――新大陸エレンシア・軍用列車、先頭車両――

 

 

 

恭也の木の実による悶絶というある意味での事件から少しの時間が経った。

今は胃も落ち着きを見せた恭也は下が普段着なのか軍服を脱ぎ、先頭車両の隅にて片膝を立てて座っている。

そして操縦機器の前にはジャスティンが立っており、石炭をくべる場所にはフィーナが立つ。

お子様たるスーとレムはというと、後ろのほうに位置する客席のほうにてお休みの最中だったりする。

 

「兄さん……そんなところで座ってないで、少しは手伝ってよ」

 

「たわけ。こっちは脱出の手引きに加えて、悶絶物の木の実を食べさせられたんだ……休んでいて何が悪い」

 

「う……そ、それは悪かったって言ったじゃない」

 

あの後、悶絶していた恭也をしっかりちゃっかりと問い詰め、潜入の本当の理由聞きだした。

それによって再び怒りもしたが、そうした理由が自分たちの事を思ってだということも理解できた。

故に手伝って欲しいとは思いつつもそう言われると強くは出れず、仕方無しに目の前の作業に戻る事にした。

 

「にしても……俺たちを助けるためとはいえ、よくまあ軍の基地になんて侵入しようなんて思ったなぁ」

 

「仕方ないだろ。冒険者が普段冒険する場所などとは違って、軍の包囲は綿密だからな。手引きでもしないとお前たちでは脱出できんかっただろ」

 

「そ、そんなことないわよ! ちゃんとこんな事になったとき用に脱出の算段も以前から考えて――」

 

「そんなものが信用できるか、馬鹿者が。そもそも、捕まること自体が宜しくないという事ぐらい気づけ」

 

「う、うぅぅ……」

 

言う事が正論なために反論が出来ず、唸りながら石炭に八つ当たりするかのように勢い良くくべる。

それに恭也は僅かな溜息をつき、ゆっくりと立ち上がって近場の窓から外を窺い見る。

列車の速度故か次々と窓から映る風景は移り変わり、それでも全てが同じに見える草原をただ見続ける。

 

(結局、亜人の子を使って何をしようとしているかは聞けなかったな……)

 

脱出の手引き以外での潜入目的。それは亜人の子供も用いた軍の計画する目的を調べること。

幸いにしてリーンと再会した事で聞きやすい状況ではあった。だけど、それでも恭也は尋ねることが出来なかった。

それはリーンの纏っていた空気故。当然ながら本人は隠そうとしていたが、年単位で兄としていた彼には分かった。

だからこそ聞きたい事も聞けず、ただ軽い話を二、三するだけで別れてしまった事を今更ながらに後悔する。

時間があればもう少しでも話せたかもしれない。彼女が今も責任を感じている過去の傷を、和らげることが出来たかもしれない。

だけど今となっては後の祭り……それ故に恭也は後悔を胸に抱きながら、窓の外を眺めつつ溜息をついた。

 

「……どうしたの、兄さん?」

 

「ん……いや、何でもない」

 

石炭をくべながらも恭也の溜息に気づいたフィーナは、少し心配するような目で問いかけてくる。

恭也が深刻そうな顔をするのも、それに準じた溜息をつくのも、リーンが去ったとき以来見た事がない。

だから心配に思ったのだが、彼女の心配に反して恭也は首を横に振り、いつもの表情に戻って短く答えた。

それにフィーナもまだちょっとだけ心配に思いながらもそうとだけ呟き、自身のすべきことへと専念することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

GRANDIADifferentWorld Guardians

 

 

第六話 線路上での逃走劇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

列車での脱出から一夜が明け、未だ彼らは列車に揺られて線路の上。

脱出したとは言っても追っ手が来ることを考え、とりあえず遠くへ逃げようという算段なのだ。

しかしまあ、どこまで逃げれば安全圏なのかは当然誰にも判断出来ず、とりあえずは適当な位置まで進めようという結論に達した。

そんなわけで現在、今後の事を話し合うべくジャスティンらが先頭車両の中央にて円形に集まっている。

そしてその輪から外れるようにして、隅のほうに恭也が腕を組み、胡坐をかきながら静かに座っている。

 

「で、とりあえずこの後はどうしようか? 世界の果てを目指すんだからこの状況はある意味好都合ではあるけど、結局のところ何の準備も出来なかったし」

 

