――新大陸エレンシア・ガーライル軍基地――

 

 

 

縄で雁字搦めにされ、連れて行かれた場所はこの大陸に建つ軍の基地。

当たり前だが普通は人が寄り付かない場所故、フィーナでも来るのが初めてな場所である。

そんな場所の内部を四人は縛られたまま連れ歩かされ、程なくしてジャスティンとスーだけ別の場所に運ばれた。

その際にフィーナをどこに連れてく気だとジャスティンは叫ぶが、兵士は全く気にも留めず連れて行く。

そして最終的に放り込まれた場所は基地の地下に位置する牢屋。天井から水が落ちる音が響くため、不気味と言える牢屋。

便所も一つだけ剥き出しで備え付けてる所から、これ以上にないほどの典型的な牢屋であると言えた。

だけどそんな牢屋に放り込まれたからといって彼らが諦めるわけもなく、当然の如く脱出するための行動へと出た。

その行動とは実に単純……ただスーがお腹が痛いと仮病を使い、それに気づいた兵士が中へと入ってきた段階で気絶させる。

そうすれば牢屋の扉は開かれたままの状態故、後はそこから出てフィーナを助け出し、基地から脱出すればいい。

 

 

――だけど、事はそう簡単にもいかなかった。

 

 

フィーナが囚われている場所はすぐに見つかった。牢屋の鍵がある場所も続けて判明した。

しかし鍵のある場所に踏み込んで体よく鍵を入手したはいいが、先ほど気絶させられた兵士によって応援を呼ばれたのだ。

故に鍵のあった場所から出ればそこには無数の兵士の群れ。そんな数に彼らが太刀打ち出来るわけもない。

そうして結果的にスーは女の子なため、ジャスティンのみタコ殴りにあって二人は引き剥がされ、再び牢屋へと入れられた。

しかも今度は脱出出来ないように天井からロープを伸ばし、ジャスティンを縛り付けて吊るすという手段を取られた。

これではさすがに脱出は難しい……そう考えながらも、まだ脱出の方法を探すジャスティンの前に、一人の女性が姿を表す。

 

「脱出なんて馬鹿な真似、考えないことね。時期に貴方たちの処遇も決まる……おそらく死刑でしょうけど、それまで大人しくしてたほうが苦しまずに済むわ」

 

「へっ、嫌だね! 死刑が決まってる身で誰が大人しくなんかしてやるもんか!」

 

「……そう。無駄だと思うけど、出来るものならやってみなさい。どの道ここから抜け出したところで、軍用列車でも使わない限りは基地から逃げ出すことなんて不可能なのだから」

 

女性は表情も変えずにただそれだけ言うと、牢屋の入り口へと歩き出す。

その際、チャリンと何かが落ちる音が僅かにするが女性は気づかなかったのか、そのまま牢屋を後にした。

反対にジャスティンは音をしっかり聞いており、女性が去った後に落ちたものへと目を向けて笑みを浮かべる。

 

「ぷっ、あの女……鍵を落していってやんの。抜けてるっていうか、ばっかだよな〜……ま、俺としては凄く助かるんだけど」

 

にやけながら呟き、ジャスティンは自身の身を拘束する縄を抜けるべく、モゾモゾと動き出す。

動き出してからしばしして縄の縛りが甘かったのか僅かに緩み、それを徐々に広めて呆気無く縄抜けは達成した。

鍵の事といい縄の事といい、軍も結構いい加減なのかもしれない……そんな事を思いながら、彼は鍵を拾う。

そしてその鍵によって牢屋の扉を開き、外へと出た彼はまっすぐにスーとフィーナが囚われている場所を目指して駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GRANDIADifferentWorld Guardians

 

 

第六話 基地から脱出せよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャスティンと僅かな会話を成した後、彼女はまっすぐにある一室へと赴いた。

