こう言っては難だが、リィンバウムでの最初の朝は恭也にとって思い出したくないものとなった。

というのも昨夜、ライとリシェルの子供であるアリアがベッドに潜り込み、一緒に寝たいと言ってきたのだ。

ただこれだけ聞けば非常に微笑ましいというだけ。だが、これを翌朝、事情を知らぬ誰かに見られたら事だ。

特にその日の昼間にアリアから堂々と恭也と相部屋が良いという発言が為されたのだから、余計変に勘繰られる可能性があった。

だけど駄目だと説得して戻らせる元気もなかった恭也は誰かに見られる前に起きればいいだろうと楽観視してしまった。

そしてその全ての要因が見事に重なり合い、翌朝、見られたら一番厄介事に発展するであろう相手に見られてしまったのだ。

 

 

――アリアと同じで妙に彼に懐いた、ミルリーフという少女に。

 

 

おそらく部屋に来た理由は恭也を起こしにきた、という極々普通の理由ではあった。

しかし、その極々普通の理由でやってきた彼女はあろう事か、恭也とアリアが共に眠っているのを見て悲鳴にも近い声を上げた。

早く起きればいいと思っていたが、疲れていたためか起きれず。結果としてその声で起きる羽目となったのだが、時すでに遅し。

ミルリーフはかなり怒りながらアリアと引き剥がそうとするわ、彼女の声で駆け付けたライとリシェルは助ける所か、呆然と突っ立ってるわ。

アリアに至ってはミルリーフの声でパッチリ目覚め、引き剥がそうとする力に対してどこからそんな力が出るのか、必死に抵抗していた。

結局このやりとりは十分近くも続いた後、ようやく我に返ったライとリシェルの二人が宥める事によって収まりを見せたのだった。

 

「はぁ……朝から妙に疲れたな」

 

「あははは……何て言うか、災難だったな、恭也」

 

そんなこんなで現在は食堂にてテーブルを囲み朝食。ここでもお決まりというか、恭也の両サイドにはミルリーフとアリアがいる。

そして対面にはライとリシェルが座っており、どちらもその光景を微笑ましそうに見ていた。ただ若干、ライのほうは寂しそうにも見えたが。

 

「それにしても……昨日も思ったが、ライの作る料理は本当に上手いな」

 

「そうよねぇ。女として悔しく思わないといけないんだろうけど、さすがにここまで美味しく作られると悔しさも湧いてこないわ」

 

「パパ以上に美味しい料理なんてないんじゃないって思う程だもんね。実際、パパの作る料理より美味しい料理は食べた事ないし」

 

「いやいや、そう言ってくれるのは嬉しいけどな、ミルリーフ。俺以上の料理人なんて探したら世界中にたくさんいるぞ?」

 

「それは言い過ぎだと思うけど……でもライ以上の人がいるっていうのは確かにそうかもね。ずっと前に会ったリプレさんなんて、料理大会でライを押しのけて優勝するくらいだしさ」

 

この宿――『忘れじの面影亭』の看板の一つであるだけあって、ライの作る料理というのは飛び抜けて美味しい。

今の状況だと身内贔屓にしか見えないが、食堂には料理だけ食べに来る者もおり、昼時など見れば人気の有無が窺える。

ただその上でのもう一つの良さが人気があるからと言って本人が手抜きも精進も欠かそうとはしないという点だろう。

褒められても嬉しそうな仕草は見せるが、必ず自分より上がいると告げる。その話にはよく、過去実際に勝負して負けたリプレという女性の名前が出る。

要するに総じてライは自分を磨く事を止めず、それが料理の良さを日々磨かせて食堂の人気を今まで保ってきたようなものだという事だ。

しかしそんな彼も現在は料理の勉強だけに専念は出来ない。専念し過ぎて奥さんであるリシェルや、子供であるミルリーフとアリアを蔑には出来ないからだ。

特にアリアはまだ幼く、好奇心旺盛なお年頃。リシェルが面倒を見ているが、だからといって下手に目を離してばかりだと何を仕出かすか分からない。

つまり何が言いたいのかと言えば、料理人としての自分とお父さんとしての自分の狭間で彷徨い、日々苦労している……それがライという男だということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Lost Memory

