光神の酒を手に入れ、ルクの村へと帰った恭也たちを長老であるアドルフはお世辞にも喜ぶような事はなかった。

むしろがっかりしたような声色で本当に持ってきてしまわれたのですな……などという辺り、諦めて欲しかったのだろう。

しかし持ち帰ってしまった後ではもうどうしようもなく、アドルフは四人が持ち帰ったその酒を各自一口ずつ飲むよう言ってくる。

だけどこれを四人は渋る。恭也は下戸だという理由で、ジャスティンとスー、フィーナの三人はまだ子供だからという理由で。

実際問題として恭也は下戸ではなく、お酒が嫌いなだけ。後の三人は子供というのは確かだが、そういう法律とかは無いので飲もうと思えば飲める。

だが、提示されたそれらの理由を考慮したのか、ならば無理に飲まなくても飲む真似だけしてもらえばいいと言ってきた。

提示された妥協案にそれならばと了承した四人は早々に一人一人杯に酌まれた酒に対して飲む真似というのを行った。

全員がそれを行ったのを確認した後、まだ若干の不満のようなものはありがならも村の客人と認め、今夜泊まる場所としてレムの家を紹介してきた。

何でもレムを助けてくれたという事実はレムの両親にも伝わり、助けてくれたお礼として是非とも我が家に泊まって欲しいとの事らしい。

別段それを断る理由も無く、四人はその紹介を受ける事にしてとりあえず、レムの家の場所を教わった後に長老の家から外へと出た。

 

「さってと……長老から許しも貰った事だし、早速村の中でも探索しようぜ!」

 

「そうね。それに『世界の果て』を目指すなら本格的に『霧の樹海』を通らないといけないから、食料とかも買っておかなきゃ」

 

『霧の樹海』を通るには霧除けの実というのが必要になるが、これはどうも貴重な物らしく分けてもらえるとは思えない。

かといって無ければ無いであの深い霧の中を進むのはかなり困難。だがまあ、無い物強請りをしても仕方ないのも事実。

それ故にせめて食料を多めに買い足す必要があるため、目的はかなり違うがフィーナはジャスティンの言葉に同意した。

加えてジャスティンと同じく村内を見てみたいのかスーも二人に同行すると言い、となれば恭也も付いてくるだろうと思われたのだが……。

 

「俺は遠慮しておく。まだ少し頭痛もするし、疲れもあるから休みたいのでな」

 

「あ~、そういえば頂上についたときも顔色悪かったもんな。んじゃ、探索とか買い物とかは俺たちでしとくから、恭也はゆっくり休んでてくれよ」

 

「ああ……お言葉に甘せて、そうさせてもらうとする」

 

頂上のときほどではないが若干まだ恭也の顔色は悪い。それ故、ジャスティンもスーも納得してゆっくり休むよう言う。

フィーナも二人と同じ言葉を口にはするが、二人以上にかなり心配そうな表情。頂上での事を一番間近で見ているのだから無理もないだろう。

そんな彼女の様子が目に入ったのか恭也は心配するなと視線だけで返し、三人に背を向けてレムの家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GRANDIADifferentWorld Guardians

 

 

第十話 祀られし神へ舞い降りる驚異

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索と言っても実際のところ、この村では探索するほど何かがあるわけではない。

他者の家に入るわけにもいかず、外を見て回っても珍しい木彫りの像があるくらいで他は特に何もない。

加えて光神の許しを得たとはいえ、他所者という立場上では下手に歩き回り続けるとあまり良い目では見られない。

そのため探索という行為は早々に止め、もう一つの目的である買い物を済ませるために村でただ一つの店へと赴いた。

外装的にも内装的にも極端に大きい訳ではないが、食料品やら薬やら、武器やら防具やらと品揃えは中々に良い。

故にフィーナはまず元々の目的である食料品方面のほうへと行くのだが、反してジャスティンとスーは武器防具方面へと赴いていた。

 

「この剣なんか、結構格好良くないか? ほら、柄の飾り具合とか特にさ」

 

「う~ん、確かにちょっと格好良いとは思うけど、凄く使い難くそう……それだったら私はこっちの方が使いやすくていいと思うわ」

 

