我に返ってからの二人の行動は非常に迅速だったと言えよう。

ヨシュアと呼んでしまった青年、高町恭也というらしい彼を一旦は近くの空き部屋へと連れて行った。

そしてそこで半分尋問風な問いかけ等を行い、加えて彼の疑問を耳にする事で二つの結論に至った。

一つは彼があのアーティファクトの影響でこちらに呼ばれた事。もう一つは、彼がこの世界の住人ではない事。

前者にしても後者にしても、世間的にはそんなものが存在するという実証がないため本来ならば信じられない。

だが前者に関しては二人とも目の前で目撃しているし、後者に関しては彼の疑問や口にする単語の節々からそう察する事が出来る。

故に二つの結論は非常に可能性の高いものと断定。続けて最終的な結論や判断を窺うため、彼を連れて教授の元へと向かった。

 

「ねえねえ、キョウヤの住んでる世界とレンたちの住んでる世界では違う部分って、どんな所があるの?」

 

「どんな所、と言われても……俺はつい先ほど来たばかりだからなぁ」

 

「あ、そっか。じゃあ、えっとね~……」

 

廊下を進む中、レーヴェの僅か後ろをついて歩くレンは恭也を未だ質問攻めにしていた。

質問の内容から異世界に興味でもあるのだろうとは分かるが、それにしても少し無用心でもある。

可能性が高いと言っても、あくまで予測。相手が嘘を吐いているならば、侵入者という可能性も捨てきれない。

あのアーティファクトに関しても元々彼がその能力を把握しており、それを用いてこんな侵入方法を行ったとも考えられる。

まあこちらも要するに可能性の話でしかないが、だとしても本当ならばもう少しは警戒するのが筋というものだろう。

 

(まあ、レンだからな……)

 

だが、他の者からしたら普通の考えであるそれも、レンには通用しない。

無邪気故に好奇心旺盛、人見知りなし、加えて自分の実力にちょっとした自信を持っている。

無論、相手の実力を読み取る事も多少は出来るのだが、それをして尚襲われても勝てると思っているのだろう。

だから警戒など一切しない。むしろ自分から寄っていき、こんな質問攻めをするくらいなのだから。

 

「ふ~ん……キョウヤの住む世界って、珍しい物が一杯あるのね」

 

「俺からしたら、君の言う物のほうが珍しい物ばかりなんだがな……」

 

どこか感心したような言葉を口にする彼女に苦笑する恭也。

その様子と彼らの会話を見る限り、侵入者という可能性は極めて低いものだとレーヴェとしても思えた。

スパイとしてここに侵入したのなら、会話の中でも自分の事ははぐらかして相手の情報だけを引き出そうとする。

しかし、彼はレンの質問に全て真面目に答えている上、重要な情報を聞き出そうとする節がまるでない。

これも所詮はレーヴェの予測でしかない事だ。だけど、客観的に見ても侵入者ではない可能性は非常に高いだろう。

 

(結局は、教授の判断に任せるしかないのだがな……)

 

自分はそう思おうとも、自分らより上の地位である教授がどう判断するかは別物。

それ故に未だ質問を続けているレンとそれに答える恭也の声を耳にしつつ、彼は真っ直ぐに広間へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Trajectory Draw Sword

 

第一話 召喚するアーティファクト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、なるほど……話は大体分かった」

 

広間に辿り着き、先ほどと同じ位置に未だ佇んでいた教授に彼らは事の次第を説明した。

すると説明を終えた後、教授は少し考える仕草を見せるも、納得したと静かに頷いた。

そして二人から目線を恭也へと移動させ、いつものどこか黒い笑みを彼へと向ける。

 

「タカマチキョウヤくん、だったな……私はゲオルグ・ワイスマンという者だ。突然このような事態に巻き込まれて、いささか驚いているだろう?」

 

「……ええ。むしろ、驚いているというよりは信じられないという気のほうが強いですが」

 

「ははは、そうだろうな。だが、君がそう思ってしまうのも無理はない。私とて、そのようなアーティファクトは初めて聞くからね」

 

張り付かせた笑みを一切消さない教授――ワイスマンに対して、恭也は少しばかりの怖気を覚える。

笑みの質からして邪な感じが漂っているのに、その表情から彼が何を思っているのかまるで読めない。

しかもそれが意図的にではなく、極自然体な様子。警戒を通り越して怖気を覚えるのも無理はなかった。

 

