僅かに時間が経ち、追われる身だった大樹は学園に保護されることとなった。

それと同時に彼の目覚めた場所、浜辺にて出会った少女――アリシアも同じく保護されている。

学園の制服を着ているが学園に籍はなく、本人に聞こうにも記憶喪失なために聞くことが出来ない。

そんな困った少女はすり込み現象と言うかのように大樹に懐き、それ以外の者相手では僅かにオドオドしている。

だから保護しても大樹から離れず、本当なら個人的に話を聞きたいところを仕方なく一緒でということになった。

しかし、話を聞くために学園へと入ろうとした矢先、森のある方面から瓜二つの容姿をした少女二人が駆け寄ってきた。

 

「はぁ、はぁ……せ、先生! さっき、侵入者だと思う人を見つけました!」

 

白い髪留めをした少女が駆け寄ると同時に発した言葉で、大樹とアリシアの前にいる先生と呼ばれた二人の顔色が変わる。

その内の一人である髭を生やした老人は特に神妙な顔つき、伝えられていく侵入者の特徴にふむぅと何かを考え始める。

しかし、老人が二人の少女に何かを返すよりも早く、伝えられた特徴で誰なのかに思い至った大樹が途端に声を上げる。

 

「そ、それって、もしかして……」

 

「なんじゃ小僧。その侵入者の事を知っておるのか?」

 

尋ねてきた老人に大樹は僅かに言いよどむが、別に不味いことではないと判断して話し出した。

その侵入者が自分の友人であるという事、妹に伝えなければならない事があるために無理を言って同行してもらった事。

そして先ほどの大海原で起きた竜巻にて共に巻き込まれ、島についたときには離ればなれになってしまった事。

ここに至るまでの全てをその場にいる者たちに包み隠さず話した。すると、老人の顔つきはまた更に変化する。

 

「なるほどのぉ……ならば、その者たちも捕まえねばならぬな。下手に野放しにして問題を起こされても厄介じゃし」

 

なぜかニヤリと言える笑みを浮かべた老人。それははっきり言ってよからぬ事を企んでいるとしか思えない。

現にこの老人と初めて浜辺で遭遇したときも大樹は魔法の乱撃を受け、かなり酷い目にあったという現実が存在する。

だからこそ言える。このまま老人を追跡に放てば彼らは無事では済まない……特に、男である恭也は一番被害を食う。

故に大樹は捜索のために歩き出そうとする老人を呼び止め、自分も同行すると告げた。

 

「小僧が追っても邪魔なだけじゃ。大人しく学園で待っておれ」

 

「そんな邪悪な笑みを浮かべて言われたら、尚更アンタ一人で行かせるわけにはいかないだろうが……」

 

「安心せい。相手の出方次第ではちゃんと手加減もしてやるわい」

 

「安心できるか!!」

 

話し合いで解決する気ゼロな発言に突っ込む大樹。そして困った顔をする周りの面々。

結局その後、老人がしぶしぶ同行を認めた事により大樹は付いていくことになった。

そしてその際、大樹から離れないアリシアと大樹と同様に恭也と面識のある妹の小雪の二人も同行する事になった。

残りの面子で自分も行くと言う者はいたが、普通の学生は今授業時間なために敢え無く断念させられた。

そうして結果的に彼ら四人で捜索する事となり、それが決まると共に彼らは森の方面へと歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MagusTale B.N〜蒼き夜に輝く世界樹〜

 

 

第一話 異端の魔法使い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森へと差し掛かった四人はとりあえず一箇所に固まり、老人――ボガードの後を追うようについていく。

森の中は先ほどのように光の粒子は立ち上っておらず、風が草木を凪ぐ音だけが辺りを包み込んでいた。

そんな中でただ森を一点に向けて進むだけのボガードに大樹は僅かに不信感を抱き始める。

居場所が特定出来るとは思えない現状で居場所が分かるかのようにただ進むだけ、普通に見たら適当に進んでいるようにしか見えない。

だからこそ不信感を抱くのは仕方の無いこと。そしてそんな状況がしばし続いて我慢できなくなったのか、大樹は口を開いた。

 

「おい、爺。さっきから何の迷いも無く進んでるけど、居場所が分かってて進んでるのか?」

 

「ふん、当たり前じゃ。お主みたいなボンクラには分からんじゃろうが、ちゃんと探索魔法で居場所を割り出しておるわ」

 

「ボン――……く、我慢……我慢だ、俺」

 