 

【第一章 侵食汚染】

第七話 穏やかな異世界での一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食中は両サイドからあーんをされたりさせられたりで落ち着くかに見せても結局疲れはした。

ただ意外にも朝食が終わって恭也が皿洗いを手伝う事となった後、ミルリーフとアリアは二人で庭へと遊びに出た。

恭也を取り合ったりで結構火花を散らせたりしてはいたが、だからといって仲が悪いというわけでもないらしい。

ともあれ皿洗いを手伝う恭也だが、当然ながら一人ではなく横では同じく洗った皿や食器を布で拭くリシェル、その更に横の辺りで昼用の仕込みするライがいる。

 

「~~♪」

 

若干鼻歌交じりで食器等を拭くリシェルの姿は中々様になっているが、昨日聞いた限りでは彼女、実はお嬢様らしい。

何でもこの町――トレイユの実力者にしてこの宿屋のオーナー、更には『金の派閥』という組織の一員でもあるテイラーという男の娘との事。

今でこそライの嫁という事でここを共に切り盛りしているが、一応『金の派閥』にも属しているためかそちらの仕事に出る場合もある。

だが、その仕事というのも早々入るものではないのか、基本は宿の運営が主。それが今では板についてしまい、お嬢様らしさは欠片も無い。

ライ曰く、元からそんなものは持ち合わせていなかったとの事だが。ともかく今現在、隣で皿洗いをする彼女はどこをどう見てもお嬢様に見えないのは確かだった。

 

「ん? どうしたの、そんなジロジロ見て?」

 

「あ、いえ、何でも――――」

 

「お嬢様らしくないなぁ、とか思ってたんじゃないか? 昨日の夜にお前を紹介する時、実はお嬢様なんだって話したしさ」

 

「ああ、そういうこと。まあ、そう思われても仕方ないわね。確かに自分でもお嬢様らしくないとは思うし」

 

「ていうか、お前がお嬢様らしくあった事なんて無いだろ。ガサツで唯我独尊、オマケに未だ何かあると首を突っ込みたがる……ガキじゃあるまいし、いい加減そういう所も――ぐぼっ!?」

 

言葉が言い切られるより早く、拭き終えた食器を棚に戻しに行くついでで彼の腹に蹴りをかますリシェル。

結構ピンポイントで入ったのか持っていた道具を置いて蹴られた部分を抑え、彼女を横目で睨むも本人はどこ吹く風の如く受け流す。

これを見る限り、それなりに夫婦としての仲は上手くいっているように見える。見分けは付きにくいが、しっかりと気を許し合っているみたいだから。

友達感覚に近い夫婦というのが適切に当てはまる。もっとも、下手にベタベタしてるよりはそっちのほうが良い関係に見えるものだ。

 

「まったく……ところでさ、話は変わるんだけど恭也がこの町に来たのって昨日なのよね?」

 

「そうなりますね。もっと正確に言うなら、この世界に来たのは、なんでんすが」

 

「ふ~ん。じゃあ当然、町の中なんて見て回ったりもしてないわよね?」

 

「まあ、そんな暇もなかったですから……見たと言えば、門を潜った辺りにある広場くらいなものですね」

 

「なら町案内も兼ねて少しお願いしたい事があるんだけど、いいかしら?」

 

未だダメージから回復していないライをそっちのけにしてリシェルはお願いがあると口にする。

それに恭也は大丈夫かと身を案じるような視線を送るも、二人にとってこれが日常的なスキンシップなのだろうと納得する事にした。

むしろそれよりもリシェルのお願いというののほうが気になったためか、一度はライに送っていた視線を彼女へ戻し、問いに対して頷いて返すのだった。

 

