村で買った旅の必需品等を各自袋へと詰めてから大した時間も経たずして日が完全に落ち、夜となる。

と同時に両親から夕食の準備が出来たという伝言を言付かってきたレムよりそれを伝えられ、皆は一階へと降りた。

そこに用意してあったのは決して豪華とは言えないけど、家庭の温かみというものがとても感じられる料理。

変に豪華なものを振る舞われるよりも、こちらのほうが嬉しい。それ故、彼らも文句一つなく、レムの両親が作った料理を美味しく頂いた。

そしてその後は二階へと戻り、明日の旅立ちに向けて軽く話し合いをした後、疲れを残さぬよう各自床へと付いた。

 

 

 

――だが、それから眠るために目を閉じようとした直後、騒々しい音が外の方から響き渡った。

 

 

 

最初に聞こえたのはいくつかの飛行機か何かが上空を飛び去る音。続けて聞こえてきたのは、村人たちの騒ぐ声。

騒々しいからだけでなく、その二つの音が聞こえた事で嫌な予感を感じた恭也たちは即飛び起き、一階へと降りて家の外へと出る。

その瞬間に目に映ったのは、村の中央付近に群がる人々の姿。彼らもまた四人の姿を目にするや否や、睨むような目を向けてくる。

家の中で聞いた二つの騒音、そして人々のその視線。それだけで抱いた嫌な予感が彼らの中で確信へと変わった。

 

「やはり、軍が来たか。樹海に入ったからとはいえ、何の手も打ってこないのは不思議に思っていたが……どうやら、嵌められたようだな」

 

「嵌められたって……じゃあ、俺たちがアイツらをこの村に招いちゃったって事かよ!?」

 

「そういう事に、なるんでしょうね……しかも、この手際からして私たちが基地を脱出する事も見越したんだわ」

 

レムを連れて彼らが基地を脱出し、樹海を通って村へ赴く事。その一連の流れが全て軍の思惑通りだった。

今にして考えれば、確かにそんな節が見受けられたと思える。しかし時はすでに遅く、自分たちのせいで村へ軍を呼び寄せてしまった。

敵の策に気づけなかった自分に嫌悪感を抱いてしまう。だけどそれ以上に責任感があり、招いてしまった以上は放っておくわけにもいかない。

後続とばかりに一、二機と飛び去っていく軍用機の方角は山のある方面。そして微かに聞こえてくる村人たちの話の中には、光神様という名が多く見受けられる。

これらから軍の目的が光神の御神体である可能性が極めて高いと推測出来る。もっとも、なぜ御神体を狙うのかまでは理解は出来ない。

 

 

 

(狙いは御神体……いや、正確には御神体に埋め込まれている『精霊石』、か)

 

――軍の計画を多少なりと知る、恭也以外には……。

 

 

 

リーンが軍へ入った理由、彼女を軍へ勧誘した男の思惑、そして彼の口から僅かに語られた軍全体の計画。

これら全てに於いて『精霊石』は必要不可欠。その欠片たるルクの御神体を当然、彼らが見過ごすはずもないと彼自身、断言出来る。

しかしいくらリーンが何のために軍に入ったかを知っているとはいえ、村人たちの拠り所としている物を奪うなどいう行為、見過ごすわけにもいかない。

それ故、御神体を守ると意気込み、山へと駆け出していくジャスティンたちへと続き、彼もまた光神の山へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GRANDIADifferentWorld Guardians

 

 

第十一話 祀られし神へ舞い降りる驚異

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――新大陸エレンシア・光神の山――

 

 

村の人々の責めるような視線を受けながら、彼らは光神の山へと再び赴いた。

昼間に訪れたときとは異なり、明かりもない真っ暗なそこは非常に不気味さが際立ち、幽霊か何かでも出そうな気さえする。

ただ本来ならこの不気味さを手伝うように夜特有の静けさがあるはずなのだが、今は静かという言葉とは正反対の状況。

そこかしこから小さくも人の物らしき声が聞こえている。さっきまでの事から察して、確実にその人というのは軍人だと断定出来る。

頂上だけに限らず、それ以外の至る所から聞こえてきてる辺り、光神の御神体を守るために村人が来ると想定している故の対応だろう。

 