「ん〜……まあ、出来るならどこかで装備等の補給がしたいところね。食料もとりあえずは軍から少し拝借してきたけど、世界の果てどころか霧の樹海を越える上ですら心もとないわけだし」

 

「でもさぁ、霧の樹海の近くで補給が出来るような街なんてあるのかなぁ?」

 

「さ、さあ……私もさすがに霧の樹海までは近づいたこともないから、正直なところ分からないわ」

 

ニューパームの街で食料や装備の補給をするよりも先に軍に捕まってしまった。

それ故に彼らの今あるものは以前から持っていた装備と軍から拝借してきた保存系の食料が少々だけ。

これでは世界の果てはおろか、その前に広大に広がる霧の樹海さえも越えることなど出来るとは思えない。

だとすればどこかで補給をしなければならないのだが、下手な場所で停止してしまえば軍に捕まる可能性がある。

だからといって霧の樹海付近にある補給の出来る街に検討はなく、一同が悩んでしまうのはある意味必然であると言えた。

 

「あのさ……それなら、オイラの村に行くのはどうかな?」 

 

一同が悩み続ける中、おずおずと手を挙げながらレムがそんな提案を口にする。

その提案を聞いて皆がどういうことかと尋ね、それによってレムから話された内容によるとこうである。

霧の樹海の中、森の中央に位置する場所にはルクの村という場所が存在するらしい。

そこは霧で閉ざされた樹海の中故か、外から来る者を一切寄せ付けず、軍人が踏み入ってくる事もほとんどない。

だけどレムを連れているジャスティンらならば入ることは可能。なにせ、レムはルクの村出身の亜人なのだから。

 

「霧の樹海の中にあって、軍人も踏み入ってくる事がない村かぁ……いいんじゃないかな? こっちとしては願ったり叶ったりな条件だしさ」

 

村の概要説明の終わりと同時に口にしたジャスティンの一言にスーとフィーナも同意する。

追ってくるであろう軍を撒く事が出来る上に補給も可能……一石二鳥とは正にこの事を言うのであろう。

それ故か、酷く好条件なそれに同意した後、四人は揃って安著と喜びを入り混ぜた笑みを浮かべる。

 

「そんなに上手く、事が進むとは思えんがな……」

 

そんな彼らの喜びを打ち崩す一言が突然、今まで黙していた恭也の口から放たれる。

何を根拠にそう言うのかは分からない。だが、彼の口から放たれたその言葉は妙な重みが感じられた。

そのため冗談から放たれたものとはとても思えず、皆の表情に浮かんでいた喜びは一気に消える。

 

「ど、どうしてそう思うの? これだけ良い条件が揃ってるのに……」

 

「……明確な理由があるわけじゃない。ただ、不測の事態が起こりうる可能性も考慮したほうがいいという事だ」

 

「兄ちゃんや姉ちゃんたちが来る事でオイラたちの村に悪い事が起こるってことか?」

 

「一概にそうだとも言えないな。村に辿り着く前に何かが起こる可能性もある……まあ、どちらにしても用心するに越したことは――」

 

レムの言葉に対する恭也の答えは最後まで告げられることなく中断された。

いや、させられたのだ。突如、皆のいる先頭車両まで響くほどの――――

 

 

――列車後部から聞こえてくる飛行音と爆撃音によって。

 

 

聞こえてきた二つの音は後部から徐々に近づき、何の音かの判別がつく程度まで接近する。

音から察するに近づくそれは戦闘機の飛行音。爆撃音はおそらく、その戦闘機が放つミサイルか何か。

これらの情報から導きだせるのは追ってきているのはガーライル軍という事。そして列車を強制的に止めようとしているという事。

だからといって爆撃までする辺りまともではないと思いもするが、こんな事を平気でする人物に一同は心当たりがあった。

 

「またあの三人組、かなぁ……」

 

「十中八九、それで間違いないと思うわ……」

 

基地で最後までジャスティンらを追い掛け回したナナ、サキ、ミオの三人娘。

捕まったときの事や基地での事を踏まえるとそう思うほうがしっくり来るため、皆は溜息をつくしかなかった。

しかし不味い状況である事には変わりない。戦闘機まで持ち出されたのだ……黙っていれば捕まるのは必然だろう。

 

「うぅぅ……ど、どうしよっか?」

 

「どうしようって……どうにかして追い払うしかないだろ」

 