 

 

 

 

実際、リシェルのお願いというのは町案内も兼ねたものであるというのは確かだった。

ただ正直、お願いという部分が子守りだったためか、町案内と言ってもアリアに連れ回されてそれどころではない。

一緒に案内役として来たミルリーフがある程度窘めてはいたが、これも結構な頻度で恭也を取り合って火花を散らせている。

町案内というより、これでは完全な子守りだ。だがまあ、多少疲れはするが子供が嫌いというわけでもないため、悪い気はしない。

 

「今度はあっち! あっちに行きたいの!」

 

「ダメ! さっきはアリアのお願いを聞いてもらったんだから、今度はミルリーフのお願いを聞いてもらう番なの!」

 

悪い気はしないのだが……はっきりいって往来で自身の腕を引っ張り合いながら叫び合うのは恭也としては勘弁して欲しかった。

アリアはまだ五歳との事だし、ミルリーフも見た目や年齢で見てもまだ幼い。だからそういった部分を説いても仕方ないのは分かる。

ただそれでも毎回場所を移動するたびにこうやって言い合われれば、怒りはせずとも肉体的にも精神的にも疲れるのは事実だ。

 

「あっちに行くの~! 行きたいの~!」

 

「ダ~メ~! 位置的にも近いんだから、今度はこっちのほうに行くの~!」

 

両方から引っ張られても所詮は子供の力だから痛くは無い。ただ、普通に為すがままにしてれば引っ張り合いはミルリーフが勝つだろう。

だけどそれでもどっちが引っ張っても彼が動かないのは、足に力を入れてるからだ。このままミルリーフに勝たせたら、アリアはおそらく泣くから。

しかし、結局のところそのまま放置するわけにもいかず、何より放置したままこの場に留まり続けると周りの視線が痛すぎる。

それ故にまずは二人を宥め、今回はミルリーフの行きたい方に行くと告げる。ただもちろん。こうするとアリアが不機嫌且つ泣きそうになるのは必至。

そのため告げた後はすぐにアリアを抱き上げ、肩車をしてやる。子供というのはこういうのを喜ぶもので、例に漏れず肩車にはしゃぎ出すアリア。

そういうわけで二人共にご機嫌が取れ、次の場所へと向かえる……かに見えたのだが。

 

「うぅ……お兄ちゃんの肩車……」

 

ミルリーフのほうも何やら肩車をして欲しかったのか若干、いやかなり羨ましそうで恨めしそうな眼を向けていた。

どうやら恭也が考えたこの方法も円満解決とはいかなかったらしい。だが、二人一緒に肩車は出来ないのでどうする事も出来ず。

結局彼女のそんな視線を向けられながら、彼女の指定する方向へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

ミルリーフの案内で次に赴いた場所はこの町でため池と呼ばれる場所。要するに町の貯水湖らしい。

ここに繋がる一本の水路の先には大きな池があり、そこから水を運んで町全体に水を行き渡らせているのだ。

 

「先のほうにある大池では釣りも出来てね、人の間ではちょっとした人気スポットなの」

 

「ほう、釣りか……なら俺も行く機会があるかもしれないな。釣りは好きな部類に入るのだし」

 

「そうなんだ。じゃあ、そのときはミルリーフも誘ってね♪」

 

「アリアも! アリアも連れてってね、お兄ちゃん!」

 

「あ、ああ……」

 

正直言ってしまえば釣りは静かにやりたい派なのだが、下手に断ると不機嫌になりかねないので頷いておく。

それによって二人とも満面の笑みを喜び、ご機嫌を露わにしつつ、次の目的地へと案内すべく手を引っ張る。

アリアもミルリーフの行動に文句はないのか、それとも肩車してもらいご機嫌だからどうでもいいのか。

はたまたただ単に気付いていないだけなのか……そこの辺はどうにも分からないが、下手に突くと騒動になりそうなので黙っておく事にした。

そんなわけで次に向かったのが何とブロンクスの屋敷。何を隠そうこの屋敷……リシェルの実家であるらしい。

町の実力者の家だけにずいぶんと大きくて凄い屋敷だなぁと見た目で思いもするが、ぶっちゃけ町案内で訪れる場所ではない。

 

