Tales of Vesperia B.N

 

第一話 天才にして変人たる少女との邂逅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合流から残り二時間にも渡る道程を歩く最中で恭也とユーリたちは互いの簡単な自己紹介などをした。

それに寄ればユーリの正式な名前はユーリ・ローウェル。少女はエステリーゼで鞄の少年はカロル・カペル、そして共に連れる犬はラピードと言うらしい。

エステリーゼ……略してエステルは何でもユーリもいた帝都の貴族。その貴族様がなぜ結界の外へと聞けば、ある人を追い掛けてとの事。

その途中で偶然彼女が追い掛けてる人物と知り合いのユーリとラピードと出会い、別々の目的ながら共に旅立ち、今に至っている。

そしてその過程、デイドン砦の通行が出来なかった故に通ったクオイの森にて二人とカロルは出会い、済崩し的に今も共にいる。

ちなみにカロルは世界中に存在するギルドの一つ、『魔狩りの剣』のメンバー。本人曰くはギルドのエースらしいが、真相は定かではない。

とまあ、そんな一通りの軽い自己紹介をした後、今度は恭也が三人と一匹へ軽い自己紹介。ただ、事情が特殊故に少々嘘を交えてのではあるが。

といっても当たり障りのない嘘な上、元々真顔で嘘を言う事に長けているせいか全員が疑いも無く彼の自己紹介に納得したように頷いた。

頷きはしたのだが、約一名――エステルは恭也が語った話の中に出た相棒というのに興味を惹かれたらしく、そこについて興味津々に聞いてきた。

 

「そうですね……一言で言えば、少し大人しい所がある子でしょうか。基本的に本を読む事が大好きで、何もする事がなければ一日を読書で費やす事もざらだったりしますね」

 

「……俺には真似出来ない行為だな」

 

「ユーリは読書、好きじゃないですもんね。それでその子……えっと……」

 

「ああ、リースです、リース・アグエイアス。性のほうで呼ぶと怒るので、会ったら名前の方で呼んでやってください」

 

それにエステルは笑顔で頷き、続けていろいろと質問してくる。歳は幾つだとか、恭也とはどういう関係なのかとか。

どこにそこまで興味を持つような事があったのかは知らないが、それらに恭也が答えれば最終的に会うのが楽しみと言いたげな顔をしていた。

質問から解放されて息をつつつ彼女のそんな顔を知ると一つの不安が過る。その不安が何なのかと言えば十中八九、初対面の彼女にリースがどう接してくるかだ。

普段のリースしか語っていないので彼女は知らない事だが、リースはそこそこに人見知りである。自分の出身世界にいるアスコナほどではないが。

少なくとも初めて会う人に対しては話もするし怯えはしない。でも、心を許せると思った相手じゃないと一線引いた付き合い方をする……そんな子だ。

リタと初めて会った時も、半年はそんな感じだった。だが、心を許せるとまで思っているかは分からないが、今は少なくともある程度自分を曝け出している。

エステルに語った大人しいというのは一線引いた相手に常に見せる態度。ある程度信用してくると悪戯してきたり、妹ほどではないが我儘を言ったりもする。

だけどそれを語ると最初に接した時、気落ちしかねない。それ故、基本的に初対面の相手に彼女の事を紹介するときはこういう事にしているというわけだ。

 

「エステルほどじゃないけど、僕もちょっと会ってみたい気がするかも。僕の周りってそういう静かそうな子、全然いないし」

 

「どの道アスピオにいますので会う事もあるかもしれませんが、会ったら発言に気をつけておいた方がいいと思います。確かにリースは大人しいですが、下手な事を言うとキツイ言葉で反論が返ってきますから」 

 

「大人しいけど気は強い方、ってか。となるとカロル先生なんか、キツイ言葉ばっかりで凹まされるかもな」

 

「そ、そんな事言ったらユーリだってそうじゃん!」

 

「俺は別に相手がどんな事を言ってきても気にしないからな。だから凹んだりする事もない」

 