「ふむ……当然と言えば当然だが、中々数が多いな。一人一人は大した錬度ではないようだから戦う分には大丈夫だろうが、これだけの数を全部相手にしているとさすがに間に合わなくなる」

 

「ん~……じゃあさ、ある程度は無視して突っ切っちゃえばいいんじゃない?」

 

「出来ればそうしたいけど、何人か相手にした時点で他の人たちが駆け付けてこないとは思えないわ。駆け付けてくる前に倒して突破出来ればいいけど、最悪の場合は……」

 

「囲まれるだろうな。ともあれ、ここであれやこれやと手を拱いている時間もない、か…………仕方ない」

 

一人の実力はそう高くなくても、戦いようはいくらでもある。何より相手は勝つ事ではなく、時間を稼ぐ事を目的としている。

対して自分たちは頂上へと少しでも早く向かわなければならない。それ故、全員が囲まれてしまうという状況は何としても避けたい。

だけどそのための策を考えている時間も惜しい。そのためか、恭也は溜息をつくと共に自身の装備を確認して皆の前へと出る。

 

「俺が正規の道を行って奴らの注意を引くから、その間にお前たちは森を突っ切って山の頂上に向かえ」

 

そして静かにそう告げると彼は駆け出し、木々の生い茂っていないほうの道へと向かっていった。

時間が無いという観念故か、その一連の行動は素早い。だから止める暇なんて無く、彼の姿はすぐに視界から消えてしまった。

そのすぐ後に聞こえてきたのは兵士たちの物らしき焦りの声。それに若干混じる悲鳴と多くの足音。

それはすでに彼が先ほど告げた事を実行し始めた証。故にか心配の念は確かにあるも、彼の意思を無駄にするわけにもいかない。

だからこそ、彼らはその数々の音が聞こえてきたときから少し間を置き、彼の指示通り森の中を走り出し、山の入口方面へと駆けていった。

 

 

 

わざと数名の兵士に見つかるよう動き、一人一人倒すのに時間を掛けて他の兵士たちをその場に呼びこませる。

思い描いていたそれがあまりにも淡々と進んでいった事に恭也としては呆れるしかなかった。まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったのだから。

いくら未熟といえど軍の訓練を受けた兵士。戦闘のマニュアルくらいはあるだろうから、こういった場合の対処くらい少しは頭にあるはず。

にも関わらず、数名では手に負えないと分かるとそれ以上は大した考えも抱かずに応援を呼ぶ。陽動という可能性を思いつきもしない。

 

(列車でのときも思ったが、一体軍の兵士はどんな教育を受けているんだか……)

 

その場の思考に流されるなど戦いに身を置く者には愚の骨頂。それは恭也のような剣士でも、彼らのような兵士でも同じ事。

ただ兵士の場合は全員が全員そういった感じでは無いだろう。でなければ、指揮官などという役職がほとんど意味を成さなくなる。

だがそうであったとしても、その場にいた兵士が誰一人としてそうでないのは問題だ。これが指揮官の指示による行動なのだとしても、あまりにお粗末過ぎる。

こうなってくると軍の教育方式自体が疑われるものだろう。しかしまあ、だからといって軍に物申すという気は彼にもサラサラないのだが。

 

「ば、化け物……っ」

 

「く、くそっ……応援は、応援はまだなのか!?」

 