「ママのおうちだ~♪」

 

「ここにはアリアもよく来るのか?」

 

「うん♪ おじいちゃんがね、すっごく優しくて好き♪」

 

「テイラーおじさん、アリアには凄く甘いもんねぇ……」

 

ライからリシェルの事について聞いた時は、テイラーなる人物は厳格で非常に厳しい人間との事だった。

だがアリアやミルリーフの話ではその認識をぶち壊す。どうやら厳格で厳しい人でも、孫には甘いらしい。

どんな人なのかを見てみたい気もしないでもないが、普通に考えてまるっきり部外者の恭也が入っていいとは思えない。

というわけで外から見ただけでこの場所の案内は終わり、またミルリーフに案内されて次の場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

ブロンクス家の屋敷以降も昼食を挟みつつ様々な場所へと案内され、その場所に関する説明もしっかり受けた。

もっとも場所の説明云々はともかく、様々な場所に案内されたというよりは、様々な場所に連れ回されたというほうが正しい。

しかも頭上ではアリアが終始はしゃぎっ放し。不機嫌になられるよりはずっとマシだが、やはり疲れはするものだ。

そんなこんなで日も落ちようとする時間になってようやく最後の案内場所。その場所とは町で一番人通りの多い、中央通り。

 

「ここは武器防具とか薬とか、旅人が泊まるための宿とかがいっぱいある場所なの。今は時間的に少し少ないけど、お昼頃に来たらたくさんの人がいるんだよ?」

 

「そうなのか。となると最後に回したのは正解だったのかもしれないな。昨日の件もあるし、人通りが多いときにこの場所に来るのは避けた方がいい」

 

「うんうん、ミルリーフもそう思って最後に回したの。ただ、人がいっぱいで賑わってる所を見て欲しいっていう気持ちもあったんだけど……」

 

未遂で済んだが誘拐に合い掛けたミルリーフがいる上、謎の集団から襲撃を受けるという事までされている。

それを考えると人が多い場所へは賑わう時間に赴くべきじゃない。戦う事の出来ない子供がいるなら尚更だ。

故に判断は間違っていないも、賑わう場所は賑わう時間に案内したかったというミルリーフの気持ちは分かるし有難いものだ。

だからありがとうという意味も込めてアリアが落ちないよう片手を離して彼女の頭に置き、二、三度ほど撫でた。

すると彼女は擽ったそうな、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべて喜ぶ。だがその途端、後頭部からポンポンと頭を叩く感触が伝わる。

それに恭也は実際に見ずとも悟る。おそらくミルリーフだけ撫でるなんてずるい、なんて事を思ってアリアが抗議しているのだろう。

その事が見なくても分かるからかミルリーフの頭から放した手を今度は肩車をしているアリアの頭に置いて同じように撫でた。

ただ、そうすると今度はミルリーフが途端に不機嫌になる。正直どうしろと、と思わなくもないが、実際口にしても意味はないのでそちらを再び撫でる。

なんて事を交互に行っておよそ十分も経った頃、時間も時間故にお腹を鳴らしてアリアが空腹の意思表示を示した事でこのやり取りは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

そんなこんなで町案内を終え、そろそろ夕食の時間も近いだろうと帰宅したのだが、帰宅したそこは戦場と化していた。

といっても戦い合う意味での戦場ではなく、夕食ラッシュと呼ばれる戦場。ただ普通、昼食ラッシュは聞いても夕食ラッシュはあまり聞かない。

店主であるライとリシェルの子供であるアリアとミルリーフも夕食時は確かに人は来るが、ここまで酷いものではないと証言していた。

となると何でここまで今日は人が多いのか疑問になる。しかし、疑問に思ったところで答えなど浮かぶわけもなく、下手にその場に留まるとかえって迷惑だ。

それ故にその夕食ラッシュが終わって正式に一家の夕食が始まるまでの間、恭也の部屋として当てがわれた部屋に引っ込み、話でもして待つ事にした。

話し始めは大した話でもなく、言ってしまえば世間話に近い。だが、何気ない恭也の一言によって場の空気が若干変わる事となった。

 