「ぼ、僕だって凹んだりなんかしないよ! なんて言ったって、僕は『魔狩りの剣』のエースなんだから!」

 

「いや、そこは凹む云々と関係ないだろ……」

 

結界の外だから近所迷惑とかないが、それは賑やかを通り越して騒がしいの域にまで達していた。

だが、別段注意する事でも無いために恭也は何も言わない。ちなみにエステルなどはあまりに楽しみにし過ぎて先の会話すら聞いてない。

更にはラピードも大して興味無しと言わんばかりに欠伸などする始末。傍目から見て少しばかりカオスな状況以外の何物でもない。

でも、こういった雰囲気を出せるというのも彼らの持つ味なのかもしれない。そんな事を思いながら依然として騒がしい会話に耳を傾けつつ、残りの道をただ歩き続けた。

 

 

 

 

 

賑やかな話し声を聞きつつ歩き続ける事しばし、ようやく一同はアスピオのある空洞へと足を踏み入れた。

そしてそのまま進んだ先に見えてきた街を見ての彼らの第一印象が、薄暗くてジメジメしてそうな陰気な街である。

まあ、第一印象として感じたそれはあながち間違いではないため訂正はせず、恭也は街へ入る門の手前で足を止めた。

 

「ここから先は通行証を持っていないと入れない事になっているんですが……皆さん、持ってますか?」

 

「俺とエステルは持ってないな。カロル先生はどうなんだ?」

 

「僕だって持ってないよ。そもそも、アスピオになんて当初は行く予定もなかったんだし」

 

「ってことはキョウヤ以外は全員持ってない、と。アンタの通行証で俺たちも通してもらうっていうのは出来ないか?」

 

「たぶん、大丈夫だとは思いますが……少し待っててください。念のため、門兵に聞いてきますので」

 

三人が頷くのを見てから恭也は門の前に立つ兵士の一人に近寄り、事情を話して通してもらえるかどうかを聞いてみる。

その際、三人と一匹の事を自分の知り合いだと若干の嘘を交えて。会ったばかりの人間と言うよりも、その方が良い方向へ転び易い。

そしてそれが功を奏したのか、兵士はラピードに関しての一応の注意のみを口にしただけで了承を出し、彼は三人の元へ戻ってそれを伝えた。

それから歩き出して門を潜り、まずは街の中央へと歩を進め、そこで一旦足を止めて再び恭也は口を開いた。

 

「さて……皆さんはこれからすぐにモルディオさんの家へ?」

 

「そう、ですね。夜分遅くで申し訳ないとは思いますけど、とりあえずは訪ねてみようと思ってます」

 

「そうですか。なら、ついでですからそこまで案内しますよ。さすがに来たばかりですから、場所なんて分からないでしょうし」

 

「そうしてくれると助かる、が……実際のところはアンタの帰る場所もそこだったりしてな」

 

ユーリの口から放たれた言葉は初めて彼の無表情を崩す。何でそれをと言いたげな、若干の驚きを浮かべるという形で。

対してユーリは状況が掴めておらずに困惑するエステルとカロルに説明するついでとして彼の疑問にも答えた。

 

「道中の話でアンタがモルディオと知り合いじゃないかとは思ってたが、まさか同居してるとまでは思わなかったな。発破は掛けてみるもんだ」

 

「っ……はぁ。まさか、バレてしまうとは思いませんでしたよ……ずいぶん、感が鋭いようですね」

 

「まあな。それでどうするんだ? アンタの正体を知った俺たちを消すか?」

 

「え……えええ!? 消すってまさか、僕たち殺されちゃうの!?」

 

「それはコイツの出方次第だな」

 