「追い払うって言っても簡単にはいかないわよ。こっちは地上、相手は空……列車を止めるわけにもいかないし、走りながら迎撃しようにも出来ない。状況的にこっちのほうが明らかに不利なんだから」

 

オロオロしながら問うてくるスーに楽観的な答えを返すジャスティン。

そしてそんな彼の言葉に対して心中を落ち着かせ、なるべく冷静に分析した事を述べるフィーナ。

結構凸凹なトリオだなぁと思える三名ではあるが、結構息が合っている辺りは良いパーティーと言えるのかもしれない。

状況が酷く悪い中でそんなどうでもいい事を考えながらしばらく見続ける恭也だったが、次の瞬間に聞こえてきた音で客車方面へと目を向ける。

その音は爆撃音とは酷く異なった、何かが割れるような高めの音。しかも聞こえたのは一つではなく、複数が連続して。

 

「な……今度は一体、何!?」

 

「不味いわね……さっきの音からして、客車の窓から侵入されたのよ。これで何か策を考える時間さえもなくなったわ……」

 

しばらくは爆撃による威嚇、そして停止するよう呼びかけるという行動に出るかとてっきり思っていた。

だからその間にこの現状を打破する策を考えようとしていたのだが、予想を裏切っていきなり進入という手を取られた。

それどころか策を考える事に必死で横付けされた事すら気づけなかった。それは非常に迂闊だったと言えるだろう。

しかし、今は失敗を悔やんでいる場合ではない。進入された以上、このまま何もしないでいても捕まってしまうだけだ。

とすれば取る手は一つだけ……進入した兵士を撃退するしかない。それ故、三人は荷物から各々の武器を取り出そうとする。

 

「はぁ……仕方ない、か」

 

だが、彼らが武器を取り出すよりも早く今まで立つこともしなかった恭也が突如立ち上がる。

発した言動と共に一体なんだと思い目を向ける三人の前で、恭也は真っ直ぐに客車への扉前へと歩み寄った。

 

「進入してきた兵士は俺が片付けてくる。その間に、お前たちは何か策でも考えてろ」

 

「え……あ、ちょ、兄さん!?」

 

あまりに突拍子もない発言故、一瞬誰もが呆然となるも、再起動したフィーナが止めようと呼び掛ける。

だけど声が放たれたのが数瞬遅かったのか言葉が響くとほぼ同時に恭也は扉を潜り、戸の閉まる音が響いた。

それにフィーナも加えた誰もが今一度呆然としてしまい、止めようと伸ばされた手は空しくも宙を彷徨うしかなかった。

 

「ど、どうしよう……恭也、一人で行っちゃった」

 

「どうしようも何も……加勢に行かないと不味いだろ」

 

再復活したジャスティンはそう返しつつ荷物から急いで武器と取り出そうとする。

だが、ようやく見つけたそれを取り出そうとした手は横から伸びたフィーナの手によって止められた。

自分たちと同じく危険だと判断して先ほど止めようとした彼女が予想外にも止めてきた事で、ジャスティンが疑問符を浮かべる。

なんで加勢に行こうとするのを止めるのか、恭也一人で心配ではないのか。そんな様々な意味を込めた視線を続けて向ける。

その視線の意味をフィーナはしっかり受け取ったが、しかしやはり首を横に振って静かに告げる。

 

「兄さんの事だから……何か考えがあっての事だと思うの。だから今は、兄さんの指示通りにしておくほうがいいわ」

 

思い返せば冒険者協会のときも、軍の基地でのときも、彼は考えなしで行動などしてはいなかった。

とすれば今回のこれにも何かしらの考えがあってと想像でき、だとすれば自分たちは行かないほうがいいと結論付けた。

もし考えあっての行動だとすれば自分たちが行くことで彼の思惑から外れ、邪魔をしてしまう可能性が高いのだ。

無論逆の可能性が全くないわけではない。だから兄をよく知る故に信じれる反面、不安も十分過ぎるほど圧し掛かってくる。

故にか今も彼を止めるために腕を掴んでいる手も僅かに振るえ、その微弱な振動が伝わることでジャスティンにも彼女の不安が分かった。

だから彼はフィーナの言う事に反論することなく頷き、武器となる剣を静かに鞄へと入れ直すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――新大陸エレンシア・軍用列車、客車――

 

 

 