軍刀を手に対峙する兵士の数は今の段階で六人程度。これまでで小太刀を一刀のみ手に持つ彼にやられた数は、五人といった所。

一人を相手に曲りなりにも訓練を受けた兵士が一分足らずで五人も伸されたのだ。恭也の事を化け物を思ってしまっても、不思議ではない。

だからといって時間稼ぎを命令されている彼らも諦めるわけにはいかない。だからこそ応援の到着を待ちつつも、恭也を包囲しようとする。

如何に化け物のように強い者が相手でも、包囲して四方から一斉攻撃を仕掛ければ何とかなる。そんな考えが彼らにはあるのだろう。

恭也もその考えを兵士たちの動きから読み取っているも、別に妨害はしない。彼の目的もまた、兵士たちの気を自分のみに引いておく事なのだから。

 

(とはいえ、ずっと注意を引き続けているわけにもいかんがな……)

 

恭也が彼らの注意を引くのは別同隊であるジャスティンらが頂上へ駆け付けるのを容易くさせ、御神体を守らせるため。

しかし、いくらあちらは三人で行動していると言っても、まだ子供である事に変わりはない。場合によっては荷が重いという可能性も出てくる。

故に彼らを引き付けるのは切りの良い所で止め、手早く片付けて自分も赴く必要があるというわけである。

 

「っ、掛かれぇ!!」

 

そうこうしている内に援軍も訪れ、それを含めた兵士たちが恭也を中心として包囲陣を展開し終えていた。

そしてその直後、一人だけ軍服の色が違う兵士――おそらくは指揮官――が号令を掛け、包囲していた兵士たちが一斉に動き出す。

軍刀を振り上げ、四方から兵士たちが迫り来る。だが、恭也から見ればその動きはあまりに荒く、とても訓練を受けた動きとは思えない。

そのため対処の仕方は幾通りも浮かんでくる。加えて兵士たちもそれなりに集まり、注意を引いていた時間もそれなりなものになる。

だから彼はそろそろ潮時かと考え、浮かんだ対処の中で殲滅する事を選び、その考えに従ってまずは飛針を四本ほど袖から抜き、前方側の兵士たちの足下に放つ。

直撃はさせなくても足元にそんな物が放たれた時点で僅かなりと兵士の動きは止まる。その自身で作り上げた綻びを利用し、恭也は一気に駆け出した。

 

「なっ――!?」

 

「遅い……」

 

兵士が恭也の意図に気付くのと彼が至近まで寄ったのはほぼ同時。そこからの動きは明らかに恭也のほうが速い。

殺す気はないのか振う小太刀は刃を返している。だが、腕やら胴体やらにヒットしたときに聞こえる音は骨が折れる音にも等しい。

辺りどころが悪ければ再起不能なにもなりかねないが、彼がその気なら確実に殺されているのだからまだマシなほうだろう。

しかし、兵士たちからすれば一気に三名もの仲間がやられた事もあって安心など出来ない。むしろ、より一層焦りの気持ちが強くなる。

それ故にか包囲陣が崩されても半ば躍起になったように攻めてくる。正直、その時点で恭也の思う壺であるとは知らずに。

 

「がっ――!!」

 

「しまっ――うぐっ!?」

 

混戦なの中で一人の人間を打とうと闇雲に軍刀を振るえば、当然ながら味方同士で斬りつけてしまう事もある。

そこから更なる動揺が走り、それを利用して手早く伸していく。つまりは躍起になった時点で彼らの敗北はほぼ決まったようなものなのだ。

一つの綻びが大きな物へと変わり、崩壊へと招かせるのは戦術の一つ。多対一の場合で多のほうが気を付けるべきはその一点。

だけど彼らは恭也が作った綻びを自らの手で大きくしてしまった。気を付ける以前に戦術面での訓練が足りない証拠である。

 

 

 

――そして結果、ものの二分程度で為す術も無く、兵士たちは全員に地に伏す事になった。

 

 

 

