酷い惨状となった裏山を後にし、恭也たち一同は高町家へと戻った。
しかし、帰ったときはまだ夕飯の時間から一時間程度早く、アイラはしばらく我慢する羽目になった。
その暇なときを利用して先ほどの訓練でのことなどを話そうと恭也やオリウスは言ったが、お腹が空いて思考が巡らないアイラはこれを拒否。
そして台所に入れない故に、夕飯が出来るまでの間リビングでゴロゴロと…激しくだらけていると言える行動を取っていた。
子猫がそんな様子というのは本来結構和む光景なのだが、本当は人間だと知っている恭也とオリウスは呆れ果てるしかなかった。
そんなわけでしばらく(アイラのみ)だらだら過ごし、夕飯が出来たという知らせが届いた数分後に一同は揃って夕食を食べ始めた。
「いや〜……今朝もでしたけど、アイラちゃんはよう食べますなぁ」
「そうね〜。 ほんと、こんな小さい体のどこにこんなに入るのかしらねぇ」
今日の食事を作ったレンや桃子がそう口にしてしまうほど、アイラの食べっぷりは凄かった。
子猫という体であるにも関わらず、大人一人が食べるくらいの量を誰よりも早く食べ終えてしまうのだ。
しかもそれに加えて、まだ食べたりないというかのように皿を銜え、製作者の下に歩み寄って物欲しげにする始末。
それには恭也やオリウス以外の誰もが驚きつつも微笑ましく苦笑するしかなかった。
そんなこんなで夕食を終え、アイラのことを考えた恭也たちはとりあえず、鍛錬までの時間を使って話し合うことにした。
《さ〜て、早速今日の訓練のおさらい等を始めよ〜♪》
「わ〜、パチパチパチ……だる」
部屋に戻るなりなぜか人型に戻り、テンション高めのオリウスに合わせようとする。
だが、目を擦りながら言う辺り眠気を我慢してること丸分かりな上、何気に最後のほうに本音が出ていた。
しかしまあ、オリウスは意味不明にテンションが上がっているため、それに気づくことなかった。
「……なぜいきなりテンションが高くなってるんだろうな、オリウスは」
《No
problem......ORIUSU always
mean that it is
unclear from the》
恭也の言葉に返したリースの言葉は、微妙に答えになっていなかった。
魔法少女リリカルなのはB.N
【序章】第四話 子猫とデバイスの事情
おさらいというのが始まってから三十分、たったその程度の時間でそれは終わった。
というのもおさらいをしても、はあとか、ふむという言葉しか返さない恭也に、オリウスのテンションが下がってしまったのだ。
ちなみに、おさらいをしている間も隙を見ては欠伸をして眠そうにしているアイラも理由の一つだったりする。
まあそんなわけでおさらいが早々に終わりを向かえ、次いで恭也が使った魔法についての話題に変わる。
《じゃあ、今日の訓練で恭也が使った魔法についてだけど……たぶん、というか確実に幻術魔法だと思うんだよね、あれ》
「あ〜、それはそうだろうねぇ。 普通に考えて、斬撃途中で剣が増えるなんてそれくらいしかないだろうし」
《うんうん。 でも今まで幻術魔法って結構見てきたけど、攻撃を分身させるのはさすがに初めて見たな〜》
「ていうか、部分的な幻術なんて理論上可能なのかい?」
《まあ、不可能じゃないんじゃない? 幻術魔法に対して際立った素質があれば、ああいうのも可能だと思うしね》
先ほどのようなテンションはないものの、いつもぐらいのテンションで自分の考えを述べるオリウス。
それに対して、自分が負けた理由の一つでもあるためか、眠気をそっちのけで話し合うアイラ。
そんな二人の会話に恭也は入ることが出来ず、ただポツンと寂しそうに正座しているしかなかった。
が、その状況から数分が経過した後、ようやく納得し合ったオリウスとアイラは恭也へと話題を振った。
「にしても、最初に覚える魔法が幻術魔法だって辺り、結構恭也って変わってるよねぇ」
「む、そうなのか?」
《そうだよ〜。 それに加えてバリアジャケットも全身真っ黒、形状も杖とかじゃなくて剣……これを変わってるって言わなくて何て言うの?》
「むぅ……」
話題を振られたはいいが言葉の端々で変わってると言われ、ちょっと凹む。
だがまあ、いつも言われている鈍感とか朴念仁とか人間捨ててるとかよりはまだマシなため、立ち直るのにそう時間は掛からなかった。
「ところで話題は少し変わるが、今日の訓練でオリウスが使ったアレは一体何なんだ?」