「にしても、異世界から他者を召喚するアーティファクトか……聞けば聞くほど興味深いが、現品はすでに砕けてしまったのだったな?」

 

「ええ。キョウヤが突然現れたときにはもう粉々に砕けてたわ」

 

「なるほど。つまり召喚能力を発動したら、その時点で力を失い砕けてしまうということか。だが一体、何がキーとなって能力が発動したのやら……」

 

本当に興味深い代物だと思っている故か、彼は溜息と共にそんな言葉を吐く。

そして同時に事情は聞いたが再度確認のため視線を向けるが、向けられた二人の首は横に振られる。

傍で見ていたレーヴェとしても、当のアーティファクトを手にしていたレンとしても、発動した理由は全く分からない。

ただ見詰めながら音を鳴らしていただけ……それ以外で特におかしな行動が無かった事はレーヴェが証明出来る。

加えて鳴らす事が条件だったというのも、発動以前に何度も鳴らしているのに発動しなかった理由が知れないので論外。

だとすれば一体何が条件だったのか……それを考え続ける中、彼は二人の話からある一つの事に思い至った。

 

「もしかすると、使用者の深層意識が関係しているのかもしれないな」

 

「深層意識? レンがあの鈴を持ってたときに思ってた事ってこと?」

 

「補足するのなら、鈴を持っていたときに君が心の奥深くで願っていた事だな。ふむ、その願いに例のアーティファクトが反応したのだとすると、あれは召喚するためのものではなく使用者の願いを叶えるものという事になるが……」

 

「ん~……でも、レンはお願いなんてしてないわよ?」

 

「深層意識だからな……本人である君自身も分からない、無意識な願いだったのだろう」

 

だがそこまで分かりはしても、願いが無意識だと本人に確かめる事も出来ない。

故にアーティファクトに彼女が何を願ったのか。そしてなぜ願いに反応したアーティファクトは恭也を呼び込んだのか。

判明した所から更なる疑問が次々と生まれ、正直なところキリがないために一旦この話は中断する事となった。

そして次なる問題として――――

 

 

「さて、次に問題となるのは彼の処遇についてだが……」

 

――恭也の身柄を一体どうするかというものが挙がった。

 

 

話を進める辺りで彼が侵入者やらスパイやらという可能性は完全に消えたと言ってもいい。

だが、その可能性が消えたとしても彼の処遇には困ってしまうのも事実である。

曲がりなりにも一つの組織。その上、世間的には非常に評判の宜しくない……言ってしまえば『悪の組織』だ。

当然組織故に部外者が容易に出歩いていい場所ではないし、普通の者ならば『悪』という時点で寄り付きもしないだろう。

要するにここに置くのならば、仮にでも組織の人間になる事、そして組織の概要を知っても尚居ると言える覚悟が必要だという事。

前者に関しては本人にその気があればなんら問題ではない。むしろ、力がある者ならば歓迎もするくらいである。

だが問題なのは後者。本人が事実を知った上で滞在する気がないというのであれば、それ相応の処置をしなければならない。

まあどちらにしてもまず本人に聞かなければどうしようもない故、話を切り出したワイスマンは彼へと視線を移そうとする。

 

「ねえ、教授。一つ提案があるのだけど」

 

だが視線を移した矢先、レーヴェの横にいるレンがそんな事を言ってくる。

故に一度は向けた目線を逸らして彼女へと向け、彼女の告げてくる提案とやらに耳を傾けた。

 

「キョウヤの身柄なんだけど、レンが貰ったら駄目かしら?」

 

「……ふむ。それは、どうしてだ?」

 

「だってほら、その気があろうとなかろうとキョウヤを呼び出したのはレンに変わりないじゃない。だからぁ、ここはレンが責任を持ってキョウヤの面倒を見るのが筋だと思うのよ」

 

アーティファクトを拾ってきたのも、それを用いて恭也をこの世界に呼び込んだのも正しく彼女。

それら全てにおいてレンに特別な考えはなくただの偶然からの現象だとしても、責任は自分にあると彼女は言う。

もしかしたら他に何か考えがあっての発言とも取れるが、さすがのワイスマンでも他者の思考までは読めない。

それ故に少しばかり考える仕草を見せるが、自分では最終的な判断が出来ぬために今一度恭也へと目を向ける。

 

