気を失い倒れてしまった恭也を少女―ミルリーフは小柄な体で担ごうとする。

しかし、担げたはいいが歩く速度はかなり遅く、しかも身長の違いもあってか足を引きずるようになってしまう。

それでも自分を守ってくれた恭也の体を心配しているのか速度が遅くとも必死に歩く。

そしてやっとのこと人気のある場所に出たとき遠くからミルリーフを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「やっと見つけた……って、誰なんだそいつ?」

 

「パパ、この人を!」

 

パパと呼ばれた青年―ライはミルリーフが見つかったことに安著し、すぐにミルリーフが担いでいる青年に気づいたのかそう尋ねる。

だが、ミルリーフはライの疑問に返す余裕もないような、そして今にも泣き出しそうな顔で言った。

 

「この人を助けて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Lost Memory

 

【第一章 侵食汚染】

第二話 力の代償

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、もう大丈夫よ」

 

「ほんと……?」

 

「傷らしい傷もないし病気でもないみたい。 たぶん疲労がたまってたんじゃないかな」

 

ベッドの上に寝かされた恭也を見ながらその女性―ミントは安心させるようにそう言う。

ミントが大丈夫と言い、目の前の恭也が安らかに眠っているのを見てミルリーフは安心したように息をつく。

 

「それにしても最近また物騒になってきてるわね……」

 

「今回ので三回目……だっけ? せっかく平和になったと思ったのにな」

 

ミントとライは深刻そうな顔でそう言い合う。

 

「だいたいなんなんだろうな、あいつら。 素性もわからなければ目的もわからん」

 

「そうだね。 無色の派閥って線もあるけど、それなら目的のものだけを狙うような手口になると思うし」

 

「前回は広場の襲撃。 前々回はリシェルの家が襲われた。 で、今回はミルリーフの誘拐未遂……関連性がわからん」

 

「何かを探してる、ていうのはどうかな?」

 

「でも、それだとミルリーフを襲う理由にならないよ」

 

「そうなんだよね〜。 う〜ん……」

 

二人は首を捻りながら悩む。

そこでライはミルリーフが会話に入っていないことに気づいた。

そしてふとミルリーフを見てみるとミルリーフは恭也をじっと見ていた。

いかに大丈夫と言われてもやはり心配なのだろう。

ミルリーフの様子に内心そう思いながら、ふと聞きたいことがあったことを思い出した。

 

「ミルリーフ、ちょっといいか?」

 

「え? 何、パパ?」

 

「これなんだけど……」

 

そう言って取り出したのは一本の剣。

抜き身のままなため黒い刀身がとても目立つ剣。

その剣にミルリーフは見覚えがあった。

 

「この剣、誰の「だめっ!!」」

 

ライの言葉を遮るように叫び、ミルリーフは剣を引っ手繰る。

突然のその行動にライもミントも絶句する。

しばしの沈黙が流れる中、ミルリーフは我に帰り自らのした行動を思い出したのか俯く。

 

「ごめんなさい、パパ。 でも、これはダメなの……」

 

「え、えっと……何がだめなんだ?」

 

ミルリーフの謝罪にライも我に帰りそう聞く。

 

「これは……人が持つべきじゃないものなの」

 

「持つべきじゃないって……確かに普通じゃないとは思うけど」

 

「もしかして……魔剣、なの?」

 

ミルリーフの少ない言葉でミントはそう答えを導き出す。

だが、ミルリーフは首を横に振るう。

 

「人はこれをそう呼ぶけど、正確には違うよ」

 

「じゃあ、なんなんだ?」

 

「神剣なの……この剣」

 

「神剣!!?」

 

「うん……でも、これをもう神剣と呼ぶ人はいないの」

 

「どういうことなの?」

 

「本来、神剣は意志をもって所持者を選んで、莫大な力をその所持者に与えるけど……これは」

 

剣をベッドに立てかけるようにして置き、言葉を続ける。

 

「これ自身が選んだ所持者からある代償と引き換えに力を与えるの」

 

「それって完全に魔剣じゃないか?」

 

「前はこうじゃなかったの。 でも、昔いろいろあって剣自身が歪んでしまった」

 

「それで、代償ってなに?」

 

「まさか、所持者の命とかか?」

 

ライの言葉にミルリーフは首を横に振る。

 

「代償は……所持者の記憶」

 

「そ、それって……」

 

「うん、ミントお姉ちゃんの思ったとおりだと思うよ。 これは所持者の記憶を代償に力を与えるの。 その記憶がその人にとって大事であればあるほど……強い力を」

 

ライとミントは再び絶句する。

そんな二人を見ながらミルリーフは暗く沈んだ顔のまま、言葉を続けた。

 

「だから、この剣は本来人が使うべきものじゃないの……」

 

「もしかして……それって下手したら俺が所持者になったかもしれないってことか……?」

 

「ううん、それはないよ……だって」

 

言葉を区切り、恭也を見る。

それだけで二人はわかってしまった。

 

「この人が……所持者になっちゃったの」

 

「剣が所持者を決めてしまったってことなのか……?」

 

「うん……でも、正確にはちょっと違う」

 

「どういうことなの?」

 

「それは……」

 

「う、ううん……」

 

ミルリーフが二人の疑問に答えようとした時、恭也は呻き声を上げる。

それを聞いてミルリーフは焦りながら二人に言う。

 

「み、ミルリーフはこれを隠してくるからパパとミントお姉ちゃんはここにいて。 さっきのことは後で話すから」

 

「わ、わかった」

 

ミルリーフはそう言うと剣を持って別部屋へと行く。

ミルリーフが部屋を出てからすぐに恭也の目がゆっくりと開かれた。

 

「こ、ここ……は…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

湖に囲まれた祭壇。

そこに静かにたたずむ一人の少女。

少女は祭壇に背中を預けながら空を見上げていた。

 

「呪われた神剣は所持者を選んだ」

 

誰に聞かせるでもなく……

 

「……始まる」

 

悲しげな表情で……

 

「私と……あなたの物語が」

 

少女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

う〜ん、ちょっと短いね。

【咲】 更新も遅いしね。

はは、それは仕方のないことさ。

【咲】 笑って言うことか!!

ぶばらっ!!

【咲】 まったく……あ、そういえば。

な、なんだ?

【咲】 あんな騒動があった跡なのにグラッドがあの場にいないのっておかしくない?

ま、まあ、それはいろいろと忙しかったということで。

【咲】 考えてなかったのね……。

あ、あはははは。

【咲】 はぁ……じゃ、今回はこの辺でね。

次回も見てくださいね〜。

 

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

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