それはこの基地に於いての彼女の私室でもあり、仕事を行う部屋でもある臨時として用意された一室。

別段そこに赴くこと自体は不思議ではない。書類系の仕事があるとでも言えば納得も出来る。

しかし当の本人は仕事のために部屋へと赴いたのではない。本当の理由は、部屋にとある人を待たせているからというもの。

普段の彼女なら相当な上官でもない限り、部屋に招き入れても一人待たせたりすることはしない。

だけど今回、私室とも言える自身の部屋にてその人を待たせているのは別にその人物が上官だからというわけではない。

ただ彼女からして信頼出来る人だから、そして外で待たせるには危ないと言える人だから。

故にこそ彼女はその人物を部屋にて待たせ、ジャスティンとの会話後も急いで部屋へと帰ってきた。

 

「これでいいんでしょ、恭也さん……」

 

「ああ。無理を言ってすまないな、リーン」

 

帰ってきた部屋にて待つ人物とはフィーナにとって、彼女にとって兄と言える男性。

高町恭也……それが五年ほど前に彼女らが保護した、異世界からやってきたという男性の名。

本当なら軍とは関係のない彼がこの場にいることは可笑しい。いてもおそらく兵に追い回されるのが必然だろう。

だけどそんな彼が今こうして無事な様子で彼女の部屋にいるのは、兵士の扮装して潜り込んだから。

予めジャスティンたちが捕まるであろうと予想していた彼は軍の基地に侵入することで、脱出の手引きを行おうとしていたのだ。

そんなところで都合よくリーンを見つけ、様々な過程を経て現在彼女の部屋にて匿ってもらっているというわけだった。

 

「いえ、別にいいんですけどね……フィーナが捕まった現状なら、恭也さんに言われなくても同じ事をしていたと思いますし」

 

「そうか……とすると、俺がわざわざ介入する必要はなかったか」

 

「そうですよ。フィーナが捕まったというだけでも驚いたのに、恭也さんまで基地に潜入しているなんて……本当に目を疑ったんですからね」

 

如何にも怒ってますというような表情を見せるリーンに対して、恭也は僅かな苦笑を浮かべる。

出会った当初こそ無表情であまり笑わなかった女の子が、今ではこうして様々な表情を見せてくれる。

それは信頼されているからという意味と取れ、彼としても笑みが浮かぶことを止められなかった。

 

「もう……笑って済む問題じゃないんですよ? 軍も今は重大な任務を帯びてて全体的にピリピリしてるんですから、見つかったら確実に死刑になってたんですからね!」

 

「まあ、そう怒るな。こうして事も順調に進んでるわけなのだし、脱出方法も教えてもらってるんだ……逃げることはもう難しくもないだろう」

 

リーンの協力もあってか脱出の手引きは順調。加えて脱出手段も用意してもらっている。

これならば脱出もそう難しくは無い……少しばかり楽観的にも見えるそんな言葉に、リーンは少し呆れ顔をする。

 

「はぁ……それで、恭也さんはこれからどうするんですか? フィーナたちは今頃牢屋を脱出して地上を目指しているはず……早くそれに合流しないと危ないんじゃないですか?」

 

「と、そうだったな……では少しばかり名残惜しいが、ここいらでお暇するとしよう」

 

外していたマスクと眼鏡、軍帽の三つを身に付け、彼は部屋の扉へと歩き出す。

そんな彼の後姿を黙って見送ろうとしたリーンだったが、ふと思い出したかのように彼を呼び止める。

呼ばれた彼は入り口前で足を止めて半身だけ振り向くと、彼女は先ほどまでとは打って変わった無表情で静かに告げる。

 

「以前も言いましたけど、これを最後に……軍と関わるのは止めてください。私たちと関わっても貴方たちは不幸にしかならないんです……だから」

 

「……それについては同じく以前も言ったが、関わって不幸かどうかを決めるのは俺たちだ。ジャスティンらに関しても、フィーナに関しても……俺自身に関してもな」

 

