朝五時。

恭也はいつもの起きるその時間に眼を覚ました。

周りは持ってきたものが少ないためかほとんど片付いていた。

恭也は軽く伸びをして布団から出ようとする。

しかし、そこであることに気づいた。

 

「そういえば人目につかない場所があるか聞いてなかったな……」

 

そう言った後、ならランニングだけでもと思い布団から出て鍛錬着に着替える。

そして布団をたたんで恭也は部屋から出た。

 

 

 

外へ出ると恭也は軽く柔軟をしてから走り出す。

まだこの土地について完全に把握しているわけではないので昨日通った道を走ることにした。

傍らに美由希がいないためか少しいつもより速いペースで走る。

 

「そういえば、昨日は中々に大変だったな…」

 

恭也は走りながら昨日のことを思い出す。

恭也を歓迎するために天海家では宴会なるものが開かれた。

メンバーはそこまで多いものではなく天海家の三人と春彦と莉子の幼馴染、そして山のほうにある研究所の女性だった。

ただ、メンバーこそ少ないが春彦と莉子、そしてその幼馴染である木之坂霧乃以外は少し癖のある人であった。

 

「まさか、ここでも酒を勧められるとは思わなかった……」

 

天海家の大黒柱である天海壮一はかなりの酒好きなのだが天海家では酒を飲んでいるのは壮一だけなのだ。

そのためそれほど強引ではないが飲ませようと勧めてくる。

恭也はそれをなんとか回避しつつ離脱しようとすると研究所の女性、近衛たまみが酒に酔ったのか絡んでくる。

そのため酒を勧められたまみには絡まられとある意味さざなみ寮を思い出すような宴会だった。

ちなみにそれを見ていた三人、春彦と莉子、そして霧乃はこれ幸いと恭也を生贄にして傍観を決め込んでいた。

 

「助けてくれてもいいだろうに…」

 

恭也はそう呟きながら走り続ける。

往復でそこまで掛からないため、今は二往復目に入っている。

そうでもしないと恭也としてはあまり運動にならないのだ。

 

「ふぅ……昨日の疲れが少し残っているな」

 

恭也は二往復目を終えると息を整えながらそう呟く。

そして整え終えると恭也は天海家のドアを開けて中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

黒衣の剣士の贈り物

 

第二話 転校初日 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよう、恭也お兄ちゃん」

 

「ん、ああ、おはよう」

 

恭也はそう返して部屋へと行く。

部屋に入ると鍛錬着を脱いで制服へと着替える。

まだ転校先の制服がないため、着替えるのは風牙丘の制服である。

制服に着替え終えた恭也は鞄を持ってリビングへと降りる。

 

「あ、恭也お兄ちゃん、お願いがあるんだけど」

 

「なんだ…?」

 

「お兄ちゃん起こしてきてくれないかな。 たぶんまだ寝てると思うから」

 

そう言って少し申し訳なさそうに言う。

ちなみに春彦と恭也の呼び方の使い分けはお兄ちゃんの上に名前をつけるかつけないかのようだ。

二人っきりのときは春彦と呼んでいるようだが。

 

「ああ、それくらいなら構わない」

 

「じゃあお願い。 普通に起こして起きなかったらどんな風に起こしてもいいからね」

 

「わかった…」

 

恭也はそう言うと春彦の部屋へと向かった。

春彦の部屋を前にし恭也はドアを軽くノックする。

 

「春彦、朝だ……」

 

返事はなかった。

恭也はもう一度ノックをして同じことを言う。

しかしまったく返事はなし。

恭也は軽く溜め息をついてドアノブを捻り中へと入る。

春彦は恭也の声などまったく聞こえていないというようにぐっすりと眠っていた。

恭也はそれに近づき春彦のベッドの前まで来ると少し本気で額にデコピンをかます。

 

「っ!?!?」

 

突然の額の痛さと驚きから春彦はがばっと起き上がる。

そして何事だというような視線で周りを見渡した後恭也へと視線を向ける。

 

「おはよう、春彦……朝だ」

 

「あ、ああ、おはよう……で、なんで恭也が俺の部屋に?」

 

「莉子に頼まれたからだ。……呼んで起きないから強行手段に出させてもらった」

 

「……で、何をしたんだ? デコが非常に痛いんだが…」

 

「デコピンだ……」

 

「デコピンってあんなに痛いものなのか?」

 

「さあな。 少なくとも俺のデコピンは痛いらしいな…」

 

「そんな手段で起こすのは止めてくれ……」

 

「起きない奴の自業自得だ。 今度から早く起きるように心がけるんだな」

 

恭也はそう言って部屋から出て行った。

恭也が出て行ったあと春彦は赤くなった額を擦りながら制服へと着替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

着替えた春彦がリビングに下りてきたところで朝食に入る。

今日はご飯に味噌汁と焼き魚と言ったごく普通の和食だ。

 

「ふむ、美味いな…」

 

「ほんと? そう言ってもらえると嬉しいな」

 

「まあ、莉子の家事能力はこの家では一番だからな」

 

「ほとんど何も出来ないあんたに褒められても嬉しくない…」

 

