彼ら――恭也とリースの二人を奇妙な事態が襲ったのは、今からちょうど一年前。

 

大学は休み。だけど何をするでもなくいつものようにリースと二人でのんびりしていたときに突如聞こえた『声』。

 

念話のようでそうじゃない、魔法のようで何かが違う……そんな風に感じてしまわざるを得ない不可思議な『声』

 

その声を辿ってみれば、発生源は家の庭。そこに広がっていたのは、まるで空間が裂けたかのように存在する渦上の穴。

 

魔力的な反応はまるで感知できない。つまり、それは魔法によって発生したものではないという事に他ならない。

 

本当ならそんなものを発見した時点で誰かに知らせるべきだった。管理局の所属する、誰かしらに。

 

でも、なぜかそのとき、その穴を前にした恭也はまるで吸い込まれるように穴へと近づき、半ば無意識の内に飛び込んでしまった。

 

その後を慌てて追い掛け、リースも穴へ飛び込んだ。それが、テルカ・リュミレースの大地へ二人が足を踏み入れた瞬間。

 

その次の瞬間、初めて目に映ったものは見慣れぬ家内と自分たちを唖然とした表情で見る一人の少女。

 

今でもその現象が何だったのかは判明していないが、とにもかくにもそれが彼女――リタ・モルディオとの出会い。そして――――

 

 

 

 

 

 

彼女と自分たちの、妙な共同生活の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tales of Vesperia B.N

 

     プロローグ2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リタという少女は自分の身の回りなどに非常に無頓着。下手をすれば食事も取らず、ひたすら研究を続けるような子。

そしてそれはリースに関しても同じ事が言える。それ故、身の回りの家事全般は基本的に彼――恭也が担当する事になっていた。

幸いな事に家事も料理も人並みには出来る。ただ、片付けても片付けても次の日の昼頃にはすでに元通りという状況はさすがの彼でも疲れる。

だけど少しは自分たちでも片付けろと何度言っても二人とも聞かない。だから結局、諦めて毎日毎日同じ事を繰り返すしかないのである。

そんな日々が続く事、ちょうど一年が経った今日。彼はどうせ散らかるからと掃除を後回しにして一人、近場の街であるハルルへと買い出しへ赴いていた。

大体の場合、買い出しはリタを含む自分たちの食事のための材料。だが、今回に至ってはリタからこれを買ってきてと半ば命令される形で頼まれた買い出し。

だが一応買う物のメモを渡されはしたが、見る限りこんな物がハルルにあるのかと疑ってしまうような物ばかりであった。

しかしまあ、頼まれたからには買ってこない限り絶対に文句を言われて家に入れてもらないのは必至。それ故、恭也は一応いつもの店を訪れた。

 

「いらっしゃい――って、キョウヤくんか。今日もいつものやつかい?」

 

「あ、いえ、今日はちょっと頼まれ物の買い出しに……これなんですけど、ここに置いてますか?」 

 

「どれどれ……ああ、これならどれも置いてあるね。ちょっと待ってな、すぐに用意して包むから」

 

週に一回から二回は買い出しに出ている事もあり、ハルルのこの店で恭也は常連客の一人になっている。

故に出るのが遅かったためにようやく店を訪れたときには店仕舞いをするような時間帯であったが、店主は恭也の顔を見るなり店仕舞いを中断して対応してくれる。

こういった部分で人付き合いというのはやはり大事だなと実感しつつ、メモにあった物を用意している店主へ恭也は一つ、気になっていた事を口にした。

 

「そういえば、街に結界が張られていないようですが、結界魔導器(シルトブラスティア)に何か問題でもあったんですか?」

 

「ん?  ああ、それね……キョウヤくんも知ってると思うが、ここの結界魔導器はハルルの木と融合してるせいか満開が近い時期になると結界が一時的に弱くなるん だ。いつもならギルドの護衛を頼んでどうにかするところなんだが、今回はその時期が少し早まった上に運悪く魔物に襲われちまってなぁ」

 

「結界魔導器が、やられてしまったと?」

 

「そういうことだ。まあ、ちょうど居合わせた巡礼の騎士殿のお陰で怪我人は出ても死者は一人も出てねえし、その怪我人も旅の治癒術師さんが治してくれたから大事がなかったってのは幸いだけどな」

 