「分かってないなぁ、スーは。こういう格好良い剣を使って戦うってのはな、男の子の夢なんだよ」

 

「夢と現実面を比べて夢を取る辺り、ジャスティンもまだまだ子供よね~」

 

いつもはどっちもどっちな言い合いをしてるためどちらが年上か分からなくなる二人。だが今回ばかりはスーのほうが言い分は正しいだろう。

しかしジャスティンも子供という単語が癪に障ったのか、負けじと彼女に反論を返し、結果としていつもの調子で言い合いを始める。

普段ならこうなった場合放置する事が多いのだが、今はそういうわけにもいかない。ここにいるのは自分たちだけではないのだから。

そのためフィーナは食品選びを中断して慌てて駆け寄り、二人のそれを窘めて周りへとペコペコと頭を下げて謝罪した。

 

「もう……光神の許しを得ても私たちが歓迎されてるわけじゃないんだから、注目を浴びるような事は止めてよ、二人とも」

 

「「……ごめんなさい」」

 

周りに謝罪した後に二人へともう一度窘めの言葉を放ち、二人は反論できず悪かったという意識もあるのか素直に謝る。

こんなところでも言い合いをする二人に若干呆れ気味ではあったが、フィーナも過剰に怒っているわけではない。

だから叱るという行為はそこで止め、こちらを手伝ってと口にしようとするが、それよりも先に武器の中のある物が目に入る。

その目に入った物とは、ナイフ。柄の装飾も至ってシンプルで、使い勝手という面では一目見ただけでも良いように彼女には見えた。

それ故に自然と手を伸ばし、実際に持って確かめる。すると見た目通り中々手に馴染み、何より普通のより軽い感じがした。

 

「いいわね、これ。何本か買っておこうかしら……」

 

「何本かって、一本で十分なんじゃ……ああ、そっか。フィーナって確か、ナイフを投げたりして使ったりもしてたっけ」

 

「ええ。あれでたまに投げたナイフが見つからなくなったりもするのよ。だからいつも予備も含めて、十本近くは持ってるようにしてるの」

 

「そうなんだぁ……あ、今思ってたんだけど、もしかしてナイフの使い方とかも恭也に習ったりしてたの?」

 

「もちろんそうよ。特にナイフの投げ方なんか中々的に当たるようにならなくてね……挙句に大失敗して兄さんに当たりそうになった事もあったわ。そういえばあのときは普段顔を変えない兄さんが、あからさまに呆れた顔してたなぁ……」

 

誤って飛んできたナイフが自分に当たりそうになって呆れるだけで済むというのも正直どうかと思えてならない。

しかしまあそれよりも二人にとってはフィーナにもそんな時期があった方が驚きであり、それをそのまま表情に出していた。

二人から見たフィーナとはあらゆる事に万能で戦闘もかなりの腕。鞭はもちろん、ナイフでも狙った的は決して外さない。

冒険者としては尊敬の対象になり得る少女。だけどそんな彼女にもそんな時期があった事は、遠く思えた彼女が身近に感じられる事実。

驚きの表情を浮かべた後、真ッ正直にそれを伝えればフィーナは当然照れを浮かべ、頬を掻く仕草を見せる。

 

「私だって人だもの。初めからこんなに出来てたわけじゃないわ……むしろ私としては、兄さんにそんな時期があったのかって方が疑問でならないわ」

 

「あ~、それは確かにな。恭也って何でもそつなくこなすし、何より強いからなぁ……たまに本当に同じ人間かよって疑うよ」

 

「私も確かにそう思うけど、それは兄さんの前では言わない方がいいわね。言ったらたぶん、落ち込むから」

 

過去、フィーナはジャスティンが言ったような事を悪気の欠片も無く聞いた事があったが、そのときは激しく落ち込んでいた。

怒るのではなく落ち込む。しかもあまりの落ち込みように慰めたくなるくらい。だからフィーナもこれを禁句とし、それ以降は口にした事はない。

それをまた別の人間に言われたとあれば、下手したら以前よりも落ち込む可能性があるため、一応釘を刺しておいた。

そしてそれに二人が若干笑いを堪えながら頷くのを見た後、手に持っているのと同質のナイフをもう数本ほど手に取った。

それから二人を連れて再び食料品の場所へと行き、今度は二人と相談しつつ冒険のための食糧選びに集中するのだった。

 