先頭車両から連なる一つ目の客車へと赴いた恭也はまず、周りを見渡す。

窓ガラスを破って進入してきたのはまだ先のほう故かその車両の窓は一切割れてはいない。

そして進入してきた兵もまだ後ろの車両を探しているのか、その場には姿もなく気配も感じられなかった。

それを一頻り見渡すことで確認した恭也はふむと声を漏らし、次の車両の扉へと歩み寄る。

 

「……いるな。数は……一……ニ……ふむ、三人か」

 

扉越しに兵がいることを察して目を閉じ、意識を集中させて相手の数を分析する。

彼の扱う流派の技能の一つ、『心』。それは障害物越しでも目で見ずに相手の数を読み取る技。

気配を読みとったり消したりするのが得意な彼はもちろんこれも得意故、目を閉じてから数秒程度で数を割り出す。

そして人数を割り出した後に目を開け、扉に手を掛けてから僅かに間を空け――――

 

 

――息を一つつくと共に、扉を一気に開け放った。

 

 

あちらは所詮一般兵。如何に訓練を受けていても気配など読めるわけがない。

それを事実として示すように突如扉が開け放たれた事で兵は驚き、僅かな動揺で一瞬硬直してしまう。

普通の人相手ならばたかが一瞬だが、彼の前ではそれが命取り。一瞬の隙でも、御神の剣士には十分過ぎる隙。

 

「ふっ!」

 

その隙を突き、恭也は袖に忍ばせる飛針を瞬時に取り出して先頭の兵に飛来させる。

彼の手から放れた飛針は凄まじい速度で飛び、硬直が解ける前に対象の相手の右手に刺さった。

痛みによって兵士は右手に握る軍刀をカチャンと落とし、彼の視線が飛針の刺さる右手に集中する。

その第二の隙を利用して恭也は素早く間合いを詰め、彼の腹部に鋭い前蹴りを一発放つ。

 

「ぐおっ!?」

 

腹部の衝撃によってその兵士は勢いよく吹き飛び、隣の客車への扉にドガンとぶつかる。

そしてそのまま床へと倒れ、事切れたかのように沈黙。その一連の流れによってか、他の兵たちは先ほど以上に動揺する。

訓練されている兵のはずなのに次から次へと動揺の嵐。これには呆れるしかないが、事を運ぶには非常に楽。

彼らの動揺をまたも利用して鋼糸を瞬時に放ち、客席の間にいる兵の一人に巻きつけて拘束する。

拘束された事で動揺から彼は脱してそれを解こうとするも、簡単に解けるほど甘くもなく、解けるだけの余裕を与える気もない。

 

「がっ!?」

 

もがく兵士を見据えながら客席を踏み越え、首筋辺りに回し気味で飛び蹴りを放つ。

当たり所次第では致命傷になるそれだが、そもそも殺す気はさらさらない恭也もそこはしっかり威力を抑えている。

それでも彼の意識を奪うには十分な威力があり、蹴りの放たれた方向の客席に身体を勢いのままぶつけ、そのままグッタリとなる。

一瞬にして二人の仲間がやられた。その事実故か、最後の一人たる兵士はもう動揺もせず軍刀を振り上げ斬りかかる。

しかし、彼の剣が振り下ろされるよりも一瞬早く、恭也は蹴りを放ち終えて宙に浮いた状態から客席の背凭れを強く蹴る。

それにより振り下ろされた剣は空を斬り、勢いが止まらず進行上にあった客席の背凭れに深く食い込んでしまう。

 

「はっ!」

 

着地と同時に食い込んだ刃を引き抜こうとする兵士とすぐさま距離を詰め、腹部に徹を込めた掌底を放つ。

普通の掌底ならば酷くとも痛みに咳き込む程度で済むだろうが、徹を込められたらその程度では済まない。

衝撃は余すことなく内部へと伝わり、直に内部へと来る痛みは一時的な呼吸困難を彼へと招く。

そして僅かな間を空けて彼は泡を吹き始め、一歩二歩と剣を手放して後ずさり、停止すると同時に静かに倒れた。

 

「…………」

 

陣形もなっていない、不測の事態が起きたらすぐに動揺する。正直なところ、話にならなかった。

あまり人を悪く言うような事はしない恭也だが、とても軍人とは思えない彼らには思わずそう思ってしまう。

しかしまあ、それで何がどうなるわけでもないため、倒れた兵士を一瞥して恭也は肩を軽くコキコキと鳴らし、次の車両を目指した。

 

 

 

 

 

