このSSはとらハ3と空の軌跡のクロスオーバーです。
話の主軸となる空の軌跡の時期はFCの事件後、SCのお話前という箇所から始まります。
ですが、その前提となる部分として枠付けはしていませんが、少し長めの序章のような話(時期はFC前)をする事になります。
といってもある程度が語れらたら時間を大きく動かしますし、本編に入ってもキャラの都合上で本編のストーリーがかなり端折られる可能性は極めて大です。
更には違和感もかなり出てくると思います。ですので、そういったのを許せる方で読んでみようと思う方のみ、どうぞお読みください。
彼女はずっと、願っていた。
幼い身ながら愛すべき人に捨てられ、新たな居場所を手に入れた今でも……
ただひたすら願い続け、そして欲していた。
それは他人から見ればちっぽけな、それでいて些細なものかもしれない。
だが、周りからしたらそのように思える『ソレ』こそが、彼女に唯一与えられなかったものだから。
でも、彼女は知っている。
願っているだけで思いが叶う事など、ありえないという事を。
そして同時に、今の自分ではいくら欲しても、手に入ることなどないという事を。
だからいつからか願いを心の奥底に沈め、二度と開かぬよう鍵を掛けた。
これ以上空しい思いを抱いて、自分が傷つくのが怖かったから……
だけど、彼女は知らなかった。
自分には手に入らないと思っていた『ソレ』を、与えてくれる人がいるという事を。
それは一つの不思議な出来事が生んだ、本来ならあり得ない出会い。
しかし、それは偶然などではない……彼女にとって、彼にとっての、運命と言える出来事。
これは、そんな少女と青年の出会いから始まる――――
――――軌跡を綴った、物語
Trajectory
Draw Sword
プロローグ
深夜一時。街からほとんどの明かりが消え、誰もが寝静まるであろう時間。
そんな時間、この街――海鳴市でそれなりに目立つ純和風の一軒家の縁側にて、彼――恭也は座っていた。
夜の鍛錬から帰り、風呂に入って一度は寝たものの、大した時間も経たずして目が覚めた。
それから寝ようにも寝れず、仕方なしに誰も起こさぬよう茶を用意して縁側に訪れ、今に至っている。
「…………ふぅ」
茶を一口飲んでは床に置き何度か繰り返しながら、視線はただひたすら夜空へ向かう。
別段何があるわけでもない。目先に浮かぶ夜空はいつもと変わらず、多くの星が輝くだけだ。
変わってる所といえば雲が掛かって見える星がいつもより少ないという、言ってしまえばその程度。
だけど彼はただ夜空を見上げ続ける……何の意味もないと分かっていてもただ、ひたすら。
「いい加減……俺に出来る事もなくなってきたな」
今まで閉じていた口を開き、誰に言うでもなく呟くのはそんな言葉。
それはここ最近、常々思っている事。そして思いながら、彼が悩み続けている事。
弟子である美由希も皆伝をして師としての任も一段落つき、同時に家族の皆も少しずつ成長を見せてきている。
身体だけでなく、それは心も……それを目にしてきたからこそ、最近はこの悩みが耐えない。
成長した彼女たちがいつか離れていくとき、彼女らを守ってきた自分はこれからどう生きればいいのか。
剣士としての道は砕いた膝のせいで諦めざるを得ない。だけど、それ以外では彼自身に成したい事はないのだ。
無論、様々な人から様々な事を勧められてはいる。しかし、そのどれもがなぜかしっくりこず、明確な返事も出来ない。
だから悩みは解決されることなく頭に残り、ただ時間だけが過ぎていく中で今に至っている。
「…………」
そんな悩みを今も抱えながら、彼はずっと夜空を見上げている。
そこに答えがあるわけないのは分かっている。だけどそれでも、視線はそこしか向けられない。
静寂が辺りを包む中でただ夜空に輝く星を見上げ、答えの見つからない悩みを頭に巡らせるしかなかった。
――リン
その音が聞こえたのは、そんなときだった。
