家を出た恭也はまっすぐに学園へと向かう。

普通の生徒が出るには少し早い時間なのか歩いている生徒はあまりいない。

だが、そのほうが恭也からしたら都合がよかったりした。

それはなぜかというと、他の生徒たちが登校している中で自分が歩いていると多数の視線(主に女子から)を向けられるのだ。

まあその視線は好意からものなどがほとんどだったりするのだが、元来鈍感朴念仁の恭也が気づくはずない。

そのためかその多数の視線に対して、どこか服装におかしなところでもあるのか、ということくらいしか思い浮かばない。

男子全員同じ制服なのだからそんなわけないのだが、それ以外思い浮かぶことがない恭也は、何なんだ、と首を傾げるだけだった。

だが、そんな状況がほぼ毎日のように続き、正直恭也は登校の際には居心地の悪さを感じていたりする。

そのため今日のような歩いている生徒が少ない朝早くというのは恭也にとってどこか足取りも軽くなる。

ならば毎日朝早く出ればいいのでは、とも考えるがそれだと家族とゆっくり朝ごはんというのができない。

さすがに一家の団欒の場でもあるそれを壊すのは恭也としても望むことではないので皆に合わせていつも出ているということだ。

 

「だいたいなんであんなに視線を向けられるのかがわからん……」

 

決して目立つ容姿でもないのに、と恭也は思っているがそれは大きな間違いである。

以前は少し近づきがたい雰囲気があったが、いろいろな出来事を経てその恭也を取り巻く空気と表情が以前よりも柔らかくなった。

それでなくても結構な人気(FCができるほどの)を持っていたのにそれでさらに人気が爆発的に上がってしまったのだ。

それはもう赤星派から恭也派に乗り換える者が出てくるぐらいに…。

 

「っと、着いたな……」

 

いつも向けられる多数の視線に関して考えながら歩いていた恭也はいつのまにか学園に着いていた。

といっても学園の門が見える付近まで来た、ということなのだが。

 

「ふむ……」

 

恭也は門の前で行われている持ち物検査を眺め見る。

視線の先には今日の担当と思われるショートの青髪をした女子生徒の姿があった。

その女子生徒は歩いてくる恭也の姿を見ると小さく頭を下げる。

 

「おはようございます、会長」

 

「おはようございます、大音さん」

 

「あの…前も言いましたけど、呼び捨てで構いませんよ? 学年は私のほうが下ですし」

 

「えっと、女性を呼び捨てにするというのは少し抵抗があるんですよ」

 

「はあ……そうなんですか。 なら仕方ないですね」

 

そう言って納得する女子生徒―大音渚に恭也は、はい、と鞄を差し出す。

それに渚は慌てて受け取り中を確認するとすぐに恭也へと返す。

鞄を返された恭也は、がんばってください、と小さく言って門を潜っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CONBOKU TRIANGLE

 

第一話 生徒会長と学園問題児

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也の通う学園、私立里見ヶ丘学園は多数の者が憧れる学園である。

その理由はいろいろあるが、一番強いのはこの学園の女子生徒の制服が可愛いということだろう。

その制服を見てこの学園を目指す者だっているくらいである。

だが、この学園に入るにはそれなりの学力が必要なため誰でも入れるというわけではない。

偏差値も高めでけっこう落ちる受験者も多いのだ。

恭也の家族曰く、そんな学園に恭也が入れたこと自体不思議でならないらしい。

まあそれも恭也自身不思議に思っているのだから誰も答えるものがいないのだが。

 

「おっす、高町」

 

恭也が教室に入ったと同時に目があった恭也の親友―赤星勇吾が軽く片手を挙げて挨拶する。

それに恭也は、おはよう、と小さく返して自らの席へに辿り着き、机に鞄を置く。

ちなみに朝早いためか教室にいるのは恭也と赤星を抜かして二人程度であり、そのどちらも机に突っ伏して寝ている様子だった。

それをちらっとだけ見た後、机の中に鞄から教材を出して入れる。

そして入れ終えた後は鞄を机横のフックにかけて自身も机に突っ伏して寝ようとする。

だが、恭也がそれらを終えるのを待っていたかのように赤星が近づき話しかけてきた。

 