恭也は味噌汁を置き、ご飯を口に運ぶ。

春彦と莉子はなにやら言い合いをしていた。

そこで恭也は今気づいたかのように口を開く。

 

「そういえば壮一さんはどうしたんだ?」

 

「ん? ああ、親父ならもうすでに出たよ」

 

「早いな……いつもそんな感じなのか?」

 

「うん、だいたいそうかな」

 

「体を壊さなければいいがな…」

 

恭也はそう言いながら味噌汁を啜る。

 

「そういえば、たま姉に昨日聞いたんだろ、Giftのこと。 なんだったんだ、結局」

 

「ああ、聞いたには聞いたが結論はわからないだそうだ」

 

「そうなんだ……でもだったらどうするの? Giftを贈った人はもういないんだよね?」

 

「まあ、地道に調べるさ」

 

恭也はそう言って箸を置く。

 

「そういえば時間は大丈夫なのか?」

 

「まだ大丈夫じゃないか? 霧乃もまだ迎えに来てないし」

 

「ふむ…霧乃が迎えにくるのか」

 

「そうなの。 もうそろそろじゃないかな?」

 

莉子がそう言い終わると同時にチャイムが鳴る。

春彦はそれを聞いてすばやくご飯をかきこみ箸を置く。

莉子は茶碗等を流しにつけに行く。

莉子が戻って来たところで三人は鞄を持って玄関へと行く。

玄関を開けると門のところに霧乃が立っていた。

 

「あ、おはよう、春彦くん、莉子ちゃん、それに恭也さん」

 

「「「おはよう、霧乃(ちゃん)」」」

 

「春彦くんが普通に挨拶するのって珍しいね…」

 

「俺もたまには普通がいいんだよ」

 

「いつも普通にしなさいよ…」

 

朝の挨拶を済ませた一同は学校に向けて歩き出す。

 

「そういや、昨日の霧乃の慌てようは面白かったな」

 

「あ、あう……それは言わないで〜」

 

そう言って顔を真っ赤にする霧乃。

昨日、宴会の招待された霧乃だが伝えたのが春彦だったせいかその宴会がなぜ開かれるのかは知らなかった。

そしていざ霧乃が宴会のために天海家に来るとそのときに出迎えたのが恭也だった。

霧乃はなぜ春彦以外の男性が天海家から出てくるのか、そもそもその男性は誰なのかということでパニックに陥った。

恭也自身は霧乃に見覚えがあるような気がするのはっきりとは覚えておらず、パニックになっている霧乃にどう声をかけたものか悩んでいた。

そこで助け舟に現れたのが莉子だった。

莉子はとりあえず霧乃をあがらせ、恭也のことを霧乃に詳しく説明した。

それを聞いた霧乃ははっきり思い出したのか嬉しさ半分さっきの恥ずかしさ半分といった顔で黙り込んでしまった。

恭也は莉子の話を霧乃と聞いており、その結果霧乃のことを思い出したのだ。

 

「そういえば聞き忘れてたんですけど、恭也さんは私のこと怒ってないんですか?」

 

「怒る? なんでだ?」

 

「だ、だって私、恭也さんのことすぐに思い出せなかったし……」

 

「そんなこと気にしないさ。 現に俺もすぐには思い出せなかったんだからな」

 

霧乃はその恭也の言葉にほっと息をつく。

そんな会話をしながら歩いていると一同は学校の校門前まで来ていた。

 

「それじゃ、俺は職員室に行ってこないといけないから…」

 

「ああ。 でも案内しなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫だろう。 それに春彦たちも案内してる暇はないんじゃないか?」

 

「げっ……ほんとだ。 急ぐぞ、莉子、霧乃!!」

 

「あ、うん。 それじゃあね、恭也お兄ちゃん」

 

莉子はそう言うと春彦に続いて走り出す。

ちなみに霧乃は何か言う暇もなくあうう、とうめき声を漏らしながら軽く頭を下げて走り出した。

恭也はそれを見届けると職員室に向けて足を進めようとする。

 

「案内しなくてもいいといったが……どこにあるんだろうな」

 

足を止めそう呟く。

恭也はどうしたのものかと考える。

 

「適当に歩けばそのうち見つかるか」

 

と楽観的なことを言いながら恭也は歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第二話、前編が終了です!!

【咲】 今回は霧乃が登場したわね。

そうですね。正直宴会の回想を書こうかと思いましたけど。

【咲】 けど?

長くなるのでやめました。

【咲】 こんのあほっ!!

へぶっ!!

【咲】 めんどくさいで書かないってどういう了見よ…。

……

【咲】 ほら、黙ってないで何とか言いなさい。

……

【咲】 ……えいっ。

ひぎゃ!! ……痛いじゃないか。

【咲】 あんたが返事しないからよ。

だからって踏みつけることはないだろ。

【咲】 口答えするんじゃないわよ。 それとももう一回やって欲しい?

私が前面的に悪いです、はい……。

【咲】 わかればよろしい。 では今回はこの辺で。

また次回も見てくださいね〜ノシ

 

 

 

 

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