口は悪いが彼は彼なりにちゃんとやることをやっている。だから大樹もどうにか怒りを抑える。

というかここで殴りかかってもどうせ返り討ちに合うだけなため、我慢するのは自分の保身のためでもある。

そんな彼をボガードは鼻で笑って一瞥し、正面へ向き直ると共に独り言のように呟く。

 

「それにしても妙じゃの……如何に生徒には探索魔法が使えぬとはいえ、あれだけ大々的に動いて目撃者がたった二人とは。もう少し多くても良いものなんじゃがのぉ」

 

ボガードが学園関係者の全員に向けて放った緊急連絡により、生徒は全員捜索に動いた。

それによりこの島全域、街や森、浜辺などの全てにおいて生徒は探しに出ているため、見つからずに逃げるのは困難。

現に大樹とアリシアも森の中で何度も見つかりながら逃げていた。だから、彼らも本来ならば同じでなければならない。

なのに恭也たちに関しては二人の少女以外には見つかっていない。これは明らかに普通であるとは考え辛かった。

 

「そういえば、恭也さんって隠れたりするの上手かったよね。ほら、ずっと前にかくれんぼしたときも……」

 

「ああ……そう言われりゃあのときも最後まで見つからなかったなぁ、アイツ」

 

アリシアとは反対にて歩く小雪の一言に大樹もその当時を思い出し、納得とばかりに頷く。

初めて大樹と小雪が恭也と会ったとき、幼い小雪にせがまれてやった代表的な子供の遊びであるかくれんぼ。

それにて小雪と恭也が隠れる側になったのだが、小雪はすぐに見つかっても恭也だけが見つからなかった。

範囲を大きくしすぎたというのもあるだろうが、それでも二人係で探して見つからないのはある意味凄い事だと言えた。

そんな幼い頃を思い出したからか、大樹と小雪は恭也が現在見つからないことに何となく納得してしまう。

 

「だとしても限度があるわい。当時はおぬしら二人、今回は学園の生徒全て……規模からしてこれは異常じゃろうて」

 

同時にボガードの言う事にも納得出来てしまうのはある意味仕方の無い事だろう。

今は探索魔法を使ったからこそ居場所が分かるが、先ほどは使わなくても人数が今の何十倍もいた。

だから探索魔法を使わずとも見つからないほうが不思議。それが如何に隠れ上手な人であったとしてもだ。

 

「まあ、それももう先ほどまでの話じゃがの。ワシが動いたからには逃げ果せる事は不可能じゃて」

 

そう言うと共に突然足を止めるボガード。そして視線は正面から僅か上へと移動する。

その視線を追って一同も上を見上げると、そこには――――

 

 

「うえ、見つかった……」

 

――幼い少女を背負った一人の青年が木の枝の上に立っていた。

 

 

彼らこそが目的とされる人物……恭也とリースであった。

リースは見つかった事に驚き半分嫌そうな顔半分といった感じ。だけど恭也はまた別の表情を浮かべている。

それは自分たちの居場所を探り当てたボガードに対しての警戒を浮かべた、そんな表情であった。

そしてそんな表情のまま、見つかった故に恭也は枝から飛び降り、四人の前へと降り立った。

 

「ほう……小僧の友人じゃと言うからどんな奴かと思えば、中々に良い面構えをしておる」

 

「……おい、それは遠まわしに俺が間抜け面だと言ってんのかよ」

 

大樹の言葉を華麗にスルーし、ボガードは観察するように恭也と背中から顔を覗かせるリースを見る。

それにどこか怯えるように顔を更に隠す彼女を前に、ボガードはふむふむと納得したように頷き笑みを見せる。

 

「中々に可愛い子じゃのぉ。これは将来、美人になること間違いなしじゃな」

 

「やっぱり最終的にはそこか……ていうか、そんなにジロジロ見るなよ。怖がってるだろうが」

 

その一言で彼は僅かに名残惜しそうにしながらも視線を恭也へと戻した。

視線が移り変わる間も恭也は逃げる手を考えていたが、ボガードが観察している間も彼には隙が無い。

それは明らかに老人とは思えないもの故、恭也の警戒心もより強く表情に表れる。

彼のそんな表情を見たアリシアは怯えたのか大樹の後ろに隠れ、大樹と小雪は不味いと思い説得を試みる。

 

「そ、そんなに警戒しなくても大丈夫だって! 俺たちは別に手荒な事をしに来たんじゃなくて、ただ恭也たちを保護しに来ただけだから!」

 

「そ、そうそう! だからさ、二人とも安心して――」

 

「そこのご老人は二人の言うように見えないんだが……?」

 

「「へ(え)?」」

 