そう告げる声は明るいものの、表情はどこか不安を抱いているように窺える。だが、それも仕方のない事なのかもしれない。

死者が一人も出なかったとはいえ、街の生命線とも言える結界魔導器が壊された。これは言い換えれば、いつまた魔物に襲われるか分からないという事。

リタ曰く、今のテルカ・リュミレースという世界は結界によって安全を約束されているとの事。つまりそれほど、人々は結界を生み出す魔導器に依存している。

そして依存しているからこそ、魔物を退ける唯一の手段たる結界が無ければ不安になる。騎士と違い、彼らには魔物を退ける力などないのだから。

ただ、こういった問題に於いて解決策が無いわけでもない。その解決策とは簡単に言ってしまえば、壊れた魔導器を直してしまえばいいという策。

無論、内容は簡単でも素人には無理な話である。だけど、こういった事に適任であろう人物――アスピオの天才魔導師たるリタの存在を恭也は知っている。

それ故、高確率で断られそうだが駄目元で頼んでみるかと彼は考える。が、そう考えていた矢先、店主の口から思いもよらぬ言葉が告げられた。

 

「あ~……結界といや、キョウヤくんが来る三時間くらい前だったかに結界を直すなんて言ってきた奴がいたなぁ」

 

「結界を直す? それは魔導師の方がですか?」

 

「い や、デカイ鞄を持ったガキンチョに剣を携えた黒い長髪の兄ちゃん、それと街の怪我人を治してくれた治癒術師さんの三人組だった。ああ、あと一緒に犬も一匹 居たっけか……まあ、ともかくそいつらが言うにはパナーシアボトルで直せるって話だったが、アレを木に使うなんて聞いた事もねえから俄かには信じられねえ んだけどな」

 

パナーシアボトルというものがどういった物で何に使われるのかをちゃんと知っている恭也としても、店主の言う事に同意であった。

アレは魔物が放つ毒を浄化したり、重度な場合以外の病気を治したりする薬。そしてその作用故、主に使われるのは人間から一般的な動物まで。

そのどちらにも属さない物に使うという事例は聞いた事が無い。故に効くかどうかも定かではないところを直ると断言されたら疑わしくも思うだろう。

だから、恭也もどちらかと言えば店主と同じく信じる事は出来ない。だがまあ、その者たちが勝手にやる事だから、信じようが信じまいが関係ないと言えばそれまで。

そのため、彼は店主の言葉に頷きつつ差し出されてきた品物を受け取り、代金を払って会釈しつつ店に背を向けて歩き出した。

 

 

 

――その際、入れ替わるように複数の人物が彼の横を通り過ぎ、道具屋の前へと立った。

 

 

 

擦れ違ってから少しばかり距離を置いた地点で足を止め、僅かに店方面へ向き直る。

その行為に特別理由は無い。だが如いて挙げるなら、今しがた擦れ違ったグループが先ほど店主が言っていた人物像と酷似していたから。

だから、アレがそうなのかと何となく気になって振り向いた。そして改めて見てみれば、やはり話にあったのとそのグループは人数も姿も似ていた。

加えて距離を置いているために声までは聞こえないが、三人と一匹から差し出された物で店主が何かを作っているのを見る限り、やはりアレが話の人物たちなのだと分かる。

というのも、パナーシアボトルはこの街の店でも確かに売ってはいるが、少し前に入用で買いに来たとき、店主は切らしていると言っていた。

同時にこの街に於いてアレの売れ行きはイマイチだからそもそも仕入れ数自体が少なく、次の入荷はいつになるか分からないとも。

もし今も入荷していないのだとすれば、パナーシアボトルを作るための材料を集めて店主に『合成』してもらう以外、手に入れる手段は無い。

ここで手に入らなかったからとわざわざ遠くの港町まで行って買った恭也は、パナーシアボトルの材料が何なのかまではさすがに把握してはいない。

だけど店主の話では彼らが店を訪れたのがおよそ三時間前。それが本当だとすれば、使用する材料はこの付近で手に入るものなのだろうと容易に想像がつく。

 

「…………」

 

その材料を手に入れ、再びこの街の道具屋を訪れて『合成』を行っている辺り、本当にパナーシアボトルで直ると思っているのだろうか。

それとも、彼ら自身確証は無くも駄目元でやってみようと思ったのか。その辺りは実際定かではないが、彼らがソレを実行しようとしているのは確か。

彼らのその行動が吉と出るか凶と出るか、話を聞いてしまった以上は恭也も結果が気になる。故にか、時間が気になるも見るぐらいなら大丈夫かと判断。

出来上がったのであろうパナーシアボトルを持ってハルルの木へ向かっていく三人と自分の距離が再び広がったところで自身も、ハルルの木がある場所へ歩き出した。

 