恭也を見るユーリの眼光は鋭く、また彼の相棒たるラピードも途端に警戒した様子。返答次第では、すぐにでも持っている武器を抜きかねない。

その二人の様子を見ているしかないエステルとカロルはどちらも不安げな顔。だが、どちらも不安に思う事はやはり異なっている。

エステルの場合は元々の性格とここまでの道中で少しばかり芽生えた情のせいか、彼と戦いたくはないと思っている。

反対にカロルは、彼がどう返答するか事態で殺される可能性が出てくるという事を恐れている。無論、ただ殺される事はしないからあくまで可能性だが。

ともあれ、道中までとは明らかに違う三者の恭也を見る目。だが、彼からすればユーリがそんな風に考えても不思議はないと思っていた。

泥棒と疑っている相手の仲間が自分の素姓を偽って一緒にいたのだから。案内する振りをして消す機会を窺っていたと見ても可笑しくは無い。

だから、小さく息をつきつつ恭也はそこの誤解を解いておくべく、敵対の意思は無いとまずは示すように両手を上げて口を開いた。

 

「そんな事をする気なんて元からありませんよ。そもそも、ユーリさんが今言った事は自分でも言おうとは思ってましたし、何よりこの場で剣を抜かなければならない状況にするほど俺は馬鹿ではないつもりです」

 

「へぇ……ならさっきのも、普通に案内してくれるって意味だと捉えてもいいって事か?」

 

「ええ。俺ではアレの疑いを晴らす事は出来ませんから、実際に会って話をしてもらった方が双方にとってもいいでしょうしね」

 

言いつつ恭也は歩みを再開してリタの家がある方面へと歩き出す。そして僅かに間を於いて三人と一匹もまたその後に続いた。

リタに対するモノどころか彼に対する疑念すらも未だ晴れてはいないが、変に時間を食うよりは普通に案内される可能性に賭けてみようと考えて。

ただもしもの際に備えているのか、警戒の念は解いていない。だが、それも当然かと納得しつつ恭也は歩みを止めず、リタの家へと向かっていった。

 

 

 

中央からリタの家までそんなに距離はないため、徒歩一分程度で彼らは家の扉前まで辿り着いた。

だが、そこで恭也は動きを止め、開く事もなく扉を凝視。少し後ろの方で待機していたユーリたちもそれに一体どうしたんだと思い、少しだけ近づいた。

そして彼が凝視している扉を揃ってみてみれば、何となく彼の様子の理由が理解出来た。なぜならその扉、なぜか取っ手らしきものがないのだ。

しかも継接ぎだらけなのはともかく、外から見ても少し歪んで見える。明らかに普通とは言い難い、悪い言葉で言えば下手くそな作りの扉だった。

 

「はぁ……またか。何度やったら気が済むんだ、全く」

 

文句のように呟く口調は自分たちに向けるものとは異なってタメ語。おそらくはそれが彼の素なのだと何となく分かる。

とまあそれはさておき、とりあえず恭也は文句の後に扉を押してみた。だが、扉はいくら押してもウンともスンとも言わない。

かといって取っ手が無いから引く事は出来ない。となれば一体どうやって入るんだと、後ろの方でユーリ達が疑問に思う最中。

 

「すみません……少し、下がっててもらえますか?」

 

今まで以上に静かな声で恭也が告げてきたため、ユーリたちは考えるのを止めて三、四歩ほど後ろへと下がった。

その直後、恭也は僅かに扉との距離を空け、勢いよく扉を蹴りつける。さすがに予想外の出来事故、全員がビクッとしてしまう。

だけど恭也はそこに気づかぬまま未だ開かぬ扉をもう一蹴り。すると今度は効果があったのか、扉は僅かにギッと音を立てた。

そこから続けてもう一度蹴れば、今度は完全に扉が開かれる。勢い余って騒がしいと言えるほどの音を響かせながら。

 

「にゃあ!?」

 

その音が聞こえた次の瞬間、内部から猫のような声。扉が開かれたという事でユーリたちも近寄り、恭也の後ろから内部を覗きみる。

すると先ほどの声の主だろうか、状況を理解していない様子でキョロキョロと忙しなく首を動かす蒼髪セミロングの少女の姿があった。

その少女は一頻りキョロキョロしてからようやく状況を理解したのか、入口にいる恭也へと視線を向けて乾いた笑いを浮かべた。

 