深夜故に辺りが静かだったためか、その音は明確にはっきりと彼に耳に届いた。
音からすれば鈴の音……だけど、辺りには猫など動物の気配は一切ない。
故に彼は気のせいかとも思いもしたが、続くように同じ音が今一度彼の耳へと聞こえてきた。
――リン
今度の音は先ほどよりも少しばかり大きい。しかし、やはり動物の気配は全くない。
だけど二度もはっきりと聞こえては恭也も不信に思ったのか、縁側から立ち上がって自室へと向かう。
そして一分と経たずして二本の小太刀を携えて戻り、庭用の草履を履いて中央へと立つ。
――リン
庭の中央に立つと同時に再び聞こえた鈴の音。しかも、またしても先ほどより大きくなっている。
警戒の念を抱き小太刀を持ってきたのだが、さすがに三度も聞こえるとその判断は正しかったと彼自身思う。
誰が何の目的でこの家に侵入しているのかは分からない。だが、少なくとも相手は只者ではない。
気配を感じ取る事が得意な彼に一切の気配を感じさせず、今も隠れ潜んでいるのだから。
だから彼は意識を集中させながら、腰に差した小太刀の一本に手を掛け、警戒しながら相手の出方を窺う。
しかし、そのとき――――
――リン
――――四度目の鈴の音と共に、不可思議な紋章が彼の足元に描かれた。
現実離れした現象故か、驚きの余りに呆然と彼は地面に描かれる紋章を見る。
だが紋章の放つ光が強くなったのと同時に我に返り、すぐさまそこから飛び退こうとした。
でもその行動を起こすには時遅く、強くなった光が彼の姿を外から見えなくなるほどに覆い尽くす。
そして光が彼の身体を覆ってから十数秒……ようやく収まりを見せ、地面から紋章が消える。
だけど――――
――紋章が浮かんでいた場所にはすでに、彼の姿はなかった。
「へ~……妙に何かを感じると思ったら、そういう事だったのね」
どこかの湖畔にある大きな施設。その内部にある広間にて紫髪の少女はいた。
その少女の近くには銀髪の青年、二人から少し離れた位置にて眼鏡を掛けた男性も同じくいる。
そしてこの三名の視線が集中するのは、少女の手に持たれている小さな鈴であった。
見た目は何の変哲もない鈴。それは少女が少し前に用事で外出した際、立ち寄った森で見つけたもの。
その見つけたときの状況詳細を細かく説明した所、少しばかり驚きながらも眼鏡の男性はそれをこう呼んだ。
――アーティファクト
古代に創られた様々な道具。現在の人々はそれらを総称してそう呼んでいる。
当然様々と言うだけあって創られたのは数多く、世の中でも見つかっているのはほんの一部程度だけ。
だけどそれだけでも中には強大な力を秘めた物があるため、基本的に『七耀協会』という組織がこれを管理している。
しかし、あくまで彼らが表立って管理を表明しているだけであって、世界中の誰もこれを手にしていないというわけではない。
一部の組織……要するに世間的には悪と呼ばれる組織などは『七耀協会』の目を欺き、これを入手、所持していたりする。
彼らもそんな組織に属する人間……だからこそ、これを見つけても報告せず、自分らの拠点に持ち帰っているわけなのだ。
「それで教授、このアーティファクトってどんな力があるのかしら?」
「それは私にも分からんよ。ただ分かるのは、レンが言ったように少し変わった力の流れを感じるということぐらいだね」
「ふ~ん……」
少女――レンは彼の言った事を聞いているのか分からない曖昧な返事を返す。
そして先ほどからずっと手元に持っている鈴を摘み上げ、軽く鳴らしながら見詰めていた。
彼女のそんな様子に教授と呼ばれた男性は怒るでもなく、ただ興味深げに同じく鈴に視線を向けていた。
しかし、彼はしばらくそれを見詰めると小さな息を吐き、視線を逸らすと共に彼女へと告げた。
「それが何なのかはっきり分からないのが現状だな。まあとりあえず、それは倉庫にでも置いておいてくれ。時間があったら私が調べてみよう」
「え~……レンが貰っちゃ駄目なの?」