一度も刃で斬りつけてはいないため血は付いていないが、いつもの癖で軽く剣を振い、鞘へと納める。

続けて彼は地面に倒れている兵士たちに視線を向ける事もなく、ジャスティンたちが向かったであろう山頂へと向けて走り出した。

彼が兵士たちの気を引き付ける役を申し出、実行してから時間にして約五か六分そこら。ふもとから山頂まで歩いたときに掛かる時間は片道およそ十五分程度。

彼らの走る速度を考えれば、片道約七分か八分くらい……もしかしたら、もう山の山頂までは到着してるかもしれない。

元々そこまで大きな山でないというのが幸いといったところだろう。とはいえ、彼らだけでは御神体を守り切れるかどうかは微妙である。

それ故、少しでも早く彼らと合流するために彼は走る速度を更に速め、山頂の御神体の元へと駆けていった。

 

 

 

 

 

兵士たちが大々的に動いて魔物たちが身を潜めた事、その兵士たちの注意を恭也が引いてくれた事。

この二つによってジャスティンらはスムーズに山を登る事ができ、最初に来た時よりも格段に早く頂上付近にまで辿り着いた。

後は目の前にある一本道を行き止まりまで進んで行けば、そこは御神体のある場所。当然、軍の兵士も数名は見受けられた。

しかし、ふもとと違って人数は明らかに少ない。それ故、彼らは武器を手に強行突破。行く手を阻む兵士を薙ぎ倒しながら彼らは御神体へと近づいていく。

そしてほとんどの兵士を倒したのとほぼ同時に御神体が視界に入ってきたのだが――――

 

 

 

――目に入った御神体は太い二本の鎖に絡められて飛行機械に吊るされ、今にも持ち去られそうな状況にあった。

 

 

 

吊るされた御神体の前には先ほどまで見てきた兵士たちとは全く違う軍服を身に纏う軍人の姿がある。

薄い青色のショートヘアーと軍服の形状からしておそらくは女性。しかも約二名――ジャスティンとスーにはその後ろ姿に見覚えがあった。

サルト遺跡でミューレンとかいう軍人の副官らしき立ち位置に立ち、遺跡内部にて彼ら二人を窮地に追いやった者の一人。

加えてジャスティンは施設に捕まっていたとき、もう一度だけ会っている。牢屋で鍵を落としていったという事実がある故、忘れるわけもない。

反対に彼らが走る速度を限界一杯まで速めて駆け寄ってくるのに対してその女性の軍人も気付き、彼らへと振り向いた。

 

「やっぱり、牢屋で鍵を落としていった阿呆女!」

 

阿呆という単語が出た事で彼女の表情が若干動く。わざとやった事で阿呆と言われるのは心外なのだろう。

だがその僅かに動いた表情もすぐに消して元の無表情に戻し、彼ではなくその隣の少女――フィーナへと目を向けた。

視線を向けられた彼女もその女性を目の当たりにした直後から、視線を外す事が出来ず、呆然とした様子で立ち尽くす。

 

「予想はしてたけど……やはり来てしまったのね、フィーナ」

 

「姉、さん……?」

 

視線を向けたまま、どこか悲しげに彼女――リーンはそう口をした。対してフィーナも、信じられないものを見たかのように呟く。

そして残る二名――ジャスティンとスーもフィーナの口より放たれた驚きの単語に目を丸くし、彼女とリーンを交互に見る。

確かにフィーナには同い年の姉がいて、軍に入っているという事は聞いていた。だが、まさか彼女がそうだとは思わなかった。

しかしそんな二人に気を向ける余裕もなく、困惑した様子のフィーナ。対するリーンはやはり悲しげな表情のまま、再び口を開いた。

 

「貴方が……貴方達がここにいるという事は、当然恭也さんもいるという事になるんでしょうね。あれほど、軍には関わらないでって言ったのに……」

 

「……何で……どうしてこんな酷い事をするの、姉さん!? それがルクの人たちにとってどれだけ大事なものなのか、分からないわけじゃないでしょう!?」

 

