時間は放課後、場所は生徒会室。

その時間その場所で、恭也は円陣に組んだ横長の机の出入り口とは反対側のちょうど中央の席に座っていた。

そしてその右横には副会長である沙希が座っており、反対の左横には同じく副会長の忍が座っている。

さらにはその三人の前、円陣に組まれた机を囲むように各クラスの生徒会委員が座っていた。

この様子からつまるところ何が行われているかと言うと……。

 

「それでは、これより文化祭に向けての話し合いを始めたいと思います」

 

ということである。

里見ヶ丘学園の文化祭、それが来月の始めあたりに開催されるため生徒会のメンバーはこうして会議をする。

といっても大部分は毎年変わらないし各クラス何をするかと言うことが決まっている今、問題となることは特にあるわけではない。

だが、特にあるわけでもないのにその日の会議はかなり長引いた。

 

「だから、今度の文化祭は予算を多めに使っていつ盛り華やかにすべきだ!」

 

「そんなことをして他の行事で予算が足りなくなったらどうする気だ! ここはいつもより予算を少なめにして他の行事に手をかけるべきだ!」

 

つまるところ何で長引いているかと言えば、見ての通り予算に関してのこと。

しかも予算が足りないとかそういったことではなく十分にある予算をどのように使うかということで揉めていた。

以前と変わらない文化祭をしても楽しめないから予算を多めに使って以前より盛大に、というのが一方の意見。

そしてそんなことをすれば文化祭以降の行事予算が足りなくなるからいつも通り、もしくはより予算を少なめにする、というのがもう一方の意見。

この二つの意見は最初は言い合っていたのが二人だけだったのだが、言い合っているうちに各意見に賛同する者が出てきた。

そのため現在に至っても決まることがなく、言い合いは激化の一途を辿るのみになっていた。

 

「はぁ……」

 

そんな中で一人だけ(恭也と沙希と忍を除いて)、どちらの意見にも加わらずつまらなそうに溜め息を吐くものがいた。

その人物とは生徒会委員でもなく本来生徒会や執行会に目を付けられている問題児、黒澤透だった。

なぜ生徒会委員でもない彼が会議の席にいるのかと言うと、簡単に本来来るはずだった者の代理として担任に選ばれたからである。

本人はかなり嫌がったのだが、すでに伝えてしまったと言うこともあってこうしてかなりやる気なさげな態度で参加している。

 

「「……」」

 

そんな透を恭也と沙希は違う意味合いの視線で見ていた。

沙希は透のそんな態度を責めるようなどこか冷たい視線。

そして恭也はやる気ないといった感じを出しているのに、相変わらずだな、というような視線。

ちなみに忍は何か別のことを考えているのか委員たちの言い合いをまるで聞いていない様子で座っていた。

そんな二人の視線に透は気づいているのかいないのか、態度を崩すことなくずっとそんな感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CONBOKU TRIANGLE

 

第二話 透と沙希

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激化を辿るだけの話し合いはあれ以降も終わることはなかった。

どちらも意見を譲らず、相手の意見のデメリットなどを上げて批判し、言い合いは激化するのみ。

さすがにそんな状況に見かねた沙希と立場的に書記に位置している大音渚が口を出しはしたが結果的に意味を成さずだった。

そしてまたしばらく言い合いは続き、時間的にもそろそろ押してきているということもあり沙希は仕方なく多数決で決めるという提案を恭也にする。

それに恭也も同じく仕方ないなというような感じで頷き、賛成の多かったほうの意見で文化祭を進めるという方向に決まった。

 

「では、予算を多く使って華やかに、という意見に賛成の方は挙手をお願いします」

 

渚の言葉に委員の何名かが次々に手を挙げていく。

その手を挙げた委員の数を数え、渚は挙げた人に手を下ろすように言う。

 

「いつも通り、もしくは予算を少なめにして他の行事で、と言う意見に賛成の方は挙手をお願いします」

 

次に口にしたその言葉に先ほど挙げなかった委員たちが手を挙げていく。

その手を挙げた人数を渚は数え、不思議そうに首を傾げてもう一度数え始める。

だが、数え終わった後に、あれ、と言ってまたも不思議そうに首を傾げてしまう。

 

「どうかしましたか?」

 

「あ、えっと、各意見に対する賛成数が同じになってしまって…」

 

困ったようにそう言う渚に恭也は、ふむ、と小さく呟いてある一点に視線を向ける。

その視線が捉えている方向に皆が同じく視線を向けると、そこにあったのはやる気なさげな透の姿だった。

 