「彼女はこう言っているが……君としては、どうしたいかね?」

 

「どうしたい、と言われましても……」

 

「何、難しい事じゃない……君はただ、選択をすればいい。レンの提案に乗り、元の世界に帰る手段が見つかるまで私たちと共に行動するのか。それとも提案に乗らず、ここを離れて帰る手段を模索するのか……この二つの内から一つ、選べばいいだけだ」

 

提案に乗るか乗らないかの選択。だが、正直なところ選択の余地はないようにも見える。

右も左も分からない世界を一人彷徨ったところで、元いた世界に帰る手段を見つけられるとは思えない。

それどころか、下手をしたら飢え死の可能性だって出てくる故、後者を選ぶのは言うなれば自殺行為。

よって選択と言われても選べるのは一つしかないようなもの。それ故、恭也はしばらく考え込む仕草を見せた後、口を開いた。

 

「一つ、お聞きします……俺が前者を選んだ場合、元の世界に帰る手段を探すのは貴方たちも協力してくれるんでしょうか?」

 

「ふむ、こちらとしても別次元の世界というものに興味があるからな……私自身の研究も兼ねて、それは約束しよう」

 

その返答が決めてとなり、彼は前者を選ぶという形で答えを返した。

彼の答えに対してワイスマンは先ほどと同様の笑みを浮かべ、レーヴェに関しては無言で目を閉じるだけ。

だがどちらも何も言わない中でレンだけは違い、無邪気な満面の笑みを張り付かせて近づき、心なしか両手を左右の腰に当てて胸を張る。

 

「キョウヤがこの世界にいる間はレンが保護者なんだからね。レンの言う事はちゃんと聞かないとお仕置きしちゃうから、そのつもりでね♪」

 

「あ、ああ……」

 

見た目十歳前後の少女が口にするような事ではないが、それこそが彼女が彼女たる由縁。

非常に頭が良く口が回るけれど、この年頃の少女にはよく見られる『ませている』と言える一面。

レンは人一倍その面が強く出ているため、こんな状況でもなければ微笑ましいものとしても映るだろう。

だが今は状況が状況故に微笑ましく思う余裕もなく、恭也は若干戸惑い勝ちに返事を返して頷くのだった。

 

 

 

 

 

部屋を出た後、これから彼が寝泊まりする場所として案内された部屋にて恭也はレンからいろいろと教えられた。

詳しくは無理な物は所々端折ってだが、彼女たちが所属している『結社』の事や今いる場所の事、根本的なこの世界の事。

その他様々な事を教えられ、少しばかり混乱気味になりつつも何とか整理しつつ、分からない事はその都度尋ねる。

これにはもちろんちゃんと答えて返すが、稀に要領を得ない返し方しか出来なかった場合は同席しているレーヴェが簡単に説明する。

そうしてそんなこんなで多くの事を教えてもらった後、一応納得したように頷いた彼は今までの話を総合した結果で抱いた一つの疑問を彼らへぶつけた。

 

「君たちが所属するというその『結社』という組織は、具体的に何をする組織なんだ?」

 

「ん~……レンも詳しくは知らないからどうとも言えないけど、少なくとも善行ではないのは確かね」

 

「……つまり、悪事を働いている組織だと?」

 

「そうなるんじゃないかな、世間一般的には。その辺りの詳しい事が知りたいなら、そこのレーヴェに聞いた方がいいと思うわ。レンよりも前から『結社』にいたんだし」

 

そういって彼女がレーヴェへと話を振ると彼は小さく溜息をつきながらも、話せる部分だけを簡潔に話した。

それによると彼自身も『結社』そのものの最終目的等は知らないものの、今までの任務からしたら善人が取る行動ではないとの事。

表だって人殺しなどをするわけでもないが、秘密裏にでも騒ぎを起こすような事をしている。もちろん、一つの目的を持って。

ただし、『結社』に所属する誰もがそれを好きでしてるわけではないと言う。ただそれぞれ事情があり、『結社』に所属するのもそこが原因なのだと。

レーヴェにしても、レンにしても……そして彼女が恭也に対して最初に口にした、今は組織を抜けてここにはいないヨシュアという少年に関しても。

それを聞くと悪事だからと非難する事も出来ず、恭也はふむ……とだけ呟いて納得は出来ないながらも、納得したような仕草を見せる。

 