同じく静かに返された言葉に、彼女の無表情は途端に崩れてしまう。

浮かぶのは悲しみの色……不幸になると分かっているのに、言う事を聞いてくれない彼への悲しみ。

以前もこうだった。ちょうどニューパーム付近でとある任務があった際、彼と出くわしてしまったときも。

そのときも同じ言葉を言って、同じ答えを返されて、悲しみを抱いたのを今でも覚えている。

だからこそあのときと同じ返答に同様の悲しみを浮かべ、だけどそれ以上は何も言えずにただ佇むしかない。

そうしてそんな彼女を一人残して、恭也は部屋の扉を開けて静かに彼女の私室を後にしていった。

 

 

 

 

 

スーとフィーナを救出したジャスティンは、少年のいるであろう場所を密かに探した。

兵士に見つからぬよう狭いバルブ内を進み、不慣れな基地内を隠れながら進んで探し続ける。

そうしてしばらく探し回り、ようやく彼らは少年の捕らえられている檻を見つけて駆け寄る。

檻の構造は至って単純……檻から少し離れた位置にあるボタンを押せば、天井から伸びる鎖が檻を引き上げる仕組み。

それをすぐに見抜いた彼らはすぐに檻を開けて解放すると、少年はすぐさま笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 

「&#$*=!」

 

駆け寄った少年はまたも意味不明な言語を話しながら、三つの木の実を彼らに差し出す。

それは捕まる前、彼から貰い損ねた木の実。それをあのときと同様にあげるとばかりに差し出してきた。

脱出するために急がなければならないのだが、少年の好意を無下にするわけにもいかない。

それ故に彼らが木の実を各自受け取ると、今度は食べてというように意味不明な言語と行動で示してくる。

急いでいる故に後でと言おうとするが、こちらの言葉も伝わらないのを思い出し、仕方なく三人は木の実を口にすることにした。

 

 

――途端、凄まじい味が彼らの口一杯に広がる。

 

 

渋いという味を経験したことは多々あるが、それは輪を掛けて渋い味。

栗の渋皮だけを集めて粉にして飲めばこんな味がするのではないかというほど、凄まじい渋さ。

食べた瞬間に味が喉から胃に伝わる感じがあり、途端に胃がギューッと絞られるような感じさえする。

 

「う、うええぇぇぇぇ……」

 

「けほっ、けほっ! ま、まっず〜い!」

 

「う……こ、これは、今までに食べたことの無いほど、強烈な味ね……」

 

ジャスティンは吐き出そうとし、スーは咳き込みながら目を僅かに回している。

そしてフィーナに至っては口を押さえながら何とも言い難い味に率直な批評を口にしていた。

そんな彼らの様子を見て少年は心配に思ったのか、伏し目がちに彼らの顔を覗き込んだ。

 

「そ、そんなに不味かった……?」

 

「そんなに不味かった、だぁ……そんな言葉で片付くような代物じゃないっつうの! 一体なんてもの食わすんだよ、このオタンコナス!!」

 

「ご、ごめんよ。でもオイラ、オタンコナスじゃないよ……レムって言うんだ、よろしくね」

 

申し訳なさそうな顔から一転してレムという自身の名前を告げてくる少年。

そこでフィーナとスー、そして少し遅れて怒り心頭だったジャスティンもその異変に気づいて顔を見合わせる。

木の実を食べた途端、レムの言葉が分かるようになった。そして同時に、レムに言葉が通じるようになった。

これがおそらく木の実の効力。だからレムは今すぐ食べるようにせがんできたのだと今更ながらに理解できた。

まあそこはさておき話が通じるのなら後は単純……レムを連れて基地を脱出してしまえばいいのだから。

 

「えっと、あの女の話だと軍用列車があるってことだから、とりあえず上に上がっていけばいいのかな?」

 

「そうね。ここは基地の地下に位置する場所だから、列車と言われれば地上のほうにおいてあると思うわ」

 

ジャスティンとフィーナはそう言い合い、スーとレムが頷いたのを見て来た方向へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