「もちろん、分かってるわ。でも、私たち軍にとってもこれは必要な物……あの村の人たちには悪いけど、これだけは譲れないのよ」

 

「軍の事情を優先して村の人を不幸にすんのかよ! いくら軍人っていったって、やっていい事と悪い事があるだろ!!」

 

「……何と言われても、任務を変更する事はない。お願いだから、これ以上邪魔をしないで……」

 

そう告げるとリーンは御神体の上に乗り、奥の方の鎖に片手で掴まり、それとほぼ同時に飛行機械は上昇していく。

ゆっくり、ゆっくりと地面から御神体は持ち上げられていく。だが――――

 

 

 

「させるかぁぁぁぁ!!!!」

 

――何と言われても諦めないのは、彼としても同じである。

 

 

 

持ち上げられる御神体へと駆け出し、力一杯跳躍して御神体の端っこへとジャスティンはしがみ付く。

直後にスーとフィーナの声が響くが、そんな事は気にしていられない。今の彼は、しがみ付くので必死であった。

反対に彼がしがみ付いてしまった事で上昇はある程度の高度まで達した時点で止めざるを得ず、その高度で一時停止した。

だが、正直なところその態勢から落ちたら無事では済まないくらいの高さはあるから、普通ならば冷や冷やものになる。

しかし高さがどうとか怪我をするとかも今の彼の頭には無く、必死に御神体へしがみ付きながらリーンを睨みつける。

 

「無茶な事を……今すぐ、そこから飛び降りなさい。今ならまだ、足が折れる程度で済むわ」

 

「んな事できっかよ!! この御神体はルクの人たちにとって凄く大事なものなんだぞ!!」

 

「そう……なら、無理矢理にでも降りてもらう事になるわね」

 

ジャスティンの返事を聞くや否や、リーンは鎖に捕まってないもう片方の手で軍刀を抜き放つ。

それは自分から降りないのなら、腕を斬り落としてでも降りてもらうという意思の表れ。もちろん、ジャスティンにもそれくらい分かる。

だからか、彼女が近寄ってこれないようにしがみ付く位置を何とか鎖の部分まで移動させ、全身を使って御神体を揺らす。

 

「キャッ――!」

 

これによって彼女は短い悲鳴を上げつつ、鎖に身をしがみ付くしかなくなる。放せば、自身の方が落ちてしまうのだから。

とはいえ、揺らす側のジャスティンも体勢的に余裕はなく、この行為は結局のところ時間稼ぎ程度にしかならない。

加えて後に何か策があるわけでもないため、所詮は無駄な足掻き。だが、それでもジャスティンは諦めず揺らし続けた。

 

「っ……こ、こんな事したって無駄なんだから、諦めて早くそこから飛び降りなさい!」

 

「お前こそ、御神体を元の場所に戻せよ!!」

 

「だから、それは出来ないって何度言えば――――……え?」

 

言葉の応酬が続き、御神体が揺れる最中、突如として御神体の中央にある緑色の点を中心として光を放つ。

それと同時にジャスティンのズボンのポケットも同質の光を発する。これはリーンにとってもジャスティンにとっても驚きの光景。

そしてその原因が二人にも分かると同時に光が止み、その直後に御神体のジャスティンが掴まっている側が音を立てて砕け散る。

咄嗟にリーンが軍刀を捨てて彼へと手を伸ばすも届く事は無く、悲鳴と共に彼は背中から地面へと向けて落下していく。

 

「「ジャスティン!!」」

 

今までの成り行きに手を出せず黙って見ているしか無かった二人も動き出すが、こちらも速度と距離からして到底間に合わない。

それは走る二人にも分かってはいたが、諦められる事ではない。諦めたら彼は地面へと激突して、下手をすれば死んでしまうのだから。

故に何とか間に合わそうと走る中、二人の横を一陣の風が通り過ぎる。全くの無風であるはずなのに突如として、その一陣だけが。

そしてその風が吹いた次の瞬間、地面へと激突するはずの彼は何者かに受け止められた。先ほどまで、確かに誰もいなかったはずなのに。

 