「ふむ、ご執心のようだしそうしてあげたいのは山々だが……何が起こるかも分からない代物だからな。済まないが、我慢してくれ」
「む~……」
諭すような口調とは裏腹にどこか邪な感情を伺わせる笑みを彼は張り付かせる。
だが彼がそんな笑みを浮かべるのが至極普通の事なのか、レンは気にも留めず不満気に頬を膨らませる。
しかしそんな彼女も傍にいた銀髪の青年に頭を二、三度軽く叩かれると小さく溜息をつき、仕方なしに頷いた。
教授との話を終えた後、レンと銀髪の青年は広間を退出して通路を歩いていた。
向かう先は先ほど話に挙がった倉庫なのだが、通路を歩くレンの足取りは心なしかゆっくり気味。
加えて歩く間もまだ未練があるのか、自らが見つけてきた鈴を見詰めながらリン、リンと鳴らしている。
そんな彼女に青年は先ほどまでこそ何も言わなかったがここに来て見かねたのか、溜息と共に口を開いた。
「そんなに鈴が欲しいのなら、今度街にでも行ったときに買えばいいんじゃないか?」
「分かってないわね、レーヴェ。レンは鈴が気に入ったんじゃなくて、この鈴が気に入ったの」
鈴は鈴なのだからどれも変わりない。そんな考えがあるからか、彼女の言葉に彼――レーヴェは首を傾げる。
彼のそんな反応から理解していないと読み取ったレンはどこか呆れるようにやれやれと首を振る。
そして再び鈴へと目を向け、軽く左右に揺らしながら変わらぬ小気味良い音を奏で続ける。
レーヴェとしても先ほどの言葉はよく理解出来なかったが、レンがどれほどこの鈴を気に入ったのかがこの様子から読み取れた。
だが教授の指示である以上は意向に背くわけにもいかず、黙って彼女のその姿を見ているしか出来なかった。
「折角良い物見つけたと思ったのに……こんな事なら教授に報告したりするんじゃなかったわね」
聞きようによってはかなり問題発言だが、そこに関しても彼は何も言わない。
というよりここに彼以外の誰か、もしくは教授がいたとしてもこの言葉に対して苦笑する程度が関の山だろう。
それは彼女の地位がある程度高いというのもあるが、一番は彼女の性格を大概の者が知っているからだ。
容姿からして十歳程度のこの少女は非常に気まぐれで、無邪気故か誰に対しても言動に遠慮というものがない。
加えて悪戯好きというのもあってか、猫のような子と見る者が大概。それ故、彼女を窘めても無駄と思う者が多い。
だから本当に行き過ぎでもしない限りは彼女の言動に対しては誰ももう何も言わないというのが現状となっていた。
「まあ、今度似たようなのを見つけて買ってきてやるから、今は我慢してくれ」
「む~、レーヴェも教授と同じ事言う……レンはそんなに我慢強くないもん」
ようやく口を開き諭すような言葉を告げるも、レンの機嫌は一向に直ることはない。
それどころかより一層未練が強くなったのか、それ以降は鈴から一切目を離すことがなかった。
ここまで来ると彼女と接する機会がそれなりに多いレーヴェとしてもどうしていいのか分からない。
それ故に再び黙ってしまう羽目となり、通路には二人の歩く足音と鈴の音だけが静かに響くだけとなった。
――そんな中、突如としてその現象は起こった。
「……え?」
摘み上げた鈴が揺らしてもないのに震えだし、音色を奏でながら白い光を放つ。
しかも光と震えは徐々に強くなり、音のほうもすでに煩いと言いたいぐらいに大きくなっていた。
一体何がどうなっているのか……今もそれを手に持つレンは理解できず、ただ呆然と見るしか出来ない。
だがレーヴェのほうは事態を瞬時に察したためか、すぐさまレンから引っ手繰るように鈴を取り上げる。
そして取り上げた鈴を前方へと投げ、念を入れて呆然とする彼女を抱き上げて後方へと飛び下がった。
――リン
前方の地面へと放られた鈴はやはり震えを収めることなく、より一層音色を奏で続ける。
それを視界に入れながらレーヴェはレンを地面に下ろし、庇うように後ろに下がらせて警戒する。
何の能力があるのか、どれほどの力があるのか、その全てが分からない状態の鈴型アーティファクト。