「そういえば今思い出したんだが……あの剣はミルリーフが預かってるのか? 起きたときにはなかったが」

 

「え……う、うん、そうだね。正確には私が預かって、ある場所に隠してるんだけど」

 

一瞬何を言われたのか理解出来なかったのか間を開けてしまうも、すぐに頷いて返した。

ただこの場であの剣――バゼルシャルトに関しては禁句に近い。代償というのも理由だが、何よりミルリーフが話題に出るのを過剰に嫌うのだ。

バゼルシャルトを渡した人物などや剣の過去は恭也も知っているし、ちゃんと聞いたのだが、そこまで態度が過剰になる理由は分からない。

代償と言ったって使わなければ、呼びかけに応じなければ大丈夫だし、剣を渡してきた人物もそんな悪い人には見えなかった。

となるとミルリーフがあそこまでバゼルシャルトに過剰反応する理由。それが気になり、知りたくなったのか、恭也はその点に関して聞く事にした。

 

「ミルリーフは、あの剣の事で何か知ってるのか? この昨日言っていた剣の過去以外で」

 

「し、知ってるには知ってるけど……ほ、ほら、結局は使わなければいいだけの話だから。話しても……ね?」

 

知ってるという事は簡単に口にしたが、話そうとはしない。それどころか、やはり避けるような感じすら露骨に窺わせる。

そこまで表に出すほどバゼルシャルトという剣は凶悪なのか。それともまた何か、話したくないと言わしめるような事実があるのか。

どちらにしても気になるという欲求は抑えられず再び聞こうとするも、変わらず避けるような感じの言葉を返された。

 

「ねえねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんたちはさっきからなんのお話をしてるの?」

 

「ん? あ、ああ、ちょっとこの前の話をしてたんだ……アリアには、少し難しかったな」

 

歩み寄って疑問符を浮かべながら訪ねてくる彼女にそう返しながら、恭也は頭を撫でてやる。

それに喜ぶアリアを見ながら横目をミルリーフに向けてみるも、話が逸れた事に安著したような溜息をついていた。

少し追求したら話してくれるかと思ったが、そこまでとなるとこれ以上聞いても話す事は無いとその様子から察する事が出来る。

故に恭也ももう追及する事はせず、自ら話題を変えるべく別の話題を口にした。

 

「それにしても、やはり小太刀がないと少し不安になるな。この間のような事があったとき、今の装備だと下手をしたら自分の身も守れんかもしれん」

 

「小太刀? 小太刀っていうと、あの普通の刀より少し短い刀の事だよね?」

 

「そうだが……もしかして、この世界にあるのか?」

 

「うん。今日案内した大通りで開いてる商店で取り扱ってるのをたまに見るよ。でも、やっぱり種類的に珍しいのには変わりないから、いっつもあるわけじゃないけど」

 

正直言えば、この世界に小太刀があるとは思わなかったというのが本音である。

今日出向いたとき、チラッとだけ見た限りで刀があるのは分かったが、少々種類的に特殊でもある小太刀はさすがになかった。

だからさすがに小太刀はないかと落胆していたため、ミルリーフのそれは光明を見出すのには十分な一言だった。

 

「そうなのか……となると、暇を見て大通りに出向いて見てみるのもいいか。あ、いや、例え見つけても買う金がないからどうしようもないか……」

 

「それだったら、パパとリシェルママに相談してみたらどうかな? 何か条件みたいなのは付くと思うけど、買ってくれるかもしれないよ?」

 