「……大丈夫か?」

 

「へ……?」

 

ジャスティンとしてもまさか受け止められるとは思わず、痛みを覚悟していたのだろう。聞こえてきた声に間抜けな声を上げてしまう。

それから続けて閉じていた目を開ければ、視界に入ってきたのは黒尽くめの男性。ふもとで分かれたはずの恭也の姿があった。

彼の姿を視界に入れるや否や、若干混乱してしまうジャスティン。そんな彼に恭也は今一度、大丈夫かと同じ事を問い掛けた。

これにジャスティンは我に返り、コクコクと頷くと恭也は頷き返して地面へと下ろす。そして駆け寄ってくる二人ではなく、上空のリーンへと目を向けた。

 

「…………」

 

リーンもまた彼へと視線を向けていた。その瞳はフィーナと話していたときのように悲しげな色を灯している。

しかし彼女も彼も何か言葉を交わす事は無い。ただ無言で見詰め合い、先にリーンが目を逸らすと共に飛行機械は上昇を始め、距離は開いていく。

御神体が砕けてしまったとはいえ、目的の物が埋め込まれている箇所は彼女側にある。そのため、留まる理由はもうないのだろう。

故に任務完了と判断して離れていく。これに恭也もジャスティンたちも、もう手を出す事は出来ず、ただ彼女が去るのを見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

御神体を手に入れた事で軍はあっさり村から撤退していき、ルクの村には本来の静けさというものが僅かに戻った。

三分の二ほども御神体が奪われた事を抜かせば、全く損害はない。村が襲われたという事も、怪我人が出たという事も無い。

とはいえ恭也たちは僅かに残っていたとしても御神体を奪われた事に変わりはなく、責任を感じた彼らは欠片を集めて一応の修復をした。

寝る事もなく、日が昇るほどまで時間を掛けて形だけでも修復し、元々立っていた場所へ不格好ながらも立て直した。

その作業がようやく終わると共に彼らは御神体に背を向け、村へと戻ろうとする。だが彼らが歩き出すより早く、複数の村人が歩んできているのが目に入る。

ルクの長老を先頭とした数名の村人の姿……おそらくは御神体の事が気になって駆け付けてきたのだろう。

彼らは恭也たちの元、御神体の目の前まで到着すると半分以下となったそれを無言で見詰める。中には僅かに俯く者もいた。

正直、原因を作ってしまい、尚且つ守り切れなかった彼らにはかなり気まずい空気。だが、この後どんな言葉が飛ぼうとも、正面から受けなければならない。

それがこの事態を招いてしまった自分たちの責任の取り方の一つ。故に同じく無言のまま、彼らの言葉を待つ。

そしてそれから約一分という短いけれど長く感じた時間が経過したとき、長老――アドルフが四人の前へと歩き出て、静かに告げた。

 

「光神様を守り抜いて頂いた事、村人たちを代表して感謝いたしますぞ、旅人たちよ」

 

「え……?」

 

どんな批難の言葉を告げてくるかと身構えっていた事もあってか、その言葉は四人全員にとって予想外だった。

誰が漏らしたか、思わず問い返すような呟きを口にするほど。そして信じられないという気持ちからか、自然と他の村人たちも見渡してみる。

すると他の者たちも同じような表情。僅かに俯いていた者たちも今は顔を上げ、感謝してもしきれないというような顔をしていた。

御神体を守り切る事が出来ず、半分以上も持っていかれたのにどうして感謝なんてするのか。未だ信じられなくて、代表するようにフィーナが尋ねた。

 

「でも、私たちは御神体を守り切れなかったんですよ? 批難される事はあっても、感謝される事では……」

 