指摘されて二人はボガードのほうを見ると、あろうことか彼は魔力を放出し始めていた。

加えて魔法行使に必要な彼の使い魔たる鴉を肩に顕現させ、その鴉は主人に触発されてやる気満々のご様子。

それは大樹が危惧した光景。女の子には手を出さないのに、男には率先して手を出す彼の悪い所。

しかも大樹のときは違って捕獲という明確な目的があるのにも関わらず、明らかにぶちのめす気満々であった。

 

「ま、待てじじ――」

 

「ほっ!」

 

不味いと思い、いち早く止めようとした大樹の声よりも早くボガードは鴉を彼に向けて飛ばす。

飛翔した鴉は飛ぶと同時に口から炎弾を連続して放ち、恭也はそれに対して即座に回避行動を取る。

だが、森の中故に動きが僅かに制限され、回避するにしても相手の動きが速くて困難極まる。

 

「くっ」

 

「わきゃああ!」

 

加えてリースを落とさないように背負いながらの回避なため、難しさが更に増している。

しかしそんな彼にお構いも無く鴉は木の間を縫って飛び、通り過ぎては旋回を繰り返して炎弾を放ち続ける。

対してボガードは彼のその動きを観察しながら、僅かに感嘆の息を漏らしていた。

 

「ほうほう、中々やりおるわい。この行動が制限された森の中であそこまでの動きを見せるとは、やはり只者ではなかったということじゃな」

 

「って、んなこと言ってるないでアレを止めろよ爺! 恭也もそうだけど、リースちゃんまで怪我したらどうすんだよ!?」

 

「阿呆……ワシが女子に怪我をさせるようなヘマをするわけがないじゃろうが。ちゃんと的確にあの小僧だけを狙っておるわ」

 

「それもそれで問題なんだよ!!」

 

突っ込みを律儀に入れながらも止めようとするが、ボガードが攻撃を止める気配はない。

それどころか飛び回る鴉の攻撃頻度は更に増し、徐々にではあるが恭也を追い詰めていっていた。

 

「っ……止むを得んか。リース!」

 

「ふえ?」

 

名を呼ばれた本人は恭也の意図が読めず、呆け顔で間の抜けた声を返してしまう。

だがそんな彼女に一から説明している暇もないためか、恭也は即座に思い描いた行動へと出ることにした。

未だ呆けているリースを上空に放るように投げ、幼い故に軽い身体はかなり高くまで舞い上がる。

そうして彼女が再起動して悲鳴を上げる中、恭也はポケットから蒼色の宝玉を取り出した。

 

「オリウス、セットアップ!」

 

Yes, my master!》

 

光り輝く宝玉が幾多のパーツを組み上げて一つの剣となり、同時に恭也の格好も瞬時に変わる。

黒いシャツとズボン、黒いコートという全身黒尽くめのバリアジャケット。彼の魔導師としてのスタイル。

それに移り変わると同時に飛来する炎弾を切り裂き、悲鳴を上げながら落ちてきたリースを受け止める。

 

「い、いきなり何するのよ!? すっごい怖かったじゃない!!」

 

「いや、ああするしか手がなくてな……とりあえず、すまなかった」

 

ぎゃあぎゃあと腕の中で喚くリースを宥めつつ、ゆっくりと地面へと下ろす。

その間で鴉の猛攻は止まっていた。なぜなら、操作する側であるボガードが驚き余りに固まってしまっているから。

彼だけに関わらず、大樹も、アリシアも、小雪も、そこに存在する全ての人間が一様に驚きを浮かべていた。

 

「ラピス、じゃと……」

 

「そんな……なんで恭也さんが。あれはこの島だけにしかないはずなのに……」

 

大樹とアリシアは純粋に先ほどの現象を驚いているだけ。

だけどボガードと小雪は別に、恭也が展開したデバイスをラピスと呼んで驚きの眼で凝視していた。

そんな目の前の現象に驚くしかない四人に対し、ようやくリースを宥め終えた恭也は刃の切っ先を彼らに向ける。

それにいち早く我に返ったボガードは鴉を肩に呼び戻し、切っ先を向けられつつ正面から彼を見据える。

 

「まだ、やりますか? こちらとしては無用な戦いはしたくないのですが……」

 

「……はっ、若造が言いおるわ。無論、お主を叩きのめすまでやるに決まっておるじゃろうて」

 

女好き、素直じゃないという部分に加え、負けず嫌いな一面があるボガード。

そんな彼にこのような言い方をすれば当然こう返るのは当たり前。それ故か、恭也ももう何も返さない。

彼が再び鴉を飛び立たせようと身構える中で彼も切っ先を向けたまま魔法陣を展開する。

 