「透、お前はどっちの意見に賛成なんだ?」

 

恭也のその言葉で渚を含めほとんどのものがどういうことか理解する。

本来生徒会の人数は奇数になっているため多数決をすれば必ずどちらかの意見に決まる。

それが決まらなかったということはどちらにも挙げていないという者が存在するということなのだ。

そのどちらにも挙げていない者を恭也はちゃんと見ていたためそう聞いたのだ。

唯一挙げていない人物が透だと知り、意見を上げた二人は自身の意見を推奨するようなことを言いながらどっちかと詰め寄る。

そして透の答えを待つように場が沈黙する中、透は態度を崩さずめんどくさそうに口を開いた。

 

「どっちでもいいだろ、そんなもん」

 

開いた口はそうただ一言だけ紡いで閉じられた。

その透の言葉に一同が呆気に取られる中、唯一呆気に取られなかった一人である恭也が再度聞く。

 

「それはどういうことだ?」

 

「どうもこうも、そのまんまの意味だよ。 俺は生徒会の人間じゃないから生徒側をして言わせてもらうけど、要はその文化祭が楽しければ問題ないだろ。 予算が多かろうが少なかろうがな」

 

「ふむ……」

 

透の意見に恭也は呟いて顎に手を当てて考えるような仕草をする。

それとはまた別に横にいる沙希は透を非難するような視線をし、忍は納得したような笑みを浮かべていた。

そしてそれ以外の者が今だ呆気に取られ沈黙する中、透は居心地の悪さを感じたのか、それとも別の何かか席を立って生徒会室を出て行った。

 

「中々面白いこと言うね、黒澤くんって」

 

「そうだな。 楽しければいい、か……確かにその通りだな」

 

「たか…会長に副会長まで、あんな勝手な意見に何を言ってるんですか」

 

「だが結局のところはそれが一番なのは確かだ。 予算を多く使おうが少なく使おうが生徒たちが楽しくなければ意味はない」

 

「ですが……」

 

恭也の言葉に沙希は言い返せず言葉に詰まる。

ある時期から透を毛嫌いしている沙希からしたらあの発言は身勝手極まりないものなのだ。

故に反発し、反論したいが恭也の言うようにもっともな意見であるため反論することができない。

それに少し悔しそうな顔をする沙希に二人の関係と事件の全貌と真相を知る恭也は静かに口を開く。

 

「下柳が透を嫌うのはしょうがないとして、まともな意見を言ったときくらいは認めてやってもいいんじゃないか?」

 

「……」

 

「公私混同はしないと下柳は言っているが、それならば尚更そうすべきだと思うぞ」

 

恭也は俯き黙り込んでしまった沙希にそう言うと時間も遅いということで渚に会議を終わるように告げる。

それに渚はなぜか慌てたよう発する終わりの一言で会議は終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わり、委員たちのほとんどが帰宅した後も恭也と沙希は簡単な雑務のために残っていた。

本来なら忍も残ってすべきことがあったのだが、何やらやりたいことがあるらしく委員たちが帰るどさくさに紛れて逃げ出してしまった。

まあ忍に関しては翌日あたりにでも二人からお説教を受けるのだが、そんなわけで現在生徒会室に残っているのは恭也と沙希の二人だけだった。

二人は席に座りながらもくもくと文化祭に関する書類の整理を行い、日が沈んで暗くなり始める頃にようやく終わったのか纏めた書類をトントンと整えて疲れたように溜め息をつく。

 

「ふぅ……これで終わりか?」

 

「ええ。 お疲れ様、高町くん」

 

沙希は恭也から書類を受け取りそう言って生徒会室にある棚の中にそれをしまう。

恭也はそれを見つつ肩を回して立ち上がり、自身の鞄を手に持つ。

沙希も書類をしまい終えて同じく鞄を持ち、二人は生徒会室を後にして下駄箱へと向かう。

 

「高町くん……」

 

「ん…なんだ?」

 

「高町くんはどうして透と普通に接することができるの?」

 

「どうして、とは?」

 

「透のしたことを私は許せない……なのに、高町くんはまるで何事もなかったように普通に接してる」

 

「……」

 

「許せなくないの? 透の友達として、透の兄的な立場として…」

 

