魔法少女リリカルなのはB.N

 

【一章】プロローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「闇の書? なぁに、それ?」

 

次元世界の何処かにある大地、そこにある森の奥深くにて木々に隠れるように建つ大きな研究所。

その研究所の地下施設最深部にて、腰元まである長く蒼い髪が特徴の少女―シェリスはそう聞き返し、首を傾げていた。

対してシェリスと向かい合う形で立つ、黒い短髪に白衣を羽織っているのが特徴の男は、僅かに微笑を浮かべる。

そして、まるで愛おしいというようにシェリスの頭に手を置いて撫で、静かに口を開いた。

 

「666ページを集めることで所有者の望みを叶えることが出来ると言われる、管理局で第一級捜索指定がかかっているロストロギアだよ、シェリス」

 

「望みを叶える……ん〜、パパはそれで叶えたい望みがあるの?」

 

「い や、そういうわけじゃない。 そもそもその言い伝えすら本当かどうか分からないからな……っと、それはまあいいとして、話の続きだけど……その闇の書とい うのには守護騎士……まあ、闇の書のマスターを守り、ページ集めの手助けをするプログラムがいるんだ。 そしてこの守護騎士というのはどれも結構な魔力資 質を持つ魔導師でもある……賢いシェリスなら、パパが何を言いたいのか、もう分かるだろ?」

 

「えっと……その守護騎士っていうのを、捕まえてくればいいの?」

 

「そういうことだ。 それと加えて、闇の書の主も一緒に連れてきてくれえると嬉しい」

 

「ん、わかった〜。 それで、その主と守護騎士っていうのはどこにいるの?」

 

にこやかに頷いた後、首を傾げながら求めているものの所在がどこかを尋ねる。

それに男は再び微笑を零し、シェリスの頭を片手で撫でながらもう片手でパネルを操作する。

すると、操作されてから数秒足らずでモニターには地図らしきものが表示された。

 

「闇の書が転生したのは、第97管理外世界のこの町だよ……少し遠い場所だけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫大丈夫♪ シェリスはもう立派な魔導師だし、パパから貰ったアリウスもいい子だから、きっとすぐに主や守護騎士っていうのを持って帰れるよ!」

 

「ははは、それは頼もしいな。 じゃあ頼んだぞ、シェリス」

 

「うん♪」

 

再び元気よく頷くと、シェリスは机に置かれたビー玉サイズの蒼い玉を手にとって出入り口へと歩き出す。

が、出入り口手前まで歩いていった後、シェリスはふと足を止めて振り返り、男へと口を開いた。

 

「そういえば、お姉ちゃんたちの居所ってまだわかんない?」

 

「むぅ……私も必死に捜索しているのだが、昔から逃げたり隠れたりするのが上手い子だったから……中々尻尾を掴ませてくれないんだ」

 

「ふぅん……じゃあ、ついでにその世界でお姉ちゃん探してみるね。 もしかしたらいるかもしれないし」

 

「ああ、それも頼むよ。 私としても、あの子が逃げ出した理由を聞きたいからね」

 

それを聞くとシェリスは元気のいい返事を返し、今度こそ部屋を後にした。

シェリスが部屋を出た後、男はモニターへと向き直り、浮かべていた笑みを消して無表情になる。

そして、モニターに表示される画像を変え、それに視線を向けながらカタカタとパネルを操作し始めた。

カタカタ、カタカタと……男以外誰もいなくなったためか、室内にはその音のみがただ響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある日の午後、恭也はオリウスとアイラを連れて買い物へと出ていた。

まあ買い物といっても、レンに頼まれて晩御飯で足りない材料の買出し程度である。

故にデバイスたるオリウスはともかく、アイラはついてこなくても良かったのだが、本人が行きたがったので連れてきたのだ。

本来なら面倒くさがってついてこようとはしないアイラがついていくと言ったときには驚いたが、理由を聞いて恭也は納得と同時に呆れた。

なんでも台所に入れない故に今日の晩御飯が何なのか知らず、それを知るために買い物についていくと言ったらしいのだ。

そして加えるならば、口には出していないが買い物ついでに何かを強請る気だということが恭也にもオリウスにもバレバレだった。

 