「あ、あははは……お、お帰り、恭也」

 

「お帰り、じゃないだろ……お前たちは、一体何度扉を壊せば満足するんだ。いちいちこれを直す俺の身にもなってくれ」

 

「あぅ……ご、ごめんなさい」

 

素直に謝った事が幸いしてか恭也はそれ以上お説教をする事は無く、少女――リースは小さく安著の息をつく。

それから恭也が入口から中へ入り、それに続くようにゾロゾロと入ってきた三人組にリースは視線を移して首を傾げる。

 

「その人たち、誰?」

 

「ああ、ハルルから帰ってくる道中で会ってな。どうもリタに用があるらしいから、ついでに案内したんだ」

 

「アレに用事? はあ~……今日は珍しいねぇ、こんなに来客が多いなんてさ。それも騎士のお兄さんの次は団体客さんだ」

 

「騎士のお兄さん……それってもしかして、フレンって名前の騎士じゃなかったです?」

 

「ん~、確かそんな名前のお兄さんだったはずだけど……なに、お姉さんの知り合い?」

 

「あ、はい。それでその、ここを訪ねてきた後にフレンがどこに行ったかなんていうのは……」

 

「さすがにそこまでは知らないよ。リタにフラれたから他の魔導師を探しに行ったのまでは知ってるけど、そこから先の行動まではねぇ……ああ、でも経過した時間的にもうアスピオにはいないんじゃないかな」

 

「そう、ですか……どうもありがとうございます。えっと、リースさん?」

 

「リースでいいよ――ってか、何で私の名前……ああ、そっか。恭也に聞いたんだね」

 

何で自分の名前を知っているのかを疑問に思い、自己解決して納得したように頷いているリース。

反対にフレンがすでにここにはいないという事実によってエステルは少しだけガッカリとする。なぜなら彼女の旅の目的にある人物こそ、フレンなのだから。

しかもここからの行き先がはっきりしないとなれば、追い掛けるにもかなり難儀。寄り道が何もないなら、ハルルに戻っているという可能性はある。

だけどその場合でも行き違いになって時間が経ち過ぎているため、すでに発っている可能性は極めて高い。どの道、まだ会えるまで旅は続くという事になる。

とまあそこのガッカリ感はありしも、続けてリースが口にした自分の事は呼び捨てでいい発言に一転して嬉しそうな顔を浮かべ、自分もエステルと呼んでくださいと口にする。

少し後ずさってしまうくらいの勢いで言われ、反射的に後ろのめりになりながらもリースは戸惑い気味で頷き、差し出されてきた手を握って握手などしていた。

同じく自己紹介をと近づいていったカロルはさておき、三人組最後の一人であるユーリはといえばそちら(主にエステル)を見て溜息をつきつつ、恭也へと近づいた。

 

「それで、モルディオはどこにいるんだ? アンタの相棒って話のガキンチョ以外、それらしい奴は見当たらねえけど」

 

「出掛ける前に見た様子だと外出するような感じには見えませんでしたから、少なくともこの家のどこかにはいると思いますけど……リース、リタがどこに行ったか知らないか?」

 

「ふえ? さあ……私が寝る前まではちゃんと居たけど。案外、その辺を探したらいたりするんじゃない?」

 

リースに尋ねてみても明確な答えは返ってこず、仕方なく捜索のために部屋中を動き回ってみる事にする。

部屋の奥の本棚の前、食材保管庫兼調理場、二階のリタとリースの寝室。その一通りを満遍なく回り、捜索してみる。

だが、捜索し終わってもリタの姿は見えず。それ故に何かしらの用事で街中に出ているのだろうかと考え始めた直後――――

 

 

 

――部屋の中心部辺りから、ゴソッと何かが蠢く音がした。

 

 

 