沙希にはそのことが前から不思議でならなかった。

恭也は沙希と同じくらい透と接してきた時間が長く、それもあってか透はどこか恭也を兄のように見ているところがあった。

そして反対に恭也も透を弟のように接していたため、昔の二人は時折沙希が妬いてしまうほど仲がよかった。

故に、その弟のような存在だった透が一年前の事件を引き起こしたことに許せなくはないのか。

それが沙希にとって不思議でならなかった。

 

「そうだな……確かに何事も暴力で解決しようというのはいけないことだ」

 

「だったら――」

 

「だが、俺は透があんな理由で暴力を振るう奴だとは思っていない。 だから、今まで通りに接することができるんだろうな」

 

沙希の言葉を遮って放たれた言葉は沙希を驚きの表情を浮かべる。

あれだけの事件を起こした透をまだ信じることが出来る恭也に驚くしかなかったのだ。

 

「でも、あれは……」

 

「確かに透はあの理由を肯定した。 だが、だからと言ってそれが真実とは限らない」

 

「真実とは、限らない……?」

 

「ああ。 もしかしたら何か透自身、もしくは他の何かに理由があって認めざるを得なかったのかもしれない。 そう考えることもできる」

 

それは透と接してきた時間が長いからこそできる考え方。

故に沙希にも本来ならばこういう考えを持ち、透を信じて普通に接し続けるべきだった。

だが、沙希にはできなかった。

それは透の姉であり、透と接してきた時間が長いためにできる恭也とは逆の考え方故だった。

そんな沙希の思いを知っているからか、恭也は静かに言い続ける。

 

「もう少し、歩み寄りというものをするべきだな。 透に対しても、自分自身に対しても」

 

「どういう、こと……?」

 

「さあな。 そればっかりは自分で考えるしかない。 そうでなければ意味がないからな」

 

敢えて突き放すような言い方をし、恭也は沙希に自身で考えさせるようにする。

そして沙希が俯いてしまう中、二人はいつの間にか帰宅路の分かれ道に辿り着いていた。

そこで今だ俯いている沙希に恭也は先ほどと同じように静かに優しく告げる。

 

「時間はまだある。 だから、考えを焦る必要はない。 ゆっくりと考えて、ゆっくりと悩んで、それで答えを出すといい」

 

「ええ……」

 

「じゃあまた明日だ、()()

 

名前で呼んだことに沙希は俯いていた顔を上げる。

だが、呼んだ本人はすでに沙希に背を向けて歩き出していた。

 

「……」

 

いつの頃からか、恭也は沙希を名前では呼ばなくなった。

元々女性に対して苗字で呼んだりさん付けで呼んだりとする恭也が呼び捨て名前で呼ぶのはほんの少しの人間だけ。

忍や透、綾奈もその中に含まれており、沙希もそのうちの一人だった。

だがいつからかは沙希自身も覚えてはいないが、恭也は沙希を名前で呼ぶことはなくなった。

何があったのか理由はわからないが、そのときはもう昔のように呼んでくれないことに悲しみを抱いたこともあった。

しかしそれも過去の話、今では苗字で呼ぶことが定着してしまい、もう悲しみも違和感も抱くことはなくなった。

そんな忘れ去られた今になって、沙希を昔のように呼んだことに今度は違和感を感じてしまう。

そんな違和感を感じながらも、沙希は恭也の歩いていった方向を見ながら一言……

 

「じゃあね……恭也(・・)

 

口にすることがなくなった名前を呟いて帰宅路を歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

iremanさんのキリ番リクエストでした〜。

【咲】 リクエストしてから書くまでが遅いわよ。

しょうがないだろ。 あの間でいろいろあったんだから。

【咲】 まあ今回ばっかりはほんとにいろいろあったみたいだからいいけど……次はこんなことがないように。

わかってるって。 しかし、第一希望を書くことが出来なくてほんと申し訳ない。

【咲】 まったくよね。 せっかくのキリリクの第一希望が書けないなんて……情けない。

うう……反論できません。

【咲】 まあ、こいつの制裁は後でやっておきますのでこれが許してくださいね♪

うう……。

【咲】 にしても、なんか恭也にいろいろとあります間抜群な話ね、今回。

まあな。 実際いろいろあるわけだけど……まあ明かされるのはまだ先だな。

【咲】 まあ先なのはいいけど、更新速度遅すぎよ。

それは……まあそれということで。

【咲】 はぁ……。

そ、それじゃあfiremanさんキリリクありがとうございました!!

【咲】 じゃあまた次回会いましょうね〜♪

 

 

 

 

 

 

 

 

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