「にしても、そんな組織に半ば選択の余地無しで滞在する羽目になった自分もやはり、何かやらされたりするんでしょうか?」

 

「それは何とも言えないな……今の指揮権は教授――ワイスマンにあるのだから、必要だとされれば使われる事もあるかもしれない。その反対に必要でないと判断されれば、このままという可能性もある……まあ、全ては彼次第という事になる」

 

「むぅ……もし仮に必要だと判断された場合、それを拒否したりする事は……」

 

「出来ないわけではないが、お勧めはしない。教授は強行手段にも出る事も多いからな……場合によっては、記憶操作をされて都合の良い道具にされる事も考えられる」

 

『結社』の中でワイスマンは『蛇の使徒(アンギス)』と呼ばれる地位にあり、レーヴェやレンはその下の『執行者(レギオン)』と呼ばれる地位に位置するらしい。

『蛇の使徒』は数名いるが、実質『結社』のナンバー2。その下、つまりはナンバー3となる『執行者』は基本、『蛇の使徒』の指示には従わなければならない。

ただ拒否権というものは当然存在するわけなのだが、『蛇の使徒』が誰かによって拒否権を認める者、認めない者がいるとの事だ。

要するにその後者に位置するのが教授ことワイスマンであるため、命令を聞かないから消すという事はないが、それ以外の強行手段に出る場合がある。

その中の最悪の事例の一つが先ほどレーヴェが口にしたものであるためか、自ずと拒否権は無いものと考える方が良いと彼は認識した。

 

「もっとも、教授が出してくる指示は実験の結果と最低限の方法のみだから、それをどのように行うかは実行する本人に委ねられる」

 

「……それはつまり、被害を出さない手段を選んでも結果を出せば何も言われない、という事ですか?」

 

「そういう事になる。まあ、それだけであっても全く被害を出さず終わらせるというのは実験内容によって難しいときもあるがな」

 

「今度行われるはずの実験の中では、ヴァルターのがその良い例に当てはまるわよね~」

 

ヴァルターという聞き慣れない名前が出た事でそこを尋ねてみれば、その人物も二人と同じ『執行者』の一人らしい。

ついでに話された話によれば、今度実行される実験とやらに関与する予定の『執行者』はそのヴァルターと二人を含め、全部で六人。

そのほとんどが一ヶ所に纏まって留まり続けるような人たちではないため、基本的にはこの場所にもいるときよりいないときの方が多い。

かといって仲が悪いというわけではなく、必要以上に慣れ合わないだけ。会ったら会ったで話をするくらいはあるとの事である。

ともかくそういうわけで現在、レーヴェやレンでも誰がここにいるのかは把握しておらず、全員を紹介しておくとも言えないというわけだ。

まあ、『結社』に入るわけではないのだから紹介する意味はないのだが、とりあえずそういう事で会う事があったときにでも紹介するといって話を区切る。

 

「ところで話は変わるんだけど、キョウヤは元の世界に戻る方法を探したいって言ってたよね? 具体的に何をするかっていうのは、もう決まってるの?」

 

「それはさすがにまだだが……何か良い方法でもあるのか?」

 

「う ん。んっとね、教授もアレで実験の事しか考えてないからあんまり当てには出来ないし、キョウヤが一人でいろいろと探し回るには難しいだろうから、いっその 事キョウヤが『結社』に所属しちゃうのがいいとレンは思うのよ。そしたらレンが教授に言ってキョウヤを直属の部下みたいな扱いに出来ると思うから、後ろ盾 も出来つつ外を探し回る事も出来るようになるわ」

 

「む……確かにそれは、普通に考えて魅力的な話かもしれないが……いや、しかし『結社』に入るというのは――――」

 

「悪事を働くのに罪悪感があるっていうのなら、この方法はそれも解決できるわよ? だってレンの部下になるって事は教授からキョウヤに何かしらの指示が行く可能性が極めて低くなるって事だから、悪事を働いてもキョウヤのせいにはならないもの」

 