家の中で一番散らかっている一階の広間。その中でも特に散らかりが酷いのは、今しがた音がした中心部。

片付いているときでそこがどんなとこか説明するなら、簡単に言うと人一人は余裕で入るくらい大きな円状の窪みがある場所。

それは別に何かをしたからそんな窪みがあるわけではなく、そういった構造でこの家が建てられたからあるというわけだ。

だが、稀にしか無い片付いているときならただの窪みに見えるのだが、普段は基本的に本が大量に積まれていたりする。

そして研究のための読書に集中しているときのリタは大体の場合は積まれた本の中心、ちょうど窪みの中心にも当たる場所にいる。

しかし現在はリースとリタの盛大な喧嘩のせいでいつもより散らかっており、積まれていた本が崩れて見事なまでの山を形成していた。

普通に見たらその時点で人が居れるような環境ではない。それ故に捜索場所からは省いたのだが、驚く事に音がしたのはその場所からであった。

 

「ま、まさか、あんな場所にいるなんて事はない……よね?」

 

「いや~、どうだろ。絶対無いと言い切れないのが『変人』って呼ばれる所以でもあるからね~」

 

カロルの言葉に対してリースがそう言えば、『変人』という部分にリタを知らない一同が揃って首を傾げる。

故にリースが簡単にその部分を説明した矢先、再びゴソッと音が響く。それに一部の者はビクビクとしながらも、全員の視線がそこへ集中する。

そして二度目の音が響いてからおよそ数秒後。遂に音の元凶と思わしき影が、ドサドサッと本を崩しながら姿を現した。

 

「う、うわああああっ!?!」

 

「……うるさい」

 

突然と言えば突然の出現故、思わず悲鳴を上げるカロル。その声に対してか、姿を現した白いフードを被る人物は低い声で呟く。

その呟きの直後、その人物の足下から赤色の光が僅かに立ち上る。それは見間違うはずなど無い……魔術を使用する際に現れる魔法陣の光。

赤色という部分から察するに行使しようとしているのは火属性の魔術。ただ、なぜいきなり魔術発動かは激しく理解不能。

とはいえ、その進路上にいるのは正直危険。そのため、カロルと近い位置にいたユーリは真っ先に彼を見捨てて進路上から退避。

残されたカロルはといえば、ユーリが逃げてから数秒経ってようやく状況を理解するも、逃げる暇はなく――――

 

 

 

「泥棒は……吹っ飛べ!!」

 

――フードの人物の叫びと共に放たれた火球の脅威に晒される羽目となった。

 

 

 

だがその火球がカロルへと到達するより速く、元から安全域にいたリースより放たれた魔力の刃で火球は到達前に爆砕した。

ある程度の距離を置いて爆発させたので衝撃もそんなにはない。ただ、それでもさすがに爆発の際に発生した煙まではどうしようもない。

そのため、爆発した地点から一番近かったカロルに多くの煙が襲い、激しく咽ってゲホッゲホッと咳き込んでいた。

対して爆発した地点から近い位置にいるもう一人――火球を放った人物は爆風も大きく襲い掛かり、被っていたフードがパサッと外れて素顔が明らかになっていた。

 

「女の、子……?」

 

リースよりは大人っぽく、エステルよりは少し幼さがある素顔。茶色掛かった短めの髪にゴーグルっぽい物を付けた少女。

それが誰かと言えば、十中八九リタ・モルディオその人。だが、彼女の事を知らなかったエステルはモルディオが女だった事にまず驚く。

しかし知らぬ誰かに驚かれている事などリタは気にしないまま、恭也の姿を見つけるとそちらを向いて口を開く。

 

「何だ、帰ってたの? だったらちょうどいいわ。一寝入りしてお腹が空いたから、何か食べられる物を――」

 

「それよりも客だぞ、リタ。何でも帝都で水道魔導器を盗んだ疑いでお前を訪ねてきたらしい」

 