《アレ? ……ああ、ナグルファルのことね。 ん〜…まあ、主に陸戦魔導師用の浮遊魔法かな》
「ふむ……陸戦魔導師というのは、地上での戦いしか出来ない魔導師のことか?」
「一概にそうとも言えないねぇ。 陸戦魔導師でも空を飛べるのは結構いるだろうし」
《だねぇ。 まあ、これは数ある分類の一つだと思っておけばいいと思うよ》
それに恭也は納得したというように頷き、腕につけている時計に目を向ける。
すると、時間は夜の鍛錬がそろそろ始まるであろう時間を差していたため、恭也はゆっくりと立ち上がって鍛錬の準備をする。
といってもオリウスたちと話をする前にあらかた用意はしてあり、準備といっても鍛錬用具を持つぐらいしかない。
そんなわけで一分も掛からず準備が終わり、もしもを考えてアイラに子猫へと変身してもらった後に恭也は鍛錬へと出掛けていった。
《いや〜、それにしても……ほんといいところにありつけたよねぇ》
《そうだね〜。 ひょんなことで主も見つかったし、あれ以降あいつらも現れないし》
《もう言うことないね。 出来るなら、ずっとここに定住したいくらいだよ》
そう言いつつアイラは軽く伸びをして、トコトコと歩いて座布団の上に乗る。
そして忘れていた眠気が蘇ったのか、眠たそうに欠伸をして座布団の上に丸くなった。
そんなアイラにオリウスは若干小さな笑いを上げるが、なぜかその後に重たげな溜め息をついた。
なぜ今、そんな溜め息をつくのか…眠たげな思考でそう思ったアイラは、閉じかけていた目を再び薄っすらと開ける。
《どうしたんだい、オリウス? 何か心配事でも見つかったのかい?》
《見つかったっていうか、思い出したっていうか……こんな平和な時間もいずれ終わるんだなぁって思ってさ》
《終わるって……現状であいつらに居場所は見つかってないんだから、この先も見つからないように頑張れば――》
《それは……たぶん無理かな》
なぜ頑なに否定するのか、アイラにはそれが分からなかった。
オリウスとアイラは『あいつら』と言っている者たちに追われていたところを、恭也と美由希に保護された身。
そして保護されて恭也とは話が出来るとわかった今も、二人は自分たちが抱えている事情を話してはいない。
本来ならば事情を話すべきなのだろうが、話してこの家を追い出され、再び路頭に迷いながら逃げ続けるのが嫌だった。
だから話すことが出来ず、そして事情を求められることもなく…事情を隠したまま現在に至っていた。
そして、願わくばこのまま話さず、追っ手からも見つからず、この高町家で平穏な毎日を過ごしていたかった。
しかし、オリウスはそれを無理だと言う……なぜかは分からないが、頑なに現状維持し続けることを無理だと言う。
自分たちがある程度身を潜めれば何とかなるはずなのに……そうアイラは思っているからこそ、それには深い疑問を持った。
故にその疑問を解消するために、若干恐る恐るといった感じではあるが、アイラはオリウスにその理由を尋ねた。
するとオリウスはしばらく沈黙した後、重々しい口調でその理由を語った。
《恭也の、あの美由希って人じゃないほうの妹……なのはって言ったかな。 あの子が、たぶん恭也以上の魔力資質の持ち主だと思うの》
《はあ!? 恭也以上って……恭也でも十分なほどの資質を持ってるってのに、あの子はもっと上だって言うのかい!?》
《うん……それに、魔力の最大量も凄かった。 ここまで言えば、もう分かるでしょ……?》
《……恭也共々、あいつらの格好の材料として目をつけられる可能性が高いってことだね》
アイラの口から放たれた言葉に、オリウスは返すことなくただ沈黙する。
だが、その沈黙が肯定を意味していることくらいアイラにも分かるため、少し重たげな空気を同じく纏う。
自分たちに対して気づかれる要素があるのならばいいが、元々この家の住人である二人が対象だとどうしようもない。
自分たちがいてもいなくても、その『あいつら』と呼ぶ者たちに見つかる可能性が変わることはないのだから。
ならば一体どうすればいいのか……それがいくら考えても二人には思いつかなかった。
いや、実際はただ一つだけ思いつくことはある……気づかれて襲われたのならば、恭也と力を合わせて戦えばいいという方法が。
しかし、いつ気づかれるかもわからない現状、そして恭也がまだ魔導師として未熟と言える現状では、それはあまりにも無謀だった。