部下が悪事を働いてもそれは上の人間の指示によるもの故、この場合恭也のせいではなくレンのせいになる。

彼女の言ってる事はつまりそういう事だが、その理論で言うなら別に結社に入らなくとも、教授の指示で動けば彼の責任になるという事。

次いで言うなら別に罪悪感で『結社』に入る事を渋っているわけではなく、悪事を働く事そのものに抵抗があるというのが彼の考え。

だが、それを言ったとしてもレンはまた反論を返すだろう。先ほどまでで十分に分かった事だが、彼女は幼いくせに変に賢い。

故に彼女に言っても無駄だと悟り、困ったような顔でレーヴェのほうを見るが、彼もまたレンを止める術を持たぬのか静かに首を横に振った。

これによって恭也の為す術は実質無くなってしまい、結局レンに押し切られる形で話は進められていった。

 

 

 

 

 

決めたら決めたで即実行な所があるのか、その後は流れるように事が進んでいった。

部屋を出て教授がいた場所へ戻り、彼に先の提案を持ち掛けて早々に許可を貰い、自分の部下という立ち位置で確定させる。

教授が語るによれば『執行者』に直属の部下というのは前代未聞らしいが、別段禁じられているわけでもないので駄目だと言う理由もないとか。

加えて『蛇の使徒』より上に位置する『結社』の最高位の者は存在するが、こういった事は基本『蛇の使徒』に委ねられるため、彼が許可すれば問題は無い。

まあ、組織内で多少の批判はあるだろうが、そこは自分たちで何とかしろとだけ伝え、それ以外は何の問題も無くレンの考えは形となった。

そのついでに組織に入るに当たって戦術オーブメントと呼ばれる代物を作っておくから、後日取りに来るよう言われたが、正直彼にはそれが何なのか分からない。

それ故、オーブメントや結晶回路(クオーツ)に関しての知識を教えるようレンとレーヴェに頼み、部屋を出て元の場所に戻った後、二人による講義が始まった。

 

「戦 術オーブメントというのはこの世界に於ける魔法、オーバルアーツを使うための物であり、使用者の身体能力を向上させる言わば戦闘の補助的な役割を持つ物 だ。これが無くても戦う事は出来るが、基本的に戦闘者はこれを保持しているから持っておいた方が良いのは確かだな。次いでクオーツに関してだが、これは端 的に言えばオーブメントにセットするための魔法の結晶だな。属性は地、水、火、風、時、空、幻の全七つが存在し、戦術オーブメントのスロットに嵌め込んだ 組み合わせ次第で多種多様なオーバルアーツが使えるようになる。加えて各属性によって影響する身体能力が異なる故、そこの辺りも考えてセットするのもいい だろうな」

 

「た だぁ、クオーツにも強さっていうものがあって、ある段階の強さを持つクオーツを嵌め込むにはオーブメントのスロットを強化する必要性があるのね。その点で 考えると作ったばかりのオーブメントは自ずと初期状態のままだから、あまり大きな力を持つクオーツはまだ嵌められないっていう事になるわね」

 

「ふむ……使い方に関しては大体分かったが、そのクオーツという物は簡単に手に入るような代物なのか?」

 

「う ん、割と簡単に手に入るわね。この世界には魔獣っていうのが存在するんだけど、魔獣の構成物質の中にはセピスっていう鉱石あるの。魔獣を倒すと構成物質の 中でこれだけが還元されて排出されるから、それを集めて合成する事でどの属性のクオーツにしても手に入れる事が出来るわ。ついでにセピスはスロットを強化 するのにも使えるから、必要なクオーツが揃っても集めておくだけ損は無いわね」

 

要するに魔獣を倒してセピスを集め、オーブメントの強化と必要なクオーツを作成する。これがこの世界で強くなる一つの術との事。

参考までにレンとレーヴェがしている組み合わせというのを聞いてみたが、二人ともこればかりは教える事ではないと口を揃えて言う。

例え教えたとしても、それが本人に合うか合わないかは別問題。下手をしたら自分に合った組み合わせというのを見誤る可能性も考えられる。

要するに口にしないのは彼のためでもあるため、恭也もそれ以上二人へ追及する事はなかった。

 

「それにしても、会った時から思っていたんだが……お前は武術か何かを嗜んでいるのか? 見た所、常人とは身のこなしが違うように見えるが……」

 