リタの言葉を遮って伝えれば、彼女は疑いが掛かってる事に驚くどころか面倒臭そうに見知らぬ面々へ一通り視線を走らせる。

そしてその中でメンバーの責任者っぽく見えたのか、咳き込みを収めたカロルの横に戻ってきていたユーリに視線を固定した。

 

「人を泥棒扱いするのは結構だけど、ちゃんと証拠はあるんでしょうね? もし何もないようでこのアタシを疑ってるんだとしたら……」

 

「心配すんな、ちゃんと証拠はある。マントを羽織った小柄な奴だっていう俺の目撃情報と名前がモルディオだっていう街の人の証言がな」

 

「ふぅん……確かに情報とは一致してるわね。アタシは小柄でマントも身に付けてるし、名前もリタ・モルディオだしね。でも、たったそれだけの事でまさか、犯人だって疑ってるわけ?」

 

「これ以外の情報はなかったもんでね。該当する奴からまず疑ってかかるのは常識だろ?」

 

「常識、ねぇ……まあ、何を言われても答えは一緒だけどね。やってないものはやってな――――」

 

至極詰まらなそうに自分は犯人じゃないと言い切ろうとするが、その途中で言葉を止めてリタは不意に考え込む。

何やらブツブツと独り言を呟きながら。だけどその思考もすぐに終わり、視線を戻すと先ほど言おうとした言葉とは別の事を口にした。

 

「今日はもう時間的に遅いから、明日の早朝にまたここに来なさい。一応、アスピオの宿――っていうか休憩所だけど、そこのほうにはアタシから連絡しとくから」

 

「……意味分かんねえんだけど?」

 

「察しが悪いわねぇ……明日、アタシが犯人じゃないって証拠を提示してやろうって言ってんのよ。ただそのためにはアスピオの近くにある遺跡まで行かないといけないから、今日は無理ってわけ」

 

「ああ、あの騎士のお兄さんが言ってた遺跡に盗賊団が出たっていうやつだね。でもあれ、それの証明になるの?」

 

「確証は無いけど、可能性は十分にあるわ。それで、何か他にご質問がある?」

 

「ねえけど……そんな事言って逃げるつもりじゃないよな?」

 

「しないわよ、そんな事。アタシは犯人じゃないんだから、そんな事したってメリットがないもの。大体、逃げるって選択をするよりこの場で叩きのめしてアスピオの外に叩き出すって選択を取ってるわよ、アタシなら」

 

そう言うとリタは早々に入口方面へと向かい、入口を潜って家の外へ出ていく。おそらく休憩所のほうに話を通しにでも行ったのだろう。

ユーリも、それを追う事はしなかった。あの会話の中だけでもある程度の性格を読み、その上で確かに逃げるような奴じゃないと何となく分かったから。

ただ、魔導器泥棒の疑い自体は未だ晴れてはいない。どんな性格の奴であれ、犯罪行為をする奴はするのだから。

 

「なんか、リタってちょっと怖いね……」

 

「寝起き時は不機嫌だからね。さっきも寝てたみたいだから、騒がしさで起こされたのもあっていつもより少しだけ不機嫌さが増してるけど」

 

「つうか、あんな場所で寝てるなんて誰も思わないだろ。ゴキブリやネズミじゃあるまいし」

 

「似たようなものだと思うけどね~。研究が出来るなら寝る場所なんてどこでもいいとか思うような人だしさ、リタは」

 

「そういえば、この間なんかは何を思ったのか調理場で本読みながら寝てたなんて事もあったな……」

 

「あったねぇ、そんな事も。ベッドに連れてこうとしたら目を覚まして魔術ぶっ放してくるし、そのせいで扉が壊れたりするし……大変だったねぇ、あのときは」

 

「扉が壊れた原因の半分はお前だがな……」

 

「ず、ずいぶんと過激な日常を送ってらっしゃるんですね」

 

「過激どころの問題じゃないと思うけど……」

 