「恭也〜、私はどうしてたらいいの? 援護したほうがいい?」

 

「いや、リースは後ろの三人を守っててくれ。被害が及ばないようにする自信がないから、なっ!!」

 

Gullinbursti!》

 

リースに指示した瞬間、加速魔法を行使してボガードへと距離を詰めようとする。

しかし、武器の形態が剣ということから彼が接近してくるであろうということはボガードも読んでいる。

それ故に鴉を飛び立たせて炎弾を放たせ、自身は全体を覆う障壁を展開して防御を完璧に整える。

加速魔法で移動したとしても障壁を張られる瞬間が見えるため、不用意に障壁を攻撃して何があるかもわからない故に接近を中断する。

そして飛来する炎弾を避けながら障壁を砕くための魔法を練り、僅かな間を置いて刃に蒼い光を纏わせる。

 

「ほう、障壁破壊の付与魔法じゃな。じゃが、果たしてそれを撃ち込める間合いに持ってこれるかのぉ?」

 

余裕を出すような言葉だが、ボガードの言う事も最もなことではあった。

刃に障壁破壊の魔力を纏わせる魔法――ヴァジュラは非常に維持が難しく、他の魔法を同時行使が出来ない。

故に加速魔法で距離を詰めてから隙をついて発動させ、障壁諸共吹き飛ばすという手段が定石なのだ。

だが相手の身のこなしを見ると加速魔法で距離を詰めても隙が出来るとは考えにくい故、それは使えない。

とすれば最初から行使した状態で距離を詰める必要があるが、通常の状態で距離を詰めるのはかなり困難が極まる。

 

(かといってさっきと同じ手を取っても結果は同じ……さて、どうするか)

 

鴉の猛攻を避けながら考え続けるが、手持ちの札では相手に近づくことは出来ても叩き込むのは難しい。

ただ鴉に戦わせて自分は障壁を張ったままであるはずがない。おそらくは近づいてきた場合も考えているだろう。

だからこそ近づく手立てはあっても不用意に近づけない。だが、その事実が同時に答えへと導かせた。

 

(近づけないのなら、近づかなければいいだけの話……)

 

導き出した答えを抱くと共に恭也は付与魔法を消して飛翔魔法を使用し、上空へと飛び上がる。

急に飛び立った事でボガードが鴉の動きを止め、上空から見下ろす彼と視線を合わせる。

 

「箒もなしに飛翔するとは……じゃが、空に逃げたところでコイツからは逃れられんぞ?」

 

告げてから右手に持つ杖を振るい、その行動に応じて鴉は上空に佇む恭也へと向けて突撃する。

空ともなれば障害物がない故に広く逃げられる。だが、鳥類である目の前の鴉とて空は独壇場だ。

下手をすれば彼よりもそちらのほうが優位になる状況。だからこそ、ボガードは相手の出方が楽しみでもあった。

 

「オリウス、カートリッジロード!!」

 

ボガードの見上げる視線、迫り来る鴉の姿、その二つを視界に捉えながら恭也は高らかに告げる。

そしてデバイスからの弾丸装填音が響くのに続け、オリウスを腰の鞘に納めて抜刀の構えを取った。

 

 

――瞬間、彼から発せられる膨大な魔力を誰もが感じ取った。

 

 

「っ……いかん!」

 

「うえ、やっば……!」

 

ボガードとリースはほぼ同時に声を上げ、鴉を瞬時に消して同じような行動へと出る。

それは自身を守る障壁と周りの者を守る障壁に更なる魔力を注ぎ、強度を強化する事。

そうしなければ不味い……そうボガードは直感で、リースは彼を知る故に判断して即座に行動へと出た。

しかし、彼らが完全に障壁の強化をし終えるよりも早く、恭也は納刀したデバイスを抜刀した。

 

「切り裂け!!」

 

Schwarze Welle!》

 

抜刀した瞬間に刃は黒い魔力を纏い、刃の延長として何倍にも長く伸びる。

振り切ったその状態からもう片方の手を柄に添え、気合の一声と共に地面へと向けて一閃した。

その一閃により刃の延長となっていた魔力は刀身から離れ、三日月状へと変化して一直線にボガードのいる地点へと飛来する。

迫り来る三日月状の魔力波にボガードやリースは障壁を着弾ギリギリまで強化し続ける。

だけど放たれてからその間数秒、大した強化も出来ずに魔力波はボガードの手前に着弾して大爆発を引き起こす。

 

「「きゃあ!」」

 