「いや、そう安易に好意に甘えるのもなぁ……正直、ここに住ませてもらってるだけでも悪いと思うくらいなのだし」

 

ライとリシェルの二人からしたら気にするなと言うような事だろうが、恭也からすればかなり気にする事。

それに加えて物強請りなど、条件付きでも申し訳なさ過ぎて口にすら出せない。

だが、かといってどこか別の所で働いて買うという手も普通のときならいいだろうが、今の状況下では頂けない手段だ。

というのも昨日の襲撃者のほとんどは捕まるか死んでいるが、恭也の存在が知られていないという理由にはならないからである。

つまり、知れていたら襲撃される可能性があり、安易に働くなど出来ないという事。それ故、小太刀があるかもと知っても手の出しようがない。

 

「う~ん……パパもリシェルママも気にしないと思うけど。言い難いなら、お兄ちゃんの代わりにミルリーフが言ってあげようか?」

 

「いや、だから……誰が言っても好意に甘えるという事実は変わらないわけで」

 

「アリアが言ってあげる~♪ パパもママも、アリアがお願いしたら絶対聞いてくれるもん♪」

 

ミルリーフの言葉に賛同、というか自分がやるとさえ言ってくるアリア。今までの話が分かり辛くとも、そこだけは分かったらしい。

ただ、それは両親が自分に甘いと自覚してる一言。ミルリーフからすれば、こういった部分は母親似だなと言わざるを得なかった。

ともあれ結局のところアリアが言ってる事もミルリーフの言い分と全然変わらないため、恭也はそちらも丁重に断ろうとする。

だが、自分が代わりに言うという部分に反応したミルリーフと自分が言うと言い張るアリアとでまた子供同士の言い合いが始まってしまった。

結果、断ろうにも断らせてくれる間も与えてくれず、夕食までの残り少ない時間、子供感丸出しの言い合いが室内に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

すっごい久しぶりに書いたな、これ。

【咲】 他のが忙しいからって放置しすぎなのよ。

あ、あはは……まあ、そこの辺はしょうがないという事で。

【咲】 ま、何も書いてないわけじゃないから、別にいいんだけどね……でも、こまめに書くようにはしなさいよ?

ういうい。てなわけで今回は日常編だったわけだが……基本は恭也とミルリーフ、アリアの三人だな。

【咲】 ライとリシェルも出たけどね~。で、その三人での町巡りだったけど、その部分はあんまり出なかったわね。

サモンナイト4を知ってる人にはそこまで意味がないしね。ある程度は説明してってだけで済ませた。

【咲】 知らずに好奇心だけで見た人からしたら不親切極まりないわよね。

まあそこは……気になったら各々で御調べになってくださいませ、という事で。

【咲】 いいのかしらねぇ、それ……。

良いと考えよう。何事も前向きに前向きに。

【咲】 前向きばっかりもどうかと思うけど……にしても、アリアってリシェル似なのかしら?

そうだね。性格面では確実にリシェル似だよ、あの子は。

【咲】 という事は好奇心旺盛でお転婆って事ね。

そういうことだな。

【咲】 ところで今回、バゼルシャルトの話題が出たけど……ミルリーフってまだ秘密にしてる事があるの?

まあね。ただバゼルシャルトを使う上での事じゃなくて、過去に関しての事だが。

【咲】 話さないのは、それはあまり良くない事だから?

そういうことになる。もっとも、知られるまでそんなに長くはならんだろうけどね。

【咲】 ふ~ん……で、次回のお話はどんなのなの?

次回はだな……一言で言っちゃえば、恭也が剣を買うというお話だ。

【咲】 今回あった部分のお話ね……もっとも、剣じゃなくて小太刀だけど。

そうだね。ま、詳しい部分は本編に振れ過ぎるから今回はこの一言でだけで。

【咲】 というより、次の更新がいつになるか分からないからってだけでしょ。

う……ま、まあそんなわけで、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では~ノシ

 

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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