だが先も述べたとおり、それ以外の方法が浮かばない二人は、同時に憂鬱そうな溜め息をつくしかなかった。
《まあ、今の私たちじゃ現状維持することしかできないんだけどね……》
《そうだねぇ……今の私たちには力がないから》
主を見つけたには見つけたが、その主たる恭也はまだ魔導師としては未熟もいいところだ。
まあ、確かにそれでも戦闘者としての実力は十分にあるが、相手が魔導師だと話は別である。
そしてそれ故に恭也が魔導師としてもっと成長するまでの間、オリウスたちには打つ手が全くないに等しいのだ。
現状ではまだ見つかってはいない……だが、それがこれからも続くとは限らない。
早急に何か手を打たないといけないと分かっていながら何も出来ない歯がゆさに、二人は今一度深いため息をつくのだった。
第○○管理世界……その地に広く生い茂る森の奥深く。
そんな場所の一角にある一本の木の根元にて、一人の少女が若干荒めの息をつきつつ腰掛けていた。
腰掛ける少女はゆっくり息を整えながらもどこか落ち着きがなく、両腕で抱えるように杖らしきものを持ちながら頻りに周りを気にしている。
だが四往復ほど顔を左右にキョロキョロさせた後、体の力を抜くと共に安心するようなため息をついた。
「ふえ〜……なんとか逃げ切れたみたいだね〜」
《It looks that way》
頭にその声が響いてきた途端、少女は完全に力を抜いて木に背中を預ける。
そして先ほどと同じように、しかし先ほどよりも深いため息をついて口を開いた。
「ていうか、なんでシェリスたちが管理局に狙われるんだろうね? あのお兄さんも何か言ってたけど、全然意味分かんなかったし」
《Not bad for a
master, it is
inexcusable that they did not......those things?》
「うにゅ……あれくらいで怒るなんて、管理局の人って短気なんだね〜」
ちょっとだけ考えるような仕草を見せるも、すぐに無邪気な笑みへと変えてそう言う。
その直後、自身をシェリスと言った少女は何かに気づいたかのように不意に懐に手を入れる。
そして手を入れてから数秒の間ゴソゴソと探った後、僅かに振動する丸型の機械を取り出した。
「通信だ。 んっと……もしもし〜?」
『―――』
ボタンを操作した後に耳に当て、シェリスは笑みを浮かべつつ間延びした声で通信に応じる。
外部にはほぼ聞こえないため相手が誰なのかは判別出来ないが、その様子を見るだけでも親しい者だということが分かる。
「うん……うん……あ〜、全然駄目っぽいよ? この世界に降りて遭遇した魔導師って管理局ぐらいだもん」
『―――』
「えっと……シェリスは大丈夫だけど、管理局の人に見つかっちゃったからこれ以上は難しいかも……」
『―――』
「……うん、わかった〜。 じゃ、すぐにそっちに戻るね〜♪」
シェリスは最後にそう言うと、機械のボタンをポチッと押して懐に仕舞いこむ。
そしてゆっくりと木から離れて立ち上がり、スカートの汚れをポンポンと叩き始める。
しかしまあ、特に汚れが多いわけでもないのでそれはすぐ終わり、シェリスは背中に杖を回して両手で持ちつつ歩き出した。
歩き出したシェリスの姿はゆっくり、ゆっくりとした歩調で森の奥へと進んでいき、遂にはその姿を視認出来なくなってしまう。
そして、シェリスが去っていったことでその場には静寂が訪れ、風が草木を靡く音のみが響くのだった。
オリウスとアイラが話し合ってから二時間後の現在、恭也は二人の前に座っていた。
戻りしなに二人から話があると言われ、本来ならすることがあったのだが、その真剣さに押されて現在に至っている。
しかし、そうやって対峙したはいいが、二人は一向に話を切り出さず、時間だけが過ぎ去っていっていた。
「……」
《《……》》
真剣な目で見据えてくる恭也、同じく真剣さを纏いながらも迷いが感じられるオリウスとアイラ。
時間だけが過ぎ去る中で、向かい合いながらもずっと無言という状況を続ける。
だが、そんな状況がしばし続いた後、このままでは話が進まないと考えた恭也は、静寂を破るために口を開いた。
「あ〜……その、話というのは何なんだ、二人とも?」
《……えっと》
《話、というのはだね……その……》
話を進めるためとはいえ、さすがに直球で聞かれたため二人は言葉に詰まってしまう。