爆発の音と眩い閃光、そして障壁越しでも尚感じる強い衝撃に小雪とアリシアは小さな悲鳴を上げる。

それと同時にボガードとリースは呻きを僅かに漏らしながらも、障壁が破られないよう維持することに専念する。

その間も大爆発と共に起こった黒い魔力の閃光は規模を増し、障壁を張る彼らを飲み込むように覆い尽くしていく。

そうして彼らを完全に飲み込んだ閃光は更に規模を増した段階で止まり、上空からでも彼らの姿は捉えられなくなった。

 

「非殺傷にはしてあるが……少しやりすぎたな」

 

Spear goes beyond a level I do(やりすぎたというレベルで済む問) not think the problem is……(題ではないと思いますが……)

 

オリウスの突っ込みが今は非常に痛い。そう思えるほど、やりすぎた感が強いのだ。

中距離殲滅魔法シュワルツェヴェレ。それは補助魔法たるグルファクシと同じく封じられていた魔法。

リースがまだ今の身体を持たず、オリウスの中にいたときに膨大な魔力を消費するからと禁止していた魔法。

だけど今はリースが分離したときにアームド化され、カートリッジシステムが内蔵されたことで使用が可能になった。

放った黒き刃の波動が着弾時に大爆発を引き起こし、ドーム状に広がる魔力の余波が敵を消滅させる。

非殺傷で放っているために消滅ということはないが、障壁を張ろうともダメージを完全に遮ることは出来ない。

だからこそやりすぎだと判断でき、放った本人にも関わらず恭也は心配そうな視線を向けながら地面へと降りた。

丸坊主とまではいかないが、周りに聳えていた木々が見るも無残な状態。地面に生えていた草などは完全に消滅。

やった本人ながら、はっきり言って見るのも痛々しい……そんな面持ちで降り立ち、同時に目の前の視界がはっきりしてくる。

 

「む……」

 

完全にはっきりした視界の先、ボガードらがいるであろう地点にて予想外の光景を目にする。

それは先ほどの魔法で多少なりとダメージを負っているかに見えた彼らが、無事な様子で立っている光景。

そしてそんな彼らの前に静かに佇む、赤い髪を後ろ頭で纏めた妙齢の女性の姿。

魔力が視界を遮る瞬間まで彼女の姿は影もなかった。にも関わらず、いつ現れたのか女性は目の前に立っている。

 

「危ないところだったわね、ボガード」

 

「……ふん」

 

女性は僅かに恭也から視線を外して、後ろにいるボガードに横目を向けてそう口にする。

その一言に彼は若干不満気な様子を見せながらも、彼女の言うとおり故に反論せず鼻を鳴らすだけ。

そんな彼に僅かな苦笑を漏らし、女性は外した視線を元に戻すとニコリと微笑み――――

 

 

 

 

 

「こちらにはもう、戦う意志はありません……ですので、武器を下ろしていただけませんか?」

 

――先ほどと同様の静かな声で、恭也へと告げた。 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第一話はボガードVS恭也でした。

【咲】 まあ、何となく予想できた展開ではあるわよね。

だな。大樹にも問答無用で魔法をぶっ放す人だから、恭也にも同じようにするだろうと思いこうなった。

【咲】 にしても、リースは大した活躍がなかったわね。

まあねぇ……あの子が参戦するとボガード以上だし。

【咲】 どう種類の魔法だと明らかにボガードのほうが上をいくでしょうね。

だねぇ。ボガードは学園で一二を争うほどの魔法使いだから、当然魔法体系が同じなら恭也では勝てないだろうよ。

【咲】 つまり今回の勝負が恭也寄りだったのは、リリカル側の魔法のほうが戦闘向きだったからなのね。

そういうことだ。とまあ、そんなわけで今回の最後、謎の女性が登場だ!!

【咲】 謎じゃないでしょう……あれ、どう見ても学園長じゃない。

ま、そうなんだけどな。

【咲】 でもさ、学園長ってボガードたちを見送って学園に残ったはずなのに、なんで来てるわけ?

女性の行動は不思議なものが多いのさ。

【咲】 …………。

冗談だ。彼女が追ってきた理由は実に簡単、恭也の魔力を感じ取ったからだよ。

【咲】 ボガードたちだけに任せるには危険と判断したわけ?

というわけでもない。ボガードの実力は学園長も知ってるしね……ただ、心配になったのは大樹たちの事だよ。

【咲】 大樹たち? ……ああ、そういうことね。

ふむ。まあ、詳しい部分はまた次回をお待ちにということで……では、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ

 

 

 

 

 

 

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