レムさえ見つかれば後は脱出するだけ、というのは甘い考えだったのかもしれない。

そもそもジャスティンらが牢屋から出た時点でいつまでもそれが発覚されないわけがないのだ。

それを示すかのように現在、いくつかの階段を上ってようやく地上へと出た彼らを多数の兵士が追いかけてきていた。

重要な機器が多くあるためか銃こそ使いはしないが、軍刀を片手に追い回されればそれはそれで怖いものである。

そして追い掛け回してくる兵士に指令を出しているのは当然と言えば当然の如く、例の三人娘であった。

 

「おーっほっほっほ! 脱走スパイは即死刑だって、ちゃんと教えてあげたのにね!」

 

「おとなしくしてりゃあ、明日までは生きられたものをよ!」

 

「でもここのところ狩りを楽しむ暇もありませんでしたから、三人で競争しましょうよ。誰が一番たくさん、得物を仕留められるか」

 

指令を出している彼女らも当然ジャスティンたちを追い掛け回している。

しかも言動的に捕まれば殺されること間違いないため、彼らも必死に目先にある列車へと走っていった。

だが、もうすぐで列車の入り口に辿り着くというとき、目標である列車の扉が不意に開かれた。

そして中から出てきたのは一人の兵士……軍服の色的に、ナナの部隊の兵士であることが窺えた。

 

「でかしましたわ! この勝負、私の勝ちですわね、お二人とも!」

 

「くそ、まだ勝負はついてねえ! おらっ、もっと早く走れよ野郎共!!」

 

「私も負けませんわ。貴方たち、ナナやサキの兵たちよりも先に捕まえないと、一ヶ月間食事抜きですわよ!」

 

かなり勝負にこだわっているのか、サキとミオは自身の部隊の兵に急ぐよう叫ぶ。

反対にナナは列車の入り口から出てきた兵が自分の部隊の兵なため、勝利を確信して高笑いをしていた。

 

「くそっ、折角ここまで来たのに……」

 

「諦めちゃ駄目よ、ジャスティン! あの兵士を手早く退けて列車にさえ乗れば、まだ十分に脱出できるわ!」

 

列車の入り口に立つ一人の兵。そして後ろから追ってくる多数の兵士の軍団。

挟み撃ち状態のこの状況で目の前の兵士を退け、すぐに列車へと乗り込んで出発するのは至難の業。

だからジャスティンの表情に少しばかりの諦めが浮かぶが、それをフィーナが叱咤して諦めるなと言う。

自分は諦めてしまいそうになるのに、フィーナはそんな様子を窺わせない。それにジャスティンは走りながら自身の両頬を叩く。

諦めるな、諦めたらそこで終わりだ……両頬を叩いて気合を入れ、自身のそう言い聞かせながら彼は走り続けた。

そして列車の入り口に到着する間際、彼らは各々の武器となるものを手に持ち、到着と同時に即撃退を試みる。

反対に兵士は突撃してくる彼らに対して懐に手を入れ、何かを取り出すと同時に素早く腕を振るった。

 

 

――途端、ジャスティンらの間を何かが高速で通り過ぎた。

 

 

通り過ぎたそれは辛うじて見えた限り、短剣よりも更に短い小さな剣のように見えた。

おそらく投げる専用の武器なのだろうが、それが彼らの間を通り過ぎたということは狙いを外したのか。

入り口に近づきながらそう思う彼らだったが、後ろから聞こえてきた悲鳴にて考えが違ったことに気づく。

悲鳴を上げたのは自分たちを追ってきた兵士の一人。しかも小刀が刺さっている箇所を見る限り、それは的確にそこを狙った証拠。

叫びによって僅かに振り向き、その事実に足を止めそうになる彼らではあったが、彼らが止まるのを遮る声が進む方面から聞こえてきた。

 

「止まるな! 走れ!!」

 

聞こえてきたそれは、驚くことに酷く聞き覚えのある声。そして発せられたのは、列車の入り口に立つ兵士から。

一体どういうことなのか……激しく動揺し、疑問で頭が可笑しくなりそうになるが、そこを抑えて彼らは指示通り走り続ける。

幸いにして兵士が兵士を攻撃したことで追ってきた者たちは酷く動揺し、三人娘も唖然と足を止めてしまっている。

逃げるなら今……そう考えながら四人は列車へと乗り込み、それを確認した兵士姿の彼は扉を即座に閉める。

 