《なあ、アイラ……何か欲しいものがあるなら正直に言ったらどうだ?》

 

《な、なんのことだい? あ、あたしはさっきも言ったとおり、晩御飯の献立が知りたいからついてきただけさね》

 

《動揺しまくりで言っても説得力ないって》

 

オリウスにまで指摘されながらも、アイラは頑なにしらばっくれ続ける。

別に恭也としては何かを強請られても怒ったりはしないし、物によれば買ってあげないこともない。

ついでに言ってしまえば、買い物についていくことは今回初めてでも、強請ること自体は初めてではない。

だというのに、アイラはいつもそれを口にはせず、暗黙に強請るので恭也としては困りものだった。

そして結局、いくら問い詰めても真実を聞けぬまま、三人は最寄のスーパーの前へとやってきた。

 

《……じゃあ、俺たちは買い物をしてくるから、アイラはここで待っててくれ》

 

《ん、了解。 あ、そういえばさ、恭也……今朝の広告をチラッと見たんだけど、新発売の猫缶があるらしいよ》

 

《はぁ……わかった。 それを買ってくればいいんだろ?》

 

《や、やだね〜、あたしはただあるって言っただけであって……ま、まあでも、恭也がどうしてもって言うなら》

 

《別にそこまでは言ってないけどね〜。 アイラもほんと、素直じゃないなぁ》

 

オリウスが零したその言葉に慌てて反論するアイラを背に、恭也は疲れたというような様子でスーパーの中へと入っていった。

そしてスーパーに入った恭也が一直線に向かうのは、当初の目的通り食品売り場。

入り口から奥に行ったところに位置するため時間も掛からず辿り着き、恭也は積まれた籠の一番上を一つ取ってその場所に入っていく。

その後、籠を持っていないほうの手で渡されたメモを開き、軽く内容を確認してからまっすぐに野菜コーナーへと向かった。

 

「レタスに、ピーマンに……ジャガイモ、はあっちだな」

 

しっかり目利きをして良い物を選びつつ、恭也はメモに書かれた野菜を籠に入れていく。

そしてその後に籠の中に入れた野菜とメモを見比べ、全部あるのを確認してから今度は肉のコーナーへと向かった。

そこでも恭也は野菜のときと同じく、値段やら品質やらを見つつ良いものを選び、籠の中へと入れていった。

 

「ふむ……これで言われたものは全部だな」

 

《あ〜、猫缶買ってかないと、アイラが拗ねるよ?》

 

「ああ、そういえばそれがあったな……」

 

オリウスの指摘に猫缶の存在を思い出し、今度はペット関連のコーナーへと向かった。

だが、辿り着いたそこには他のペットフードはおろか、猫缶もたくさんの種類が並べられていた。

元々広告を見ていない恭也は新発売の猫缶があることすら知らなかったため、そんなに種類があってはどれだか分からない。

ならば店員にでも聞けばいいと考えても、軽く周りを見渡してもレジ以外で店員を見つけることが出来ない。

しかし、だからと言って適当な猫缶を買っていけば、ほぼ確実にアイラは拗ねるだろう。

そんなわけで、目の前にて大量に並ぶ猫缶を前に、恭也は顎に手を当てながら悩むしかなかった。

 

「どないしはったんですか、お兄さん?」

 

「ん?」

 

悩み続けていた矢先、突然横から聞こえてきた声に恭也は顔を向ける。

するとそこには足が不自由なのか車椅子に座る少女と、その車椅子を押す金髪の女性がいた。

悩んでいたからとはいえ、その両名が接近していたことに恭也は内心で恥じつつ、金髪の女性に軽く会釈をして少女の問いに答える。

 

「ああ、ちょっと新発売の猫缶とやらを探してるんだが……どれがそうなのか分からなくてな」

 

「新発売の猫缶? う〜ん、それやったら多分、あれやないかな?」

 