「それにしてもどうしたんだ、高町。 今日はやけに来るのが早いみたいだけど」

 

「ああ……学園の門前で持ち物検査をやってるだろ? あれの担当が俺じゃないかと思って早めに出たんだが……」

 

「違ってた、と。 災難だな」

 

「いや、そうでもないな。 少なくとも登校時に関しては」

 

その言葉に赤星は首を傾げていた。

まあ恭也の登校時のあの視線のことを赤星は知らないので不思議に思うのも当然だろう。

 

「ま、いいか……でも、会長自身も持ち物検査の担当日があるのか」

 

「ああ。 まあ、普通はないんだがな」

 

「? ならなんで高町にはあるんだ?」

 

「俺からやると言ったんだ。 他の生徒会のメンバーがやっているのに会長だけが担当がない、というのは悪い気がしてな」

 

「真面目だな〜、高町は」

 

赤星はそう言って苦笑しながら思う。

生徒会のまとまりがいいのは恭也のこういう性格や人柄が皆にとても好意的に取られているからなんだな、と。

実際、会長である恭也は本来自身がしなくてもいい仕事も率先してやっていたりするのだ。

それも自身の仕事もこなしつつということなので生徒会役員すべてから信頼を受けている。

先代の生徒会長でもここまでの人物はいなかったため先生方の受けもよかったりする。

 

「で、赤星は朝練か?」

 

別に意図したものではないが、話題を変えるように恭也は聞く。

赤星は話題が変わったことを特に気にした風もなくそれに頷いて返す。

 

「ああ。 いつも通り朝練で汗を流してたよ」

 

「そうか。 だがそれにしては少し終わるのが早くないか?」

 

「まあな。 でも柔道部もあるし、あまり剣道部だけが道場を占領するわけには行かないだろ?」

 

「確かにな……」

 

恭也そう呟き柔道部という単語であることを思い出す。

一年前、この学園である生徒が起こした事件のことを。

恭也自身はそのときは武者修行に行っていたためその目で直接見たわけではない。

だが、他の生徒たちや教師たちからすると本来なら許しがたいことであったそうだ。

しかし、恭也はどうしてもそれが信じられなかった。

その事件を起こした生徒は恭也の知り合いだった。

知っているからこそ恭也はその生徒がそんなことをする奴ではないと思っている。

だが、教師や他の生徒はともかく事を起こしたその生徒自らやったと証言している。

本人自らの自白は何よりの証拠、というかのように学園のほとんどはその生徒を避けるようになった。

 

(どうにかできないものだろうか……)

 

実は、恭也はその事件の真相を知っていた。

なぜかというと、前生徒会長が残したマル秘ファイルにことの詳細が記してあったのだ。

だが、それを知るのは学園では当事者本人とファイルを見た恭也、あとは当事者とほんとに近しい者だけだろう。

その真相を明かせば、その生徒は身の潔白を証明できる。

だが、その生徒は真実を明かそうとはせず、現状を受け入れていた。

その理由も恭也も知ってはいるが、そればっかりはその生徒自身の問題なのでどうにもならない。

 

「高町?」

 

「ん、あ、ああ、なんだ?」

 

「いや、なんか難しい顔をしてたからな。 何か考え事か?」

 

「まあそんなところだ」

 

そう言って恭也はまた思考の中へと沈んでいく。

赤星はそれを邪魔せぬように静かに自身の席に戻っていった。

その後、チャイムが鳴って担任が入ってくるまで恭也は思考の中から戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が流れ、四限目終了のチャイムが鳴る。

そのチャイムにいつも通り授業を寝て過ごした恭也は目を覚ます。

ちなみに恭也の左隣の席にいる女子生徒―月村忍は今だ夢の中だったりする。

 

「高町くん……また寝てたのね」

 

目を覚まして軽く欠伸をする恭也に右隣の席にいる女子生徒―下柳沙希が呆れたような声でそう言う。

 

