電車に揺られながら恭也は今向かっている町のことを考える。

楢崎町には二つの名物とも言える不思議な現象がある。

一つは消えない虹。

数年前に楢崎町に出来た謎の虹。

なぜ消えないのかどうやってできたのかそのすべてはほとんどが謎に包まれている。

現在楢崎町のとある研究所ではこれについて研究をしているがいまだ解明はできていない。

そしてもう一つは……

 

「Gift……か」

 

恭也はそう呟く。

不思議現象のもう一つ……Gift。

自分と相手が同意の上で相手に対して大概どんなものでも贈ることが出来るという一種の魔法。

しかし、これは一生に一人一回しか使えず、さらに楢崎町で生まれたものにしか使うことはできない。

これについても研究所で研究されているがまったく解明はされていない。

そしてこのGiftこそ恭也が楢崎町に行くきっかけとなったもの。

 

「夏織母さんが俺に贈った……Gift」

 

これがなんなのか知ることが恭也の目的である。

 

『次は〜楢崎〜、次は〜楢崎〜、お降りの方は――』

 

「ついたか…」

 

恭也は荷物を持って立ち上がる。

電車が停止するとドアが開かれ、恭也は外へと出る。

その足取りで改札口で切符を渡し駅から出る。

 

「ここが……俺の生まれた町か」

 

恭也は駅の前で少し立ち止まりそう呟く。

空を見上げるとこの町の不思議現象の一つ、消えない虹がはっきりと浮かんでいた。

恭也は荷物を持ち直し、地図を開いて父、士郎の言っていた天海家へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒衣の剣士の贈り物

 

第一話 天海家来訪

 

 

 

 

 

 

恭也は地図を頼りに歩く。

商店街を進み、海沿いを進み、気づけば住宅地。

 

「この辺のはずだが…」

 

住宅の表札を見ながら進み、ある住宅の前で止まる。

そこの表札には天海と書かれていた。

 

「ここだな……」

 

恭也は天海家であると確認すると来客用のベルを押す。

すると少し経ってから中からどたどたと音がしてドアが開かれる。

 

「は〜い、どちらさま?」

 

出てきたのは恭也と同じくらいかもしくは少し下くらいの少女だった。

恭也はその少女にどことなく見覚えがあるような気がした。

 

「あ、ここは天海壮一さんのお宅で間違いありませんか?」

 

「え? あ、はい、そうですけど……どちら様?」

 

「あ、申し送れました。 自分は高町恭也と申し「え、もしかして恭也お兄ちゃん…?」……はい?」

 

少女は驚いた顔をして恭也を見ると嬉しそうな顔を浮かべる。

 

「私のこと覚えてないかな? 昔、恭也お兄ちゃんと私たちを合わせた四人で短い間だったけどよく遊んだことあるんだけど」

 

「……」

 

恭也は腕を組んでしばし考える。

そしてその記憶がかすかに思い出されその少女の名前が思い浮かんだ。

 

「もしかして…莉子か?」

 

「うん! ほんとに久しぶりだね。 あ、こんなとこで話すのもなんだからとりあえず上がって」

 

「ああ、それじゃあお邪魔する」

 

恭也は地面に置いていた荷物を持ち天海家の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

中に入りリビングへと通される。

リビングのソファーには莉子と同じくらいの少年が腰掛けて本を読んでいた。

そして恭也に気がつくと莉子と同じく驚いた表情を浮かべる。

 

「もしかして…恭也か?」

 

「よくわかったな。 久しぶりだ……えっと…」

 

そこで恭也は悩む。

過去の面影が合っても名前が思い浮かばないのだ。

少年はどうしたんだというような顔を恭也に向けていた。

そして恭也は頭に浮かんだ少年の名前を口にする。

 

「久しぶりだ、安彦」

 

「安彦じゃねえ! 春彦だ!」

 

「安彦……ぷっ」

 

「莉子! お前も笑うな!」

 

恭也は間違えたかと思い申し訳なさそうな顔をする。

それとは反対に莉子は恭也の言った名前がつぼに入ったのか笑いを堪えている。

 

「たくっ……でも、ほんとに久しぶりだな…」

 

「ああ、そうだな…」

 

「確か親父の話ではここにしばらく住むんだよな?」

 

「一応そうなっているな」

 

「んじゃ、これからしばらくの間よろしくな、恭也」

 

「ああ、こちらもよろしくな、安彦」

 

「いや、だから…」

 

「冗談だ。 よろしくな、春彦」

 

春彦は恭也の冗談になんともいえない顔をする。

莉子はとうとう堪えきれなくなったのか声に出して笑っていた。

 

 

 

 

 

 

莉子の笑いが収まってようやく回りは落ち着いた。

恭也はソファーに腰掛けて出されたお茶を口にする。

 

「それで、なんで恭也はこっちに来たんだ?」

 

「あ、それ私も気になる」

 

「ああ、そういえば話してなかったな……」

 

恭也は二人にここに来た理由を話す。

それに二人は驚きの表情を浮かべながら聞いていた。

 

「というわけだ…」

 

「……そうなんだ」

 

「なんか聞いてしまってごめんなさいな感じだな…」

 

「いや、気にすることは無い。 もう昔のことだしな……」

 

恭也はそう言って微笑を浮かべる。

それに二人は本当に気にしていないとわかり首を縦に振る。

 

「それでこの街にはGiftについて研究しているという施設があると聞くがどうなんだ?」

 

「ああ、確かにあるな。 そうだな…今日の晩に恭也の歓迎会を開くことになってるんだけど、そのときにその研究所の人が来るからそのときに話してみればいいんじゃないか?」

 