最初の車両であの様だったのだから、他の車両にいる兵の実力も大体予想がつく。

そして抱いたその考えに逸れず、全ての車両にいた兵士は誰もが大差のない実力ばかり。

数も一車両につき三、四人程度……相手は子供だと高を括ったのだろうが、恭也が出たのが運の尽き。

閉鎖された空間、障害物の多い場所での戦闘を得意とする御神の剣士が、あの程度の兵に負けるはずがない。

それどころか最後尾に到達した段階で彼が息一つ乱していない事から、実力差が開きすぎているのが見て取れた。

 

「ふむ……予想外に呆気無かったな。アイツを基準で考えるのが間違いだったということか……」

 

溜息と共に彼が思い浮かべた人物は軍人ではあるが、ここにいた者と違って一般兵などではない。

むしろその兵たちを統率するほどの階級を持ち、その階級に恥じぬほどの実力をしっかりと持っている。

そんな彼を軍人の基準として考えていたためか、先ほどまでの一般兵の実力には落胆を隠せない。

しかしまあ、彼を基準にすること自体間違いだったのだろうと自分に言い聞かせ、一度だけ溜息をついて奥の梯子を上る。

列車最後尾の隅にあるその梯子の先には小さな扉があり、梯子を上りきると同時に扉を開いて顔だけをその先に出す。

 

「っ……さすがに、風が強いな」

 

天井を開ければその先に広がるのは外の風景。そして列車は走っているのだから当然、向かい風は強い。

出した頭の向き的に向かい風は後頭部に辺り、出した瞬間は危うくその風の強さに頭を打ちかける。

だがそこはギリギリで押し留め、髪がボサボサになる感じを受けながら目線を前へと真っ直ぐに向ける。

 

 

――瞬間、目先に捉えた戦闘機が凄まじい音と共に何かを放った。

 

 

音がするよりも先に梯子から一気に飛び降りたのが幸いか、それは彼の頭があった場所を通過する。

目線を挙げた瞬間、目に入った戦闘機。そして直後に放たれたのは音から察して、機関銃といった所だろうか。

これにはさすがの恭也も冷や汗を一筋流した。もしあと少しでも頭を下げるのが遅れていたら、自分の頭は無かっただろう。

そんなもしもの想像を浮かべて自らの不用意さを反省し、恭也は冷静さを取り戻してしばし考える。

 

(兵は殲滅したが、このままだと応援を呼ばれるのは時間の問題だな。かといってこの列車で振り切るのは無理だし、戦闘機相手では手の出しようも無い。はてさて、どうしたものか……)

 

それは先ほどジャスティンらも悩んでいた事。

線路を走るしか出来ない列車では逃げるにも限界があり、ある程度自由の利く戦闘機相手ではいずれ捕まる。

だからといって太刀打ちしようにも魔法はあんな空中まで届かないし、飛び道具もないから手は出せない。

状況だけ見れば八方塞り……それ故頭を巡らせて策を考えるも、これといって良い案は浮かばなかった。

だとすればどうするかという考えに普通なら至るが、自分で良い案が浮かばぬなら残る手段は一つしかない。

 

「あいつらが何か策を考え付いている事に、期待するか……」

 

他人任せと言われればそれまでだが、何も考え付かないのなら結局はそうするしかない。

それに恭也と違ってまだ子供と言えるほど若い彼らなら、彼では思いつかない柔軟な策を考え付くかもしれない。

そこを期待しつつ恭也は一度だけ開きっぱなしの天井を見上げ、視線を外すと共に来た方向へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

――新大陸エレンシア・軍用列車、先頭車両――

 

 

 

殲滅に向かう際、止めようとするフィーナを無視して出てきたのを先頭車両前にて思い出した。

だからか扉を開けようとする彼の手は寸でで止まる。それは何となくだが、彼女が怒ってる気がしたから。

戻った瞬間に怒りの形相で罵倒の嵐。酷ければ鞭を振り回し、狭い車両の中で鬼ごっこをする羽目になる。

そんな想像が彼を一瞬扉前で留まらせるが、避けられぬ運命だと腹を括って止まった手を動かし、扉を開けた。

 

 

――しかし、現実は彼の想像とは全く違う方向で展開された。

 

 

怒りの形相と罵倒が来るかに思えた。だけど、扉を開けた瞬間に向けられたのは驚きの顔。

そして続けるように彼を心配するような顔を向けられる。中でも、フィーナは特にそれが酷かった。

車両に入ってきた彼へとすぐに歩み寄り、なぜか服をポンポンと叩いて何かを確認し始める。

それが終わるとやはり変わらぬ心配の色を浮かべたまま、彼の顔を見上げるようにして口を開いた。

 