 

 

ハルルの木が直る……恭也が木の元へ訪れた時、そこはすでにソレを聞き付けた街の住人で一杯だった。

その先頭、ハルルの木の根元付近にはあの三人と一匹の姿。そしてその少し手前の場所にはこの街の長が祈るように手を合わせて佇んでいる。

だが長に限らず、集まった人々のほとんどが同じ心境。本当に直るのかという疑いはあっても、大なり小なり信じてみたい気持ちはあるのだろう。

一通り見渡してそんな事を考えながら、恭也は最後尾の辺りで足を止め、街の人々と同じく視線を前に肯定したまま静かにその場で佇む。

彼が足を止めて静観し始めたのとほぼ同時に三人と一匹の内の一人、大きな鞄を肩から下げる少年がパナーシアボトルの瓶を持ち、木の更に近くまで駆け寄った。

そしてその場から見える範囲の根元全域に行き渡らせるかの如く蓋を空けた瓶を大きく振るい、中身の液体を根元付近の地面へと振り掛けた。

 

 

 

――直後、液体を振り掛けた辺りから青白い光が放たれる。

 

 

 

それはパナーシアボトルの効果が正常に表れた証。それ故、半信半疑だった恭也も信じざるを得なかった。

ハルルの木に一体どんな異常があったのかは知らないが、パナーシアボトルを使う事でそれを直せるといった彼らの言葉を。

恭也と同じ心境だった他の人々もまた、似たような表情。息を飲み、ただハルルの木が復活してくれる事を願っていた。

 

 

 

――だけどその数秒後、皆の願いは空しくも叶わず終わった。

 

 

 

発していた光が止んでも、ハルルの木は結界を発生させない。パナーシアボトルを使う前と何ら変わっていなかった。

使う量が少なかったのか、それともこの方法ではやはり駄目だったのか。そんな言葉に焦りを乗せて、鞄の少年はただ立ち尽くした。

残る二人もまた大小違いはあれど落ち込みが見える。だけど一番落ち込みが激しいのは、やはり長を含む街の住人達。

直ると言われ、期待を持たせられたのに叶わなかった。落ち込むなんて言葉で済むどころか、絶望にまで至っているような表情の人さえいた。

 

(やはり、早急に戻ってリタに頼み込むか……)

 

人々がハルルの木の復活をどれだけ願っていたのか。そこを垣間見せられては彼としても無視なんて出来ない。

だからもう可能性がどうとか関係なく、動いてくれるまで頼み込んでみる。それが自分に出来る、唯一の事なのだから。

それ故、少しでも早く彼女を説得して連れてくるにはすぐにアスピオへと帰らなければと考え、恭也はハルルの木に背を向けて歩み出そうとした。

 

「お願い――」

 

だが、第一歩を踏み出して瞬間に聞こえてきた声。そしてその途端に後ろから感じる何かしらの力が彼の動きを止めさせた。

再び振り返ってみれば、三人の内の一人である少女が少年よりも前の位置で手を合わせ、魔術と思しき術式を展開して光を放っていた。

何の魔術かは知らないが、それで直ってしまうなら苦労は無い。普通ならそう思ってしまうはずなのに、その光景から誰も目が離せなかった。

そして、絶望する事も忘れて誰もが視線を集中させる中――――

 

 

 

 

 

「――咲いて」

 

――少女がその一言口にすると共に、ハルルの木の根元から上へ光の筋が駆け上った。

 

 

 

 

 

駆け上った光の筋は瞬く間に木全体へと範囲を広げ、蛍のような光の粒子を立ち上らせる。

だが、何よりも誰もが目を疑ったのはその後。木を包み込むように光が広がったかと思えば、今度は枝に花を咲かせ始めたという事態。

ハルルの木が満開になる季節まではまだ少しある。なのに咲き始めた花は勢いを緩めず、過去のどの満開の時期よりも多くの花を咲かせる。

それは遂に消えていた街を覆う結界が復活させるに至る。そして眩く輝き続けていた光が収まりを見せた時、少女は力が抜けたようにその場に崩れ落ちた。

それを慌