カロルのその突っ込みは的確と言える。実際問題として何かがあるたびに扉破壊はおろか、家中を滅茶苦茶にされては堪ったものじゃない。

しかも滅茶苦茶にしても片付けたりせず放置するものだから、決まって片付け等は全て恭也任せ。彼からしたら迷惑極まりない事であった。

とはいえ、やらなければやらないで全く生活能力が無いに等しい二人だから、片付けない分だけカオスな状況になっていくのは必至。

故に初めて会ってから一週間程度で恭也の役割が決まり、それは一年が経った今現在にまで続いているというのが現実である。

 

「まあ、とにもかくにも全ては明日だな。どんな物を見せて証明してくれるのか、楽しみだ」

 

「もしそれでリタが犯人じゃないって分かったら?」

 

「そんときゃ謝るさ」

 

「その言葉、忘れないでよね」

 

「わあっ――!?」

 

いつの間に帰ってきたのか、ユーリの一言に念を押すリタ。あまりの突然さ故かカロルなどは激しく驚いたり。

だが、リタはやはりそこに興味は持たず、続けて恭也に食事が出来たら呼んでと告げてさっさと梯子を登り、二階へと引っ込んでしまった。

それに恭也は返事を返しながらやれやれといった感じの様子を見せつつ、若干唖然としているユーリたちに休憩所の場所を簡潔に教える。

別に街自体入り組んだ構造でも無いため、教えられた内容に三人は頷き、去り際にエステルのみ律義にお辞儀をして三人とも家を出て行った。

三人が出て行くのを見送った後、恭也はとりあえず壊れた扉を入口に立て掛けておき、地面に散らかった本などを軽く片付けながら溜息をつく。

 

「はぁ……何だか、いつもより疲れた気がするな。まあ、いろいろあったから当然と言えば当然だが」

 

「そういえば帰るのが遅かったみたいだけど、それもそのいろいろっていうのが原因?」

 

「そうなる、な……もっとも、一番の原因はやっぱりお前たちだけどな」

 

「あ、あははは、それは言わない約束だよ、恭也」

 

そんな言葉を返しながらも一応片付けを手伝う辺り悪いとは思っているらしく、恭也もそれ以上の追及はせず。

原因の半分を担っているリタに至っては追求したところで聞きはしないから(そのときだけ反省したような顔をするが)、疲れている事もあって追及する気も起きない。

故に日常茶飯事な事だと自分を納得させる言葉を頭に浮かべつつ軽い片付けを終え、続けて恭也は遅い夕食を作るため、調理場へと引っ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

【咲】 今回のお話でシャイコス遺跡突入前のメンバー+αが顔合わせしたわね。

だな。もっとも、+αといっても彼らが行くとは限らないけどね。

【咲】 そういえば前のあとがきでもそんな事言ってたわね。

うむ。まあ、恭也かリースのどちらか一方は行く事になるとは思うけどね。

【咲】 どうして二人共じゃないの? 恭也とリースは二人で一つの戦力じゃない。

元の世界ではね。現状、この世界では個別で行動しても十分なほどの力を持ってるから問題ないんだよ。

【咲】 ふ~ん……じゃあ、どちらかはシャイコス遺跡に同行するってのは確定事項で良いのね?

うん。まあ、その代り付いていかなかった一人はシャイコス遺跡攻略まで出番が無きに等しくなるんで其処の辺よろしく。

【咲】 話の軸は完全にシャイコス遺跡側へ向くから?

そういう事だ。ただ、シャイコス遺跡攻略後は全員は揃い踏みで行動するから、誰の出番が薄くなるって事は無くなると思う。

【咲】 断定じゃないのね。

まあ、俺の技量次第で一緒に行動してても影が薄くなるって事は有り得るんでねぇ。

【咲】 本当に駄目作者ね。

ぐっ……ま、まあそんなわけで次回、シャイコス遺跡編をご期待くださいませ。

【咲】 それじゃあ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲】 じゃあね、バイバ~イ♪

 

 

 

 

 

 

 

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