 

 

 

 

村の入り口からすぐ近くにある一軒の家。それが長老から紹介されたレムとその両親が住む家である。

村内は入り組んでるわけでもなく、その家が特に迷う位置にあるわけでもない。それ故、恭也も一直線にそこへ赴いた。

家の中で初めて会うレムの両親は村の人々とは違い、他所者という意識よりも大事に客人という意識のほうが強いのか、笑顔で歓迎してくれた。

その際にジャスティンらはどうしたのかと両親の間にいたレムが聞いてきたが、そこは事情を軽く説明する事で納得してくれた。

と同時にレムの父親によって休める場所のある二階の一室へ案内され、ゆっくり休んでくれという言葉を残して部屋を出て行った。

 

「ふぅ……」

 

案内された一室にはベッドはおろか布団も無い。寝るためにあると言えば、茣蓙のような敷物だけだ。

一見ぞんざいな扱いをされているようにも見えるが、実際は違う。おそらくはこの村の寝床と言えばこういう形なのだろう。

それ故に特に疑問に思う事も不快に思う事もなく、恭也は茣蓙の上に寝転がって小さく息をついた。

 

「注意しろとは言われていたが、まさかこれほどまでとはな……」

 

横になっても眠る事は無く、先ほどの事を考える。光神の前に立ち、その瞬間に襲われたあの感覚の事を。

以前もこれと似たような事になった経験はある。そのときはとある人に助けられ、同時に今呟いたような言葉を告げられた。

今でも忘れられないそのときの事が今回の件でまた頭を過ぎる。もう一人の妹のような少女が、いなくなる切っ掛けとなったあの日の事が。

自分の事は気にしなくていい、妹を悲しませるような事はするな。その他にも様々な言葉を言い、彼女を止めようとした。

だけど彼女の覚悟はあまりにも硬過ぎた。どんな言葉を告げ、どんなに必死に止めようとも――――

 

 

 

――私が恭也兄さんを助けてみせる……ただそれだけの理由で、彼女は譲ろうとしなかった。

 

 

 

妹と同じで彼女はあまりにも優し過ぎた。兄と言っても血の繋がりも無く、結局は他人でしかない恭也を助けると言うくらいなのだから。

もちろんそこに第三者の存在があったのも事実だが、そんな道を選んでしまったのは間違いなく彼女自身の意思によるもの。

だから制止も聞かず、妹の事を恭也に任せて去ってしまった。短い時間とはいえ、皆で過ごしていたあの暖かい場所から一人去ってしまった。

それが今でも恭也にとって悔みに悔みきれない事。自分の存在がなければ、もしかしたらあの二人は今も共にいたのかもしれないのだから。

 

「本当に……どうして俺は、この世界に来てしまったんだか」

 

悔やむ気持ちは必ずその疑問へと行き着く。だけどその疑問は自分では分からず、他人に聞いても明確な答えは出ない。

彼女が去ったあの日にいた第三者たる男曰くは、どんな状況や結末であれ、それに至るのはそれが運命だからではないかとの事。

だから恭也がこの世界に来た事も、彼女があの選択を選んだ事も、全ては世界の指し示す方向へとただ進んでいるだけ。

その男の言う事は要するにそういう事だが、正直納得は出来ない。二人の姉妹が離れ離れになる事が運命など、到底納得できるわけもない。

例え自分の現状が運命だとしても……だが、それをどうにも出来ないのも事実。彼女を連れ戻す事も、自分の身体をどうにかする事も……。

 

「はぁ……」

 

あの日の事を思考する事でそんな事を再確認してしまった恭也はまたも小さな溜息をつく。

どうにかする事を諦める気は毛頭無い。だが、手段が無いのであれば意気込みがあっても意味は為さない。

むしろこのままでは今も傍にいるもう一人の妹さえ危険に晒される。それを避けるため、恭也は何度となく彼女から離れようとした。

だけどそれは無理だった。それも運命だと言ってしまえばそれまでだが、おそらくは無意識に共存を求めているのも理由にあるだろう。

恭也からしたら、この世界で唯一の家族と呼べる子の一人として。彼女からしたら、唯一自身の傍にいてくれるただ一人の兄として。

自惚れかもしれないが、少なくとも今にして思えば彼自身そう思える。だからか、自然と表情には自嘲気味の笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