「兄さん……怪我は、ないの?」

 

「ないが……一体どうしたんだ、フィーナ? いつもならそんな事聞かんだろうに……何か気にかかることでもあったのか?」

 

「う、ううん、そういうわけじゃないけど……ほ、本当に何ともないのね?」

 

しつこいと言いたくもなるが彼女の顔を見るとそれも言えず、恭也は静かに首を縦に振る。

二度に渡り肯定された事でようやくフィーナも信じたのか、小さく安著の息をついて彼から離れた。

それを気にしたかのように今度はジャスティンとスーが駆け寄り、先ほどの心配はどこに消えたのか、好奇の眼を向けてくる。

 

「や、やっぱり凄いんだな、恭也! 軍の兵士たちを相手に一人で向かって、しかも無傷で帰ってくるなんて」

 

「フィーナのお兄さんっていうのは伊達じゃないのね。何か尊敬しちゃうかも♪」

 

「む、むぅ……」

 

持ち上げられているのが恥ずかしいのか、子供の純粋な好奇の視線が苦手なのか。

理由は分からないが二人の視線と言葉に小さく唸り、どうしたものかと視線を彷徨わせる。

が、軍が撤退したわけではない今の状況でそのままというわけにも行かず、コホンと咳払いをして視線を戻した。

 

「それで、この状況を切り抜けるための策は何か浮かんだのか?」

 

「ああ! そこの辺はバッチリだぜ!!」

 

とか言いつつジャスティンは皆と考え付いた策を恭也へと簡単に説明する。

彼らの考え付いた策……それはこの列車の先頭と客車の連結部を切り離して逃げ切るというもの。

だがそれだけでは追い続けられるのは必然。故に連結部を切り離した際、彼らの乗るのは先頭ではなく客車のほう。

まずは列車のを止めるためのブレーキを壊し、そして石炭を大量にくべ、列車が止められない状況を作る。

後は客車のほうの客席の陰にでも隠れて軍の人間が先頭に向かうのを見届け、向かったら連結部を切り離す。

そうすれば客車は減速するが、軍の人間が乗った先頭車両は加速し続け、結果として逃げ切る事が出来るというわけだ。

 

「ふむ……確かに軍も追ってこれないだろうな。ただ、下っ端を誘い込んでも意味はないが」

 

「大丈夫大丈夫! あいつらの事だから、どうせ自分自身が追い詰めようとして入ってくるに決まってるって!」

 

「……その根拠が分からんが、まあそう言うならそれに賭けてみるとしよう。他の策を考えてる時間もない事だしな」

 

恭也の了承も得たところで立案者のジャスティンとスーはガッツポーズ。それにフィーナが僅かに苦笑。

そして次に軍が列車内に入ってくるまでそう時間はないため、一同は策を実行すべく動き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

結構前から書き終わり手前まで出来てたんだけどなぁ……。

【咲】 リリカルとかメンアットを書いてたら遅れてしまったと?

うん。更新自体も前回から二ヶ月近く空いてる状態……なんかもう、駄目駄目だな。

【咲】 全く書いてないわけじゃないんだから、そこまで気にする事じゃないんじゃない?

ん〜、まあこれを見てくれてる人をここまで待たせるというのは正直痛いところなのですよ。

【咲】 じゃあ、今度からはこっちが疎かにならないよう努力しなさいな。

うい。てなわけで、今回は列車の中でのお話だ。

【咲】 三人組が追ってきたのを振り切るって奴ね。

そうそう。まあ、考え付いた策とかは原作と変わらんものではあるけどな。

【咲】 つまり、基本は原作を代わり映えの無い部分って事かしら?

まあ端的に言えばな。ともあれ、次回はようやく霧の樹海前まで到着するだろうね。

【咲】 そこからルクの村の御神体の騒動。そして霧の樹海を越えて世界の果て。

ようやくここまできたって感じだなぁ……話数的にはそこまで多くないけど。

【咲】 まあ、世界の果て編まで行けばそこそこには話数も多くなるんじゃないかしら?

そう思いたいねぇ……てなわけで、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

ではでは〜ノシ

 

 

 

 

 

 

感想は掲示板かメールにて。

 

 

 

 

 

 

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