「い や、元々の光神様とはああいうものなのだ。空から、村へと落ちてきた大昔から……それをワシらの祖先がニカワで張り付け、砥粉を塗って御神体とした。それ がまた元に戻っただけの事……そしてそれで済んだというのは紛れもなく、お主たちのお陰だ。だから、ワシらはお主たちに本当に感謝しておるのだよ」

 

「そ、そうなんだ……ずっと無言だったから滅茶苦茶怒られるかと思ってすげえヒヤヒヤしてたのに、何か損した気分だぜ」

 

「ほっほっほ、それは済まなかったな。して、お主ら……確か、隔ての壁を越えるのだと言うておったな?」

 

「え、ええ。予定としては、そのつもりですけど……」

 

「そうか……ならば、これを持っていくがよい。ワシら村人全員の、感謝の印だ」

 

そういって懐から取り出し、差し出してきたのは一つ小さなの実。それは紛れもなく、彼が貴重だと言っていた『霧除けの実』。

感謝とはいえ、そんな貴重な代物を貰うのは若干躊躇われた。故に彼らは本当にいいのかという視線をアドルフへと向ける。

それに彼は穏やかな笑みを浮かべて頷き、受け取って欲しいと言う。だからか彼らはそれを受け取り、同時に感謝の言葉を口にするのだった。

 

 

 

 

 

その後、村へと一度戻り、一日でも泊めてもらった事に感謝と別れを告げるため、レムの家へと赴いた。

彼らが感謝をするのに対してそれ以上の感謝をされた事に少しだけ戸惑いつつも、『世界の果て』へと向けて旅立つ事を告げる。

するとレムの両親もそうだったが、レム自身も残念そうな顔をした。折角だから、もう少し滞在しててもいいじゃないかとも言ってくれた。

だけど彼らは否定するがあまり滞在して迷惑を掛けるわけにもいかないし、すでに『世界の果て』を前に意気込んでるジャスティンがそれを聞かない。

故にレムもその両親も引き留める事を諦め、だけどまたいつか機会があったら村に立ち寄ってくださいと温かい言葉を送り、見送ってくれた。

そしてそんな彼らや村長であるアドルフを含めた村人たち全員の見送られる中、彼らは『世界の果て』の前に大きく広がる『霧の樹海』へと向け、村を後にした。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

ルクの村の事件解決~!

【咲】 事件発生から解決までが普通に一話で終わったわね。

まあ、原作通りの部分は要点だけ出してるって形だから、こんなものだろうよ。

【咲】 ふ~ん。にしても、ようやくフィーナとリーンが出会っちゃったわね。

原作でもここで再会するからね。もっとも、恭也との絡みはほとんど無かったけど。

【咲】 恭也は恭也でふもとにいた兵士たちほとんどの相手してたものね。

まあね。そして今回の事件を解決した事で、村長から霧除けの実を貰える事になりました!

【咲】 あれがなかったら到底、霧の樹海を越えるなんて不可能でしょうね。

確かにな。遭難者が多発して死体が結構転がってたりするような森だからな、あそこ。

【咲】 というかさ、霧除けの実が貰えなかったら、どうする気だったのかしらね?

さあ? なかったらなかったでどうにかしたんじゃないかとしか正直言えん。

【咲】 いい加減ねぇ……でもまあ、ルクの村の一件が終わった事でようやく、本格的に世界の果て編に入るわね。

といっても、その序盤である霧の樹海が先だけどね。霧除けの実を貰えたとはいえ、あそこも結構長いから。

【咲】 確かにねぇ。となるとさ、今度の霧の樹海はどのくらいの話数になりそうなわけ?

ん~……たぶん二話くらいかな。多かったら三話くらいになるかもしれんけど。

【咲】 ふ~ん……世界の果てだと、その倍くらいにはなるのかしらね。

かもしれんね。てなわけで次回、霧の樹海編を乞うご期待ください!!

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲】 じゃあね、バイバ~イ♪

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

 

 

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