時間が過ぎるのは早いもので、恭也が寝床について身体を休め、残りの三人が買い物をしてから二時間近くが経過した。

元々山に登って光神の酒を取りに行っていた事もあり、二時間過ぎただけで日はすでに傾き始めている。

それ故か、ちょうど良くも買い物を終えてドッサリと買った荷物を手に店を出た三人は真っ直ぐ、レムの家へと向かい、間も無くして到着した。

そこでレムの両親から恭也が寝床で休んでる事、夕食までは後一時間くらい掛かる事を聞き、寝床の場所を聞いてそこに赴いた。

階段を上がる音で起きたのか、それとも元から起きていたのか、どちらかは知らないが赴いたそこでは恭也は胡坐をかき、三人を出迎えた。

そして会うや否やでもう大丈夫なのかと各々言葉や表情で問い、それに対して彼はいつものポーカーフェイスで大丈夫だと短く返す。

いつもならフィーナ辺り本当かと問い詰めたりするのだが、顔色も確かに良くなっているので嘘ではないと判断し、そこに関しては何も言わなかった。

 

「それにしても……またずいぶんと買い込んだな」

 

「それはそうよ。霧除けの実が無い上に『霧の樹海』を本格的に歩いた事なんて今まで無いんだから、備えは万全以上にしておいて損はないわ」

 

「いや、それは分かるんだが……食糧はまだしも、これは買う必要もなかったんじゃないか?」

 

「それは、私もそう思ったんだけど……ジャスティンが欲しいって譲らなくて」

 

柄の装飾が中々に目立つ剣。それを買った理由を聞けば、本当に呆れるしかない言葉が返ってきた。

故になぜこの剣が欲しかったのかと聞くために視線を向けるのだが、その時視界に入った彼の嬉しそうな笑みで全てを悟った。

要するに格好良いとか、そんな理由で欲しがったのだろうと。だが恭也としては使い勝手を重視するため、お世辞にも良い剣だとは思えない。

だけど正直説教する気にもなれない。元々疲れもあって休んでいたのもあるし、そこまで悪気を感じてないと逆に怒る気も失せる。

そのため溜息をつくだけでその剣を床へ置き、続けてもう一つ目立つ物へと手を伸ばしてフィーナへと向き直った。

 

「だが、さすがにこのナイフの束はジャスティンが欲しがったからじゃないな? むしろ、確実にこれはフィーナが欲しくて買ったんだろ?」

 

「それは、その……ほ、ほら、最近ナイフを投げでばかり使ってるから、よく無くなって消耗が激しくて」

 

「ほう、それは妙だな。俺がお前たちと行動し始めてから今まで、お前は鞭しか使ってなかったと思うのだが……」

 

「そ、それは兄さんの勘違いよ」

 

「ふむ……そうか、俺の勘違いだったか」

 

「え、ええ」

 

「って、そんな嘘に引っ掛かるわけなかろうがこの愚妹が!」

 

嘘で誤魔化そうとしたフィーナへお仕置きだと言わんばかりに強めのデコピンを額にお見舞いした。

基本的にフィーナが小さかったときから何か悪い事をした際、お仕置きとして行ってきたのはそれだ。

ただ昔のままの威力では弱すぎると判断して少し強め。それ故か、彼女の反応は額を抑えて激しく痛がるというもの。

しかし次に彼女から口にされるのは非難の言葉ではなく、謝罪の言葉。さすがに彼女もこの嘘が通るとは思ってなかったのだろう。

だけど本当の事を言えば必ず何か言われると思い、思わずそんな馬鹿げた嘘を口にしてしまった……つまりはそういう事だ。

だからそれが嘘だとばれた以上は嘘に嘘を重ねる事もなく、素直にごめんなさいと口にして本当の事を話した。

 

「その……ちょっと軽くて使い易いし、見た目もシンプルだったからいいかなって思って。でも、一本だけっていうのも物足りなかったから……」

 

「つい数本纏め買いをしてしまった、と……はぁ、まあそんな事じゃないかと思ったがな」

 