「ん、ああ……どうも英語の授業というのは睡魔を誘ってな」

 

「にしては午前中ずっと寝てたみたいだけど?」

 

「あ〜……まあ、あれだ、この陽気だしな」

 

「はぁ……あなたと忍にも困ったものね」

 

そう言って沙希は溜め息をつく。

恭也はそれにバツの悪そうな顔をして話題を変えようとする。

だが、それを許す沙希ではなかった。

 

「生徒会長としてはとても優秀なのに、どうして普通の学生としてはそんなに不真面目なのかしらね」

 

「いや、だが、午後のほうは一応起きてるわけだし……」

 

「それが当然なのよ。 そもそも学生の本分は勉学にあるのよ? それを皆の代表ともいえる生徒会長自身がそれじゃあ皆に示しがつかないわ」

 

「う……」

 

正論を述べる沙希に恭也は何も言えずたじたじである。

まあ沙希がここまでずばずばと言うのは自身の真面目さもあるが、生徒会長である恭也を信頼しているからこそ言うのであろう。

副会長である沙希はよく恭也と遅くまで仕事をすることがあるため、恭也の生徒会長っぷりはよく理解している。

だが、それがわかっているからこそ普通の学生としての恭也が如何に不真面目であるかを理解せざるを得ない。

だからこそ、恭也に生徒会長である以前に一生徒であるということを説き、勉学に対しても真面目にしてほしいと思っているのだろう。

 

「そ、それなら俺だけじゃなくて忍にも言うべきじゃないか?」

 

このまま沙希の説教が続くと昼食を食い逃す可能性がある。

そのためか、恭也は忍へと沙希の説教の矛先を変えようと試みる。

実は忍も生徒会で沙希と同じく副会長というポストについていたりする。

二人の副会長、というのは前代未聞だし普通は認められるものではない。

だが、なぜか立候補して認められる辺り作為のようなものを感じざるを得ない。

 

「そうね……確かに忍にも言わないといけないわね」

 

恭也の思惑どおり沙希の矛先は忍へと変わる。

自身の席から立ち上がり忍の傍へと行く沙希にほっと安著の溜め息をつき鞄の中から弁当を取り出して恭也はそそくさと教室を出て行った。

恭也が出て行った後の教室では、沙希によって起こされた忍の休み時間の間延々と説教を受けている姿が見られたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室を出て食堂へと辿り着いた恭也は開いている席を探す。

だが、やはりというかで遅れたせいで食堂には空いている席が一つも見当たらない。

どうしたものか、と恭也は弁当片手に席を探しながら食堂内を歩き回る。

 

「む……」

 

しばらく歩き探していると昼食を終えたと思われる生徒がトレイを持って立ち上がった。

恭也は空いたその席に座ろうとそこに近づいていく。

その際にトレイを持ったその生徒と擦れ違い、あることに気づく。

 

(ずいぶん残ってるのに、もう腹一杯なのか…?)

 

その生徒のトレイには半分近くがまだ残されていたのだ。

それに生徒は男子であるためそのくらいの量で腹一杯であるということに、少食なのかな、と思う。

だが、その考えは間違いであるとその席に辿り着いたときわかった。

その生徒の隣にいたグループの中にいた人物、それがおそらくはその生徒が食事途中で席を立った理由なのだと理解した。

 

「ここ、いいか?」

 

ちょっとだけその生徒に腹を立てながら恭也はそのグループ、というよりもそのグループの中心と思われる人物に聞く。

 

「ん、ああ……て、恭也?」

 

その人物―黒澤透は頷くと同時に声を掛けてきた恭也に若干驚く。

恭也はそれに小さく頷きながら席に座り弁当の包み開く。

 

「あ、恭也くん、久しぶりだね〜」

 

透の隣にいる女子生徒―三瀬綾菜は若干のんびりとした声でそう言ってくる。

恭也はそれに苦笑しながら頷いて返し、二人の目の前にいる二人の人物に不思議そうな顔を向ける。

 

「えっと……誰?」

 

「透、こちらの方は?」

 