少女の指差す先に視線を向けると、そこにはまあ当然猫缶があった。

多分、ということで少女にも確証はないのだが、このまま悩んでも答えが出ないことも事実。

故に恭也は少女の言うことを信じ、指差された猫缶を一つ取って籠に入れ、少女へと向き直って礼を言う。

お礼を言われた少女は照れくさそうに、ええよと言った後、ジッと恭也の顔に視線を向けつつ口を開いた。

 

「お兄さん……うちとどっかでおうたことない?」

 

「君と? ……いや、覚えはないが?」

 

「ん〜……せやけど、ほんとどこかで見たことあるんやけど……どこやったかなぁ」

 

今度は少女が顎の手を当てて考え始め、恭也はとりあえず少女が答えを出すまで待つ。

すると考え始めてからほぼ間もなくして少女は悩みが解決したのか、あっと声を上げた。

 

「そやそや、病院で見かけたんやった」

 

「病院……というと、海鳴病院のことか?」

 

「そうや……というか、この辺だと海鳴病院以外に病院ってないんやけどな」

 

「まあ、そうだな。 ふむ……病院で見かけた、か。 なら不思議ではないな……俺はずいぶん前からあそこに通院しているわけだし」

 

「そうなん? あんまり体が悪そうには見えんのやけど……」

 

「ああ、膝を少し痛めてるんだ」

 

実際のところ、少しと言っていいほど膝の状態は軽いものではない。

だが、ほぼ初対面の少女に語ることでもないため、恭也は軽く真実を暈しつつそう言った。

それに少女は何の疑いもなく納得したように頷き、同時に今思い出したかのように再び口を開いた。

 

「あ、名乗り忘れてたんやけど……うちははやて、八神はやてや。 で、うちの車椅子を押してくれてるのが」

 

「シャマルです。 初めまして……えっと」

 

「ああ、こちらこそ申し遅れました、俺は高町恭也といいます」

 

慌てて謝りつつ自分も自己紹介をすると、シャマルは微笑を浮かべながらいえいえと言う。

このシャマルの対応からはやての母親のような感じを醸し出しているのだが、それにしてはあまりにもシャマルは若い。

加えて言うならば、はやてとシャマルは見た感じ似ていないため、母と子というには違和感も結構ある。

まあ、若さに関しては桃子のように童顔である可能性もあるし、似てないからといって家族でないというわけでもない。

故に恭也は自分の家と同じなのだろうという結論を頭で出しつつ、それで納得することにした。

 

「それで、恭也さんはこれからまだ買うものがあったりするん?」

 

「いや、ないな。 この猫缶で最後だ」

 

「そか〜……残念やなぁ。 まだ買うものがあるんやったら一緒にとでも思ったんやけど」

 

「ふむ……暇だったら付き合うところなのだが、生憎人を待たせているんだ。 そういうわけで、すまないが……」

 

「ああ、そんな謝らんでええよ。 うちも出来ればってことだったわけやし」

 

笑みを浮かべながら言うはやての言葉に、恭也も小さく微笑を浮かべる。

そしてもう一度会釈をしつつ二人に背を向け、レジのほうへと向かっていった。

その恭也の後姿が見えなくなるまで見送った後、はやてとシャマルは別のコーナーへと移動しだす。

 

「恭也さんか〜……軽く話した程度やけど、ええ人やったなぁ」

 

「そうですね。 それに見た目もカッコいい方ですから、女の子に凄くもてそうです」

 

「そやね〜……今も病院に通院してるゆうてたし、また会えるとええなぁ」

 

話したのは先ほどが初めてであるはずなのに、はやてが口にする話題は恭也のことばかり。

だが、シャマルはそれを不思議に思うことはない……なぜなら、シャマル自身もはやてと同じだったからだ。

その理由こそはやてとは若干異なってはいたが、それでも二人の中に恭也という人物は深く根付くことになった。

そしてその後も、しばらくの間二人の話す話題には恭也のことばかりが上がることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジでの会計を済ませ、品物を袋に詰めた恭也はスーパーを出てアイラと合流した。

合流したアイラは待ちくたびれたとばかりに駆け寄り、恭也の持つ袋の中に猫缶があるのを確認してご機嫌になる。

その反応からどうやらアイラが求めていた猫缶だったのだということが分かり、恭也は内心でほっと安著する。

そして早く猫缶を食べたいのか、帰ることを急かすアイラに苦笑しつつ、三人は帰宅路についた。

 