「そうか……なら、そうしよう」

 

「それじゃ、この話はおしまいだな」

 

そう言うと春彦は一転して明るい顔になる。

 

「そういえば恭也って彼女とかいるのか?」

 

「なんだ、突然……いるわけないだろう」

 

「え、そうなの? 恭也お兄ちゃんかっこいいからけっこうもてそうなのに…」

 

「俺はかっこよくなんか無いさ。 それに俺なんかを好きになる酔狂な女性もいないだろ」

 

その発言に春彦と莉子は絶句する。

 

「ん? どうしたんだ、二人とも」

 

「い、いや、ちょっと、なんていうか…」

 

「恭也お兄ちゃんって鈍感なんだな〜って……」

 

「家族にもよく言われるが俺はそんなに鈍感か……?」

 

その疑問に二人は揃えて首を縦に振る。

それに恭也は憮然とした表情を浮かべる。

 

「俺に聞いたのだから春彦も彼女がいるのか聞かせてくれるんだろう?」

 

恭也は一転して意地悪な顔を浮かべる。

 

「え、えっと……」

 

なんと言い訳したものかというような顔をする。

その横で莉子も頬を赤くして春彦と同じような表情をしていた。

そこで恭也はある結論至った。

 

「なるほど……」

 

「な、何がなるほどなんだ…?」

 

「ふむ……単刀直入に言うと、付き合ってるのは莉子だな?」

 

「「なっ!?」」

 

「やはりか…」

 

「な、なんでわかったんだ?!」

 

「二人してそんな態度をとればいやでもわかる」

 

「うっ……」

 

「別に隠すようなことでもないだろうに…」

 

「でも、私たちってほら、一応義理とは言っても兄妹みたいな感じだし……変な目で見られるかなって」

 

「確かに世間的にはそう見られるかもな。 だが俺はその感情が本物であれば別に義理の妹だろうが姉だろうが関係ないと思っている」

 

「「……」」

 

「だからそれくらいで俺は二人を軽蔑したりはしないさ」

 

そう言って微笑を浮かべる。

 

「恭也って……なんていうか…大人だな」

 

「そうか? まあ、家族にはよく枯れてると言われるがな…」

 

「あ、あははは、確かにそんな感じするね……」

 

莉子は苦笑しながらそう言う。

それにつられて春彦も笑い出した。

恭也は莉子の言葉にまた憮然とした表情を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

「それで、俺たちの関係についてだけど……」

 

「黙っていればいいんだろう? 言われなくても言いふらしたりはしないさ」

 

「うん。 恭也お兄ちゃんだからそこの辺は信用できるんだけどね」

 

そこで恭也はそういえばと言って立ち上がり荷物のほうへ向かう。

そして数十秒後戻ってくると、片手には縦長の箱をぶら下げていた。

 

「これ、二人にお土産だ」

 

二人はなんだろうかと思い、礼を言ってその箱を受け取り蓋を開ける。

 

「あ、シュークリームだ」

 

「美味そうだな…」

 

「うちの店は洋菓子店を経営していてな。 それでうちの母がそれをお土産にと」

 

「ありがとうございますって伝えといてもらえるか?」

 

「ああ、今度伝えておこう」

 

恭也と春彦がそう話していると莉子が何時の間に席を立ったのか三つの皿と入れなおした飲み物を持ってきた。

そしてさらにシュークリームを一つずつ置きそれぞれの前に持ってくる。

 

「俺はいい。 甘いものは苦手でな」

 

「あ、そうなんだ…」

 

「でも、洋菓子屋の息子が甘いもの苦手ってどうよ…」

 

「いろいろとあったんだ…いろいろとな」

 

なぜか遠い眼をする恭也。

それに二人はなぜか聞いてはいけないような気がして聞かないことにした。

 

「じゃあ、このシュークリームどうしようか?」

 

「二人で半分ずつに分ければいいんじゃないか?」

 

恭也の提案に二人は頷きシュークリームを二つに割る。

そして各自に皿の上に置く。

 

「おい、莉子。 なんか俺の分小さくないか?」

 

「そんなことないよ。 ちゃんと均等になるように分けたよ」

 

「いや、確かに俺のほうが微妙に数ミリ小さい」

 

「いや、ミリ単位で言われても…」

 

「ということでお前のと交換しろ」

 

「もう、しょうがないな……」

 

そう言って莉子は春彦の皿のシュークリームの片割れと自分のを交換する。

恭也はその二人の会話を聞いて一言漏らした。

 

「これでは莉子のほうが姉に見えるな……」

 

それに春彦はぴたっと止まりかなり落ち込んだ。

莉子は恭也の発言に苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第一話は二人との再会でした〜。

【咲】 会っていきなり名前を間違えられるのは確かにへこむわよね〜。

そうですね〜。

【咲】 まああんたはその辺はなさそうだけどね。

まあね〜。

【咲】 というか間違えようが無いわよね。

なんかそこまで言われると俺の名前がありきたりみたいに聞こえる…。

【咲】 現にそうじゃない。

ひ、ひでえ……そんなはっきり言わなくても…。

【咲】 物事ははっきり言ったほうがいいのよ。回りくどいと逆に相手を傷つけることになるわ。

言ってることはとても良いことなのに、捉え方を間違っている気がする。

【咲】 そんなことないでしょ。 馬鹿には馬鹿と、執筆遅い奴には罵倒の嵐と鉄槌をしないのは相手に失礼よ。

いや、最後のはなんか違うよ…。

【咲】 うっさい!ぐだぐだ言わない!!

げばぁっ!!

【咲】 まったく男らしくない……ではまた次回会いましょう♪

 

 

 

 

 

 

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