「まあ、一応剣術を少し齧ってはいますね……それがどうかしたんですか?」

 

「いや、別に何かやってるからといってどうこうというわけではない。言うなれば、好奇心のようなものだ」

 

「あ、レーヴェが嘘付いてる~。本当はちょっと手合わせしてみたいなとか思ってるくせに……ほんと、変な所で引っ込み思案よねぇ」

 

すぐさま指摘するレンにレーヴェは照れを浮かべるでもなく、無表情で壁に凭れたまま目を閉じるのみだった。

おそらく彼が今手合わせを願ってこないのは、オーブメントの件があるからだろう。あれは身体能力も向上するため、多大なハンデになる。

彼としては純粋に武術のみで手合わせがしたいと考えているため、オーブメントを手に入れていない現状ではしないという選択肢を取った。

そこの辺の考えが先ほどまでの説明も踏まえる事で何となく理解出来た恭也は苦笑した後、短くまた今度手合わせを願えますかと口にする。

彼はそれに目を閉じたままではあったが、小さく頷いて返してきた。そしてそんな二人のやり取りを見ていたレンはといえば……。

 

「レーヴェとキョウヤって、何か似た者同士って感じよね」

 

小声でそんな事を呟きながら、小さく溜息をついていた。ただ彼女だけに限らず、他の誰かがいれば同じ事を思ったかもしれない。

純粋な武術のみで手合わせを求める人間はレーヴェ以外にも組織には存在するが、彼は中でもその傾向が強く出ている部分がある。

任務ならそんなもの出さずに迷いなくアーツも使うが、任務外であるなら結構分かり易くそれを出す。それは結構一緒にいる頻度が多いレンには見慣れた光景。

それと同じくして今のやり取りも含め、恭也にも似たような傾向が見られた。別に戦う事を楽しまない彼女として、呆れしか浮かばないというわけである。

ただ本人らにはなぜ彼女が似た者同士としたのかが良く分からず、またなぜ呆れられてるのかも分からず、首を傾げるしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

レーヴェって狂気に走ってる部分とかあるけど、任務のとき以外では結構普通だと思うんだよね。

【咲】 まあ、常時そうなら完全に頭の逝っちゃってる人になっちゃうしね。

うんうん。ついでに原作でも思ったけど、レンって比較的レーヴェと一緒にいる事が多いと思う。

【咲】 でしょうね。レンはレーヴェとヨシュアに助けられた子なんだから、ヨシュアがいない現状ではレーヴェしかいないわけだし。

ついでに3rdではレーヴェが死んだ事実について悲しんでたしね。

【咲】 そこを考えるとエステルたちと出会う前は二人にだけ懐いてたんでしょうね、レンは。

だろうねぇ。まあ、この話での恭也とレンに関しては、レンが懐いてるとかじゃないけどな、最初の方は。

【咲】 レンが恭也の保護者を気取ってるんでしょ? 本当にませた子よね。

そこが可愛い一面でもあるんだけどね。とかくそういうわけで選択の余地もなく、彼は『結社』に組み込まれる羽目に。

【咲】 レンの考えは大体分かったけど、それを簡単に受け入れたワイスマンの考えがいまいち分からないわね。

彼は彼で使えるものは使うという考えがあるけど、侵入者の可能性も捨てきれんのに簡単に受け入れたのは理由があるかもしれんね。

【咲】 どうせ碌な考えじゃないんでしょうけどね。

まあ、それは確かにね。とまあこの辺りで次回の話に移るが、次回は『執行者』の中の何人かと恭也が会うな。

ついでに時間も若干経過する予定だから、もしかしたらレーヴェとのバトルまでいくかもしれん。

【咲】 会うっていう『執行者』が誰なのかも気になるけど、バトルのほうが気になるわね。恭也とレーヴェだとどっちが強いわけ?

十中八九、レーヴェだろうね。剣術面に於いては多少の差だろうが、アーツとかに関してはレーヴェのほうが上だし。

【咲】 ま、それが当然といえば当然ね。ていうか、あの二人に指南を受けるって結構凄い事よね。

確かにな。二人とも『執行者』なわけだし、直々に指南を受けるなんてほぼ無い事だろうからね。

【咲】 ある意味、かなり恵まれた環境よね。

まあねぇ……てなわけで今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では~ノシ

 

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る。