《ねえねえ、恭也……さっきの二人なんだけど》

 

《さっきの二人? はやてとシャマルさんのことか?》

 

《うん。 で、その二人なんだけど……もしかしたら、魔導師かもしんない》

 

その一言に恭也は珍しく驚きを顔に出した。

普段結構嘘を言ったりするオリウスではあるが、それとは言い方が明らかに異なっていた。

これまでオリウスが嘘をついたときは、必ず断定系で物事を述べていた。

しかし、今口にした言葉はもしかしたらという曖昧な言葉……これは明らかに今までとは違うと言えた。

故にその言葉はいつものようにふざけて言ったわけではなく、至極本気で言ったものだということが分かった。

だが、だからと言ってその言葉を安易に信じることが恭也には出来ず、数十秒間を置いてからその言葉の理由を尋ねた。

 

《どうして……そう言えるんだ?》

 

《んっと、勘……かなぁ。 二人とも結構な魔力があったから、もしかしたらそうかもって思ったの》

 

《二人ともというと……はやてもか?》

 

《うん……というか、あのはやてって人のほうが魔力は高いよ》

 

《ふむ……》

 

魔導師である、というのはオリウスの勘であるため確証があるわけではない。

だが、魔力が高いことに関してはオリウスが言うのだからおそらく真実なのだろうということが分かる。

そして、大抵の者ならば魔力が高いというだけで終わるこの話は、恭也たちにとってとても重要なことだった。

 

《なら、なのは同様にはやても、シャマルさんも狙われる可能性がある……ということか》

 

《そゆこと。 まあ、もし魔導師なら戦ってどうにかできる可能性もあるけど……シェリスが出てきたらまずいかな》

 

《そのシェリス、という子は……強いのか?》

 

《ん〜、性格には難有りだけど魔導師としての腕はかなりのものだよ、あの子は。 でも私が見たのは二年前が最後だから、そのときよりも腕は上がってるだろうし、当時はまだアリウスも完成してなかったから今の実力っていうのは分かりかねるかな》

 

《ふむ……何にしても、要注意しておくに越したことはないな》

 

《そうだね》

 

二人をそう言い合いつつ、今後どう動くべきかを念話で話しながら帰路を歩く。

そしてその横では、猫缶が本当に楽しみなのか、アイラがご機嫌な様子でトコトコと歩いていた。

アイラにとっても重要な話をしているにも関わらずそんなことでいいのだろうかと普通は思うが、恭也もオリウスも気にはしていなかった。

というか、目的のものを買ってもらった後のアイラはいつもこんな様子なので、気にするだけ無駄なのだろう。

そんなわけで恭也とオリウスは今後のことを、アイラは猫缶のことを各々考えながら、三人は帰路を歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

はやて&ヴォルケンルートの一章プロローグでした〜。

【咲】 早速はやてと出会ったわね。

まあな。 というか、ここで会っとかないとルートに入れないのだよ。

【咲】 ふ〜ん……でもさ、この時点ではどうやってヴォルケン側につくのかっていうのが分かんないわね。

そりゃね。 どっちかというとこの時点で事件が起きれば恭也はなのは&フェイト側につくだろうさ。

【咲】 そういうってことは、この後も何かがあるってわけ?

そゆこと。 少なくとも八神家の全員とある程度親しくならないと話にならん。

【咲】 ん〜……じゃあ、事件が起きるまではまだちょっと掛かりそうね。

んにゃ、そういうわけでもないよ。 親しくって言っても、恭也たちがヴォルケンの全員と事件前に会えばいいだけの話だし。

【咲】 ……結局のところ、事件が起きるのは何話目くらいになるわけ?

ん〜、そうだな〜……三話、もしくは四話目くらいかな。

【咲】 ふ〜ん……結構早いのね。

まあ、そうでもないと一章が長くなるからな。

【咲】 そ……ま、続きの執筆も頑張んなさいな。

うぃ。 じゃ、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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