それが今こうして音色を奏で光が発せられているという事は、レンの行動のどこかにそれの発動条件があったという事。
だけどそれが一体何なのかまでは分からない。分からないからこそ、能力の推測も一切出来ない。
――リン
要するに何もかもが分からない現状では、レーヴェとしても警戒する以外打つ手はない。
教授ならばこの事態に対する応急的な手を考えられるかもしれないが、呼びに行く暇があるとは思えない。
結論からしてレンを守るようにして震えながら光り輝く鈴を見据える事しか出来なかった。
――リン
そして彼が見詰め続ける中、鈴は更なる動きを見せ始めた。
変わらず音色と光を放ちながらゆっくりと浮き上がり、地面に独特の紋章を浮かび上がらせる。
それはアーツを行使した際の紋章に似てもいるが、細かい部分がそれとは全く別物だと指していた。
一体何が起こるというのか……予測が出来ない彼の目の前で、鈴の発する光は眩いほど強くなり――――
――瞬間、彼らの耳に何かが砕ける音が響いた。
光の強さ故、咄嗟に目を閉じてしまい、何が砕けたのか分からなかった。
だが、光の収まる気配を感じて目を開けた際はそれを理解出来るも、同時に驚きの光景が広がる。
砕けたのは先ほどまで光を放ち、音色を奏でていた鈴。地面に落ちる破片から、それを察する事が出来た。
突然動きを見せたアーティファクトが砕けてしまった……本来ならばそれだけでも驚きに値する事態だ。
しかしそれ以上に驚かざるを得ない事態が、砕けた鈴の破片が散らばる場所にあった。
「っ……一体、何だというんだ」
光の晴れたその場所にあったもの。それは先ほどまではなかった青年の姿。
黒髪と腰に携える二刀の短い剣が印象的なその青年は、光を遮るためか腕で目を隠していた。
だが光が収まっているのに気づくと呟くような一言を発し、目を覆っていた腕を静かに下ろして目を開ける。
そして目を開けた瞬間に二人の姿を視界に捉え、二人と同様の驚愕を表情に浮かべた。
「貴方たちは……いや、それ以前にここは一体……」
驚きの眼のまま呟き、彼らから視線を外して周りを見渡す青年。
そんな彼に対して、本来ならば警戒しなければならないはずの二人も未だ呆然としたまま。
だがそれも仕方の無い事だろう……アーティファクトが砕けたかと思えば、見知らぬ青年が現れたのだから。
しかし、驚いたのは何もそれだけが理由ではなく、突如現れた彼の容姿に関しても驚きの対象であった。
短髪の黒髪、腰にある普通のものより短い剣、それらは彼らの知るある人物の特徴と酷く酷似していた。
だから二人とも驚きを浮かべざるを得ず、しばらく呆然とした後、呟くような声色でレンは――――
「ヨシュ……ア……?」
――静かにその名を、口にした。
あとがき
空の軌跡とのクロスといえば、大概はエステルやヨシュアと行動を共にするストーリーだわな。
【咲】 でもアンタが書いたのはそれに反して、結社側でのお話なわけね。
そういうことだ。まあ、そうした理由は単にレンが好きだからというのなんだがな。
【咲】 ふ~ん……でもさ、恭也が結社側につくっていうのは考えにくいと思うけど?
まあな。だけど、結社につくという意味じゃなければ彼がいる理由にはなるさ。
【咲】 レンを守るため、だとか?
まあ、それもあるかもしれんが、それだけとは限らん。
【咲】 へぇ……まあ、結局のところ後々になればわかるってことね。
そういうことだな。とまあそんなわけで、このお話は基本的に結社サイドが主だな。
【咲】 というか、恭也とレンのサイドよね。
うむ。ま、エステルサイドもあるかもしれんがな。
【咲】 要するに、どうなるかは書いてみないと分からないって事ね。
つまりはそういうことだ。じゃ、今回はこの辺にて!!
【咲】 また次回会いましょうね~♪
では~ノシ
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