「……てことはさ、つまりフィーナって俺たちにも嘘付いてたって事だよな?」

 

「う、うん。ごめんなさい……こういう衝動買いのくせがあるって、あんまり思われたくなくて」

 

実際フィーナは過剰な衝動買い癖があるわけではない。むしろ、冒険者なだけあって金銭面ではかなりシビアなほうだ。

しかしなぜかナイフとか鞭とか、自分の使う武器になると枷が外れ、気に入ったのがあるとつい衝動買いをしてしまう。

昔は恭也によって抑えられていた一面があったが、今では金銭管理のほとんどをフィーナが受け持っているため、枷は外れやすい。

それが今回の事というわけだ。ただ謝られた側のジャスティンもスーも意外な一面と思いこそすれ、不快に思う事は無く、気にしてないと首を振るった。

 

「し かし、今回はナイフを数本程度で良かったと言えるが、これが高額な物になると馬鹿にならんからな。冒険を続ける上で資金の管理はより重要になるのだから、 今後はなるべくこういった事は避けるように……それでももし本当に欲しいと思う物があるのなら、必ず俺に聞いてからにするようにな」

 

「じゃ、じゃあ、これは返品しなくても……?」

 

「ああ、それくらいなら問題はないだろうしな。むしろ返品するべき品があるとしたらそれよりこっちだろ」

 

そういって手に取るのは先ほど置いた剣であり、その言い分にはジャスティン以外の者が同意する。

ただ、恭也もさすがに一度買った物を返品する気は無い。別段金銭面でキツイというわけでも無いし、買った物は活用すればいいのだから。

だから返品しない代わりに買ったからには使うという条件を飲ませ、その剣に関する話題はそれで完全に終わりを迎える。

その際、その剣の話題とは違うのだが、剣という単語で疑問が一つ浮かんだのか、ジャスティンはそれを口にしてきた。

 

「剣って事で思ったんだけど、恭也の使ってる剣って変わってるよな。刃が片方しか付いてないし、曲がってるし」

 

「正確には剣じゃないからな、俺の使っている物は」

 

「? 剣じゃないなら何なんだよ?」

 

「俺の住んでる場所で『刀』と呼ばれる武器があるが、俺の使ってるのはその中で更に使い手の少ない『小太刀』と呼ばれる武器なんだ。もっとも、分類上では剣と呼んでも差し支えないのだが、細かい使い勝手を挙げると剣とはかなり異なるな」

 

「へ~……コダチっていうのね、恭也が使ってるの。それ、普通の剣より小さいから、私でも使えたりしないかしら?」

 

「使えない事はないだろうが、さすがにある程度鍛錬を積まないと本格的には無理だな。普通の剣より軽くともそれなりの重さはあるし、何より武器全般に言える事だが、初心者が下手に扱うと危険だからな」

 

「ていうか、スーは基本が遠距離だから使えても使う機会なんて無いだろ」

 

鈍器などを使う事も稀にあるが、スーの基本武器となるのは弓か投げ物のどちらかだ。

故にジャスティンの言うとおり例え使えたとしても、彼女が使う機械など滅多になく、所詮は道具の持ち腐れという事になる。

本人も別段過剰に使ってみたいと思っているわけではないのか、確かにそうよねとだけ呟き、納得するように頷いていた。

 

「にしても、主な武器としてコダチを持ってる上に何か針みたいな武器やナイフみたいな武器は持ってるわ、糸みたいな武器は持ってるわ……これでまだ何か持つとか言ったら、もう歩く武器庫だよな」

 

「さすがにそれ以上は持とうとは思わんよ。使い慣れない武器は邪魔になるだけだしな……もっとも、俺の持つ武器はこの辺では売れてない物ばかりだから、いい加減代用品を考えねばならんかとは考えているが」

 

「そういえばニューパームにいたときもそんな事言ってたわよね。いつも特注に頼ってばかりだといざという時に簡易に買えないから、代わりになる武器を探そうかって」

 

「言ったな、確かに。だがまあ、未だその代わりになる武器というのは見つかってないわけだが……」

 

