祭壇に視線を戻す。

そこには……先ほどまでいなかったはずの祭壇には一人の赤い少女が腰掛けていた。

赤いと例えるのは少女の身につけているものがそう例えさせるのだ。

赤いドレス、赤い靴、赤い手袋、そして身につけているものだけでなく髪まで赤い。

そしてどうやら先ほどの音はこの少女が自身のはいた靴で祭壇の側面を軽く叩いた音だったのだ。

少女は俺の視線が自分に向いたのを見てそれをやめ、にっこりと微笑みながら話しかけてくる。

 

「初めまして……になるかな。 正確には一度話してるんだけど」

 

「一度? ……もしかして、夢のときの声」

 

「そう。 私があの時の声の主……そしてあなたをこの世界に召還した張本人」

 

「召還? いったいどういうことだ?」

 

「この世界はあなたのいた世界とは違う。 それはあなたにもわかるでしょ?」

 

「ああ」

 

「あなたのいた世界からこの世界、リィンバウムに私が呼んだ。 そういうことよ」

 

「いったい、何のために?」

 

「……幾度となくこの世界は破滅の危機を回避してきた。 それはそれを成しえるだけの力を持った者たちの存在のおかげ。 でも、なんど危機を回避してもそれはまたやってくる」

 

「また、前みたいなことが起こるって事……?」

 

俺の隣にいる少女はその言葉に恐る恐るといったように聞く。

それに目の前の少女は頷く。

 

「神堕者……堕ちた神。 至竜のあなたなら……わかるでしょ?」

 

「神堕者!?でも、あれは!!」

 

「そう……あなたの考えたとおり、あれは本当ならもういないはずのもの。 でも、それを蘇らせ利用しようとしてる者がいるとしたら……どうかしら?」

 

「そ、そんなことできるはずが……ま、まさか、ここって」

 

「そうよ、至竜。 ここが……そう」

 

なんだろうか、まったく話についていけない。

神堕者? 至竜?

単語だけでもまったく訳がわからん。

そう思いながら俺が首を捻らせていると少女は祭壇から飛び降り俺の目の前に歩み寄ってきた。

 

「これを……」

 

そう言って差し出してきたのは一本の剣。

小太刀と同じくらいのサイズで刀身まで黒いその剣は妙に禍々しさを感じさせる。

俺がそれを受け取ろうとすると至竜と呼ばれていた少女が声を上げる。

 

「だめ!!」

 

俺はそれを受け取ろうとした手を止める。

だが、少女は俺の手を取ってそれを握らせた。

握った途端、その剣は黒い気を放ち始める。

 

「これは?」

 

「バゼルシャルト……それがその剣の名前よ」

 

「バゼル……シャルト」

 

「どういうつもりなの……」

 

「何が?」

 

「その剣は人が持つべきじゃないものなのに!!」

 

「かもしれない……でも、これは……必要な力だから」

 

「でも「それとも、あなたにこれを使わずに解決する策があるの?」……それは」

 

「私だって、使わせたくはない。 でも、こうする以外に破滅を逃れる術は……ないのよ」

 

そう言って少女は俺に背を向けて祭壇へと戻っていく。

そして祭壇の前で止まると顔だけをこっちに向け、微笑みながら言った。

 

「がんばって……あなたならできると信じてるから」

 

少女がそういうと同時に光が溢れ、視界が白に染まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

気づけば、元の場所に戻っていた。

杖を持った男が俺を見て驚愕している。

 

「ば、ばかな……」

 

どうやらあの攻撃が過ぎ去った後のようだ。

周りを見ると地面は抉れ、余波を受けた人たちが倒れているのが見える。

それを見て、俺の中に怒りがこみ上げてくる。

 

「貴様……」

 

先ほど、祭壇のある場所で少女に貰った剣、バゼルシャルトが俺の怒りに答えるように黒い気をさらに増す。

 

「だめ!! それを使っちゃ!!」

 

斜め後ろで少女が声を上げて何か言っているが、俺の耳には届かなかった。

それほどあの男がもたらした被害に対する怒りが強かったのだ。

そして俺はバゼルシャルトを握り、男の元へを瞬時に走り、斬った。

 

「ぎゃああああ!!」

 

男は絶叫を上げ、血を流し倒れた。

俺は倒れた男を見下ろし、剣を突きたて……

 

「だめ!!」

 

そこで少女の叫びで我に帰る。

 

「殺しちゃ……だめ」

 

気づけば少女は目に涙を浮かべながら俺に抱きつく形で止めに入っていた。

俺は突き立てた剣を下ろし、少女を優しく撫でる。

 

「もう、大丈夫だ。 だから……」

 

泣くな。

そう言おうと思ったが、いきなりきた脱力感に膝をつく。

ああ、だめだ。

意識が保てないな。

少女は俺に何かを言っているがもうほとんど聞こえない。

そして、俺はそこで意識を手放した。

 

『これからよろしく頼むぞ、我が主よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

【咲】 抜剣者?

似てるけど、違うね。

【咲】 そうなの?

ああ。まあいずれわかることだよ。

【咲】 ふ〜ん……それにしてもいきなりゼルギュノスとはね〜。

召還術を出すことは予定してたけど何にしようか決まってなくてね。 で、どうせなら強い召還術にしようってことでゼルギュノスになった。

【咲】 でも、いきなり機属性最強を出すのもね〜。

ま、出しちゃったものはしょうがないし。

【咲】 ま、そうだけどね。 で、今回出てきた少女の片方はミルリーフよね?

そうだよ。っていうか至竜で少女っていったらミルリーフしかいない。

【咲】 もう片方は?

秘密。

【咲】 重要人物ではあるのよね?

秘密。

【咲】 ……えい♪

ひぎゃあ!!

【咲】 じゃ、今回はこの辺で。また次回ね〜♪

 

 

 

 

 

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