それもそうだろう……その話が切り出しづらいから今まで黙りこくる羽目になってしまったのだから。
そのことに恭也は口にした後に気づき、しまったと内心で思いながらも、静かに二人が言葉を発するのを待つ。
そしてそれからまたしばしが経ち、ようやく決心したのか……二人は話を切り出すべく言葉を発する。
《んっと……話っていうのは、その……私たちのことなんだけど》
それは恭也が戻るよりも少し前に出した、二人の結論。
現状でどうにもならないのなら、これから先どうにか出来るように恭也に力をつけてもらうしかない。
だが、急激に魔法の訓練を多くしたら恭也も不信がる……故に、言い辛いが先に事情を話しておくほうがいいと考えたのだ。
そんな覚悟を決めて放った言葉に、恭也は不思議そうに首を傾げながら口を開いた。
「二人のこと? ……それは昨日も聞いたと思うんだが」
《あ〜、私たちの自己紹介は確かに昨日したんだけど……そのときに話してなかったことがあるんだよ》
「ふむ……それは、話すのを忘れてたということか?」
《ううん、違うよ。 忘れてたんじゃなくて、話せなかったの……》
「話せなかった……?」
恭也はその言葉に対し不信に思いながら首を傾げる。
というのも、話せなかったという言葉にはいろいろな解釈の仕方があるのだが、二人の様子からはあまりいい話ではないことが分かるからだ。
思い返せば出会ったときも、本来ならあの時間に誰も通るはずの無い場所に二人はいた。
そして加えるならば、魔法の話をした同日にオリウスは恭也に自分のマスターにならないかを半ば強引に進めてきた。
これらを思い返すとあまりにも不信な点が多すぎるため、その言葉にもいい意味だと解釈することは出来ない。
だが同時に、一日とちょっとという短い時間ではあるが、二人が悪事に関わるような者ではないということは思うことが出来ていた。
だからその言葉にも何らかの事情があった故だろうと考え、何も言わずに二人の言葉を待った。
すると二人は恭也のその様子を自分たちが説明するのを待っていると捉え、僅かの無言の後にそれを語りだした。
《私たちはね……ずっと以前から、ある人たちに追われてる身なの》
「……なぜ、と聞いても?」
《ああ、構わないよ。 いや、むしろ恭也には聞く権利がある……》
アイラの真剣な言いように、恭也は真剣に話を聞くべく居住まいを正す。
そしてそれを見た二人も先ほど以上に真剣さを纏い、はっきりとした声色で……
《実はね……私たち――》
自分たちに纏わる、全ての事情を……語った。
あとがき
はい、第四話でした〜。
【咲】 どんなことを語ったのかまでは載せないのね?
まあねぇ……ここで語ったことは物語の筋でもあるから、さすがにここでは語れないな。
【咲】 ふ〜ん……で、早速だけど次回はどんなお話になるわけ?
ふむ、次回は……というより、次回からはサイドが二つに分かれるな。
【咲】 二つに分かれる? どういうことよ?
簡単に言っちゃえば、なのは&フェイトルートか、はやて&ヴォルケンルートかってことだな。
【咲】 ああ……管理局につくか、それとも敵対するかってことね。
A‘s時点ではね……後々になるとどの道管理局側にはつくことになるさね。
【咲】 ん〜……じゃあさ、それは誰とくっつくかってのに関わりがあるわけ?
まあ、それは理由の半分ではあるね……。
【咲】 じゃあ、もう半分は何よ?
もう半分は、というかこれが主な理由なんだけど……どちらのルートかで全体的な話そのものが変わってくる。
【咲】 話が変わる、ねぇ……どういう風に変わるのよ?
むぅ……さすがに詳しくは言えないが、ご都合かそうでないかってだけ言っておこう。
【咲】 ふ〜ん……まあ、今はそれで納得しとくわ。 それで、どちらのルートも掲載するわけ?
んにゃ、一応HPに掲載するのははやて&ヴォルケンルートだけだな。
【咲】 なのは&フェイトルートは?
ん〜、まだお悩み中だけど、たぶん投稿用にすると思う。
【咲】 そ……まあ、話そのものも結構変わってくるみたいだし、どちらも遅れないように頑張りなさいな。
もちろん。 じゃ、今回はこの辺で……次回からA‘s編改め、B.N第一章が始まります!!
【咲】 そんなわけで、次回も見てくださいね♪
では〜ノシ
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