ジャスティンやスーは知らない事だが、恭也はこの世界の住人ではなく、異世界から招かれた来訪者だ。

それ故に来訪以前からすでに持っていた武器の八景を除く全ては彼の故郷である場所の店で購入した物である。

小太刀は無くとも刀自体なら今まで見なくもなかったが、結局は特注で作ってでも貰わない限り補充する事が出来ない物が大半。

今まで暮らしていたニューパームを離れ、旅に出るという事はそれが出来なくなるという事。そのため、本格的に代用品を探さなければならない。

しかし刀でさえ早々あるわけでもないのに特注していた飛針や小刀、鋼糸などの代用となる物がそう簡単に見つかるわけも無い。

だから現状ではなるべく節約しつつ戦闘を行わなければならず、その結果として使っても早々消耗しない小太刀や鋼糸を基本として用いていた。

ともあれ、小太刀はともかく鋼糸などは中々消耗しないと言っても全くというわけではなく、代用品を探すのは早いに越した事はないという事である。

 

「さて……一応各々の荷物袋用に分けておいたから、後は今日寝るまでにお前たちで袋に詰めておけよ?」

 

話をしながらもそんな作業をしていたのか、彼らの目の前には今日購入した者が各自に割り振られていた。

右からフィーナが薬関連、ジャスティンが武器関連と食糧の半分、スーは皆よりも少なめに食糧のもう半分といったところだ。

各自が持てるであろう積載量を考えて割り振られており、ジャスティンもスーも文句を言わずに恭也に言う事に頷いた。

しかしただ一人、割り振りを見て不満と疑問を抱いたのか頷かず、ジト目で恭也を見てきた。

 

「一つ聞きたいんだけど……何で兄さんだけ、何も割り振られてないのよ? この中では一番荷物を持たないといけない人のはずなのに」

 

「ふむ、俺も持ってやりたいのは山々なんだが、生憎と準備も無しに冒険に参加させられる形になったから荷物袋など持ち合わせていないんだ」

 

「……なら、私が買ってきてもいいけど?」

 

「いやいや、さすがに買い物から帰ったばかりの奴をまた買い出しに行かせるわけにもいかん。かといって俺は体調不良で動けん……いや、本当に残念だ」

 

かなり白々しい言い方をされて疑問は無くなったが不満はなくならず、怒りに堪えるようにプルプルと震える。

しかし堪えていたそれも次の、早く準備しておけよという恭也に一言によって爆発。直後、鞭を取り出して振るった。

だが当然反射的に動かれて避けられ、それがまた更に怒りを増長させる羽目となり、鞭は次々と放たれ、的確に恭也のみを狙い続ける。

反対にそれを恭也は避け続ける。正直、体調不良で動けないとはどの口が言うのか言いたくなるくらいの回復具合であった。

そしてこの二人の喧嘩をジャスティンもスーも仲裁出来ず、眺めるしか出来ないので放置する事にしてさっさと荷物整理へ移っていった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

今回はちょいと短めでお届けだな。

【咲】 光神の酒を取ってきてルクに戻ってから夜までの間の話ね。

正直言えば今回事件発生まで持っていきたかったけど、そこまでいくと止まりそうにないので自重した。

【咲】 ふ~ん……そう言うって事は、次回はあの事件に移っていくのよね?

そうだね。予定では発生から急行までを描きたいと思ってる。

【咲】 じゃあ次回ではまだ終わらないって事?

それは当然だろ。でっかい事件ではないが、一話で終わるような簡単な事件でも無いし。

【咲】 それもそうね。ところでさ、今回の話の中盤部分で言ってる彼女って、間違いなくリーンの事よね?

まあね。

【咲】 かなり分かり切ってるのに、、なんで彼女って言って実名を伏せてるわけ?

それはまあ、別段深い理由があるわけじゃないな。

【咲】 ……理由も大してないのにやってるのねぇ。

い、いや、全く無いわけじゃないよ? ただ、大して深くもない理由ってだけで。

【咲】 はいはい……まあ、その理由も話が進む連れて分かってくるんでしょ?

それはもちろん。ただ、かなり先のほうになるだろうけどね。

【咲】 それはまあ、そうでしょうね。てなわけで短いけど、今回はこの辺でね♪

また次回も見てください!!

【咲】 じゃあね、バイバ~イ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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