二人の声がほぼ同時に透に向けられる。

透はそれに若干困った顔をして順に紹介していく。

 

「あ〜、こいつは転入生の神無月真帆だ。 で、真帆、この人は俺たちの一年先輩で生徒会長の高町恭也だ」

 

「ふむ……転入生が入ったとは聞いていたが透のクラスだったのか。 あ、高町恭也です、よろしく」

 

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

丁寧に挨拶する恭也に真帆も慌てて返す。

と、そこで真帆の隣にいる人物からある意味悲痛な声が放たれる。

 

「せ、先輩、俺は無視ですか!? 俺の存在はスルーですか!?」

 

「はぁ……芳宏、いったい何をしてるんだ?」

 

敢えて無視したかったがそうもいかず恭也は尋ねる。

声を放った人物―小松芳宏は顔を苦悶に歪めながらも待ってましたとばかりに喋りだす。

 

「き、聞いてくださいよ! こいつら、俺に昼飯を買いにいかせた上に任務を完遂してきた俺の席は確保してなかったんですよ!? しかも昼飯俺のおごり扱いになってるし!」

 

「ふむ……それでそんな状況になっている、というわけか」

 

芳宏の状況、それは一言で言えば空気椅子である。

椅子がない場所でわざわざ座る姿勢をして昼食をとっているのだ。

しかも昼食始まってからということで限界が来ているのか足はプルプルしておりかなり苦しそうな表情をしている。

芳宏の訴えにそういうことかと呟き素知らぬ顔で昼食を取ろうとする。

 

「いや、スルーしないで! お願いだからこいつらにビシッと言ってやって! いや、言わなくてもいいから椅子を!椅子を!!」

 

「といってもな……椅子はあるのか?」

 

「いや、ないな」

 

「ないね〜」

 

「……だそうだ」

 

「ノーーーーー!!!!」

 

叫びながらも食べるものはちゃんと食べてるあたり慣れているのだろう。

まあ、そんな芳宏を無視する方面に決めた恭也は昼食を再開する。

食事を再開する恭也に透はさっきから気になってたことを口にする。

 

「でもいいのか? 恭也が俺みたいな奴と一緒に飯なんか食って」

 

「そ、そうだよな。 超問題児の透と生徒会長の先輩が一緒に飯食ってるなんて体裁が悪いしな」

 

「お前は黙ってろ」

 

「や、やめて! うどんにソース入れないで!! ぎゃーーーー!!」

 

素うどんにたっぷりとソースをかけられ芳宏は真っ白に燃え尽き倒れる。

ぱたりと地面に倒れる芳宏を一同はスルーしつつ会話を再開する。

 

「で、いいのか? 芳宏が言ったとおり体裁とか悪いんじゃないか?」

 

「そうかもしれんが、体裁なんかを気にして友人を避けるということを俺はしたくないからな。 それに過去に何があろうと透は透だと俺は思ってる」

 

「あ〜……そうか」

 

透は恭也の言葉に少し恥ずかしそうにする。

それを見て綾菜はニコニコと笑みを浮かべており、真帆は恭也の発言に関心を抱いていた。

芳宏は……まあ変わらず燃え尽きて倒れている。

 

「ん、では、俺はそろそろ失礼する」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあね〜」

 

昼食を取り終わり、そう言って立ち上がる恭也に透と綾菜はそう言って見送る。

二人の声を背に恭也は食堂を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

firemanさんのキリ番リクエストでした〜。

【咲】 キリリクは初めてよね。

そうだな。 初めてキリ番報告受けてもう感激ですよ!

【咲】 で、リクエストはこんとらの続き、ということね。

そうそう。 大体の構想は出来てたんだけどけっこう難産だった。

【咲】 それでもちゃんと書いたのね。

まあね。 リクエストを貰ったんだから書かねば!という気力が出まして。

【咲】 その気力をいつも出して欲しいけどね。

う……ま、まあそれはそれだよ。

【咲】 はぁ……。

うぅ……。

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

firemanさん、リクエストありがとうございました〜!!

【咲】 じゃあね〜ノシ

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

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