「ここは俺が抑えておく。お前たちは急いで先頭車両に行って列車を出発させろ!」

 

「お、おう!!」

 

彼の勢いに圧されながらもジャスティンは返事を返し、全員を連れて先頭車両へと赴く。

辿り着いたそこには見た事もない多数の機器。そもそも、列車に乗りこそすれ、動かした事など誰にも無い。

ならばどうすればいいか。そんなのは考えるまでも無く、適当に操作する以外に方法はなかった。

 

「えっと、これをこうして……で、あれをああして……」

 

「ね、ねえ、石炭はどのくらいくべたらいいのかな?」

 

「んっと……ええい、適当に入れちゃえ! とりあえず出発さえすれば後はどうにでもなるさ!!」

 

かなりいい加減な言動だが、今はジャスティンの言う事も最もであると考えられてしまう。

それほど事態は急を要する事。そのため、スーも文句を言わずにスコップで石炭を適切だと思う量だけくべた。

そして石炭という燃料を入れられ、適当にとはいえジャスティンが操作したことによって列車は徐々に動き出す。

動き出した列車は少しずつその速度を加速させ、外から聞こえる叫び声も次第に小さくなっていくのが分かる。

そうして完全に叫び声も聞こえなくなり、基地の扉をぶち破った列車は更に速度を加速させ、基地から遠ざかっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――新大陸エレンシア・列車内部――

 

 

 

「で、なんで兄さんがガーライル軍の基地にいたのよ……しかもご丁寧に、軍服まで着ちゃって」

 

「ふむ……」

 

列車が走る音を耳にしながら、現在彼らは先頭車両へと集っていた。

その中には先ほどの兵士姿の男――恭也も当然混じっており、話はフィーナの尋問的な感じで始まった。

そもそも恭也は自分たちが囚われたときは家のどこにも見当たらず、家の外にさえ姿を見つけることは出来なかった。

この緊急時にどこへと少し心配にもなったが、まさか軍に忍び込んでるとは思いもせず、現在ちょっとだけフィーナはお怒り気味。

そんな彼女の空気にジャスティンとスー、そしてレムまでもが触らぬ神に祟りなしとばかりに黙りこくっていた。

 

「実はだな……フィーナには黙っていだが、俺はガーライル軍の兵士だったんだ」

 

「ふぅん……で、ほんとの所は?」

 

「…………単なる気まぐれだ」

 

ご自慢の茶目っ気も軽くスルーされ、少しばかり悲しそうに恭也は答える。

しかし、その答えさえもフィーナは信じておらず、怒りの炎はいい加減極限にまで達しそうであった。

だが、これ以上恭也は真実を口に出来ない。したらしたで、どの道怒りが爆発することに変わりはないのだ。

彼らが捕まるであろうということが分かっていて敢えて放置し、自分は軍人に扮して脱出の手引きをした。

そんな事を口にすれば、どうして先に言わなかったのだと怒られ、結果的に彼女の怒りは一気に極限まで跳ね上がる。

まあ結局のところ、話そうと話すまいと結果が同じなのだから無駄な抵抗とも言えるのだが。

 

「へぇ……ここまで妹を心配させといて、そんな態度を取るのね。よ〜く分かったわ……そこまでしらばっくれるなら、こっちも相応の対応を取らせてもらうからね」

 

「ほう、それは楽しみだな……どんなことをしてくれるんだ? 肩でも叩いてくれるのか?」

 

「ふふふ……そんなことよりも、もっと良い事よ」

 

非常に怖い笑みを浮かべながら、フィーナはレムを近場へと呼び寄せる。

それに僅かばかり怯えながらも応じてゆっくりと近寄ると、レムの耳に口を寄せて何かを囁き始める。

そしてその囁きが終わるとレムがコクンと頷き、懐から一つの木の実を取り出して彼女へ渡した。

 

「これを食べなさい、兄さん。無論、拒否は許さないわよ?」

 

「……待て。その前に何だ、その木の実は? 普通の木の実に見えるのに、嫌な予感しかしないんだが」

 

「普通の木の実よ? 味のほうも先に食べた私からのお墨付き……ほら、早く食べなさい」

 

「……断る」

 

「うふふ……拒否は許さないって言ったで、しょ!!」

 

「むごっ!?」

 

木の実を手にした手を瞬時に彼の口へと持っていき、強引に口内へと木の実を押し込む。

まさかここまで強引な手に出るとは思わず意表を突かれた彼だったが、せめてもの抵抗と押し込まれた木の実を噛まずに口内で留める。

だがそれも結局は無駄……手の平で口を押さえたままもう片方で顎を掴み、細腕からは信じられないほどの力で無理矢理噛ませる。

そうして何度か木の実を噛ませて口内で粉々にさせた後、彼の口から手を離した途端に彼は口を押さえ始める。

 

「ぐ、ぐぅ……な、なんだこの味は! 渋い、渋すぎるぞ!?」

 

「そうでしょうね。私たちもその味を体験して悶絶したんだから、その気持ちは本当によく分かるわよ」

 

かなり冷淡に言ってくる辺り、本当に怒っているということが見て取れる。

しかし今の恭也にはそこを判別する暇は無く、口内から胃に伝わるほどの渋さに悶えるしか出来ない。

口を手で押さえながら戻そうにも戻せず、激痛とも言える壮絶な味が胃をかなりの勢いで刺激してゆく。

そして仕舞いには咳き込み始める彼をフィーナはただ冷淡に見続け、恐怖しか浮かんでこない小さな笑みを浮かべていた。

そんな彼女の表情を見たジャスティンら三人は――――

 

 

 

(((こ、怖い……)))

 

――全く同じ事を思いながら、震える体を抑えるので精一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

勢いで書き続けたら意外に書けるものだなぁ、と最近感じてます。

【咲】 ま、昔も勢いだけで書いてたしね。この調子が続くことを祈るばかりよ。

まあ、善処はする。てなわけで今回、ガーライル軍の基地脱出!!という話だったわけだが。

【咲】 一話で納めてる辺り、結構省略したわねぇ……。

というわけでもない。実際、グランディアの小説でもこれよりちょっとだけ長い程度の部分だし。

【咲】 ふぅん……その小説には三人娘との戦闘もなかったわけ?

そこは俺も意外に思ったんだが、なかったんだよなぁ。まあ、小説がそうなのだからこっちもこれでいいかと。

【咲】 私は別にいいんだけどね……ともあれ、こうなると三人娘との戦闘はかなり先までお預けね。

だな。まあ、俺の当面の目標はリエーテの参戦までなんだが。

【咲】 そこに行くまでで三人娘との戦闘があるわよね。

ふむ……まあ、まだまだ先の話になりそうだけどな。

【咲】 そうねぇ……まあとりあえず、今回の話の件に戻りましょう。

そうだな。ともあれ、今回の話を経てジャスティンたちは基地を脱出したわけだが。

【咲】 恭也が基地に潜入したのは、より安全に脱出させるための手引きをするためだったのね。

そうそう。まあ、その過程でリーンと再会するとは思ってもなかっただろうけど。

【咲】 でもさ、なんでリーンは恭也のことを兄さんって呼ばないの? 兄とは思ってるんでしょ?

ふむ……そこにはまあ、リーンが軍に入る切っ掛けとなった過去が関係しているのだよ。

【咲】 その過去の出来事のせいでリーンは恭也を兄と呼べなくなったって事?

そういうことだ。当然嫌いになったとかではなく、ただ恭也ともう一緒にはいられないからという決別の意味を込めてな。

【咲】 リーンにそう思わせるほどの出来事だったってことね……。

うむ。まあ、その過去も後々になれば明かされる故、そのときまでお待ちを。

【咲】 そうね。じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回も見てくださいね〜!!

【咲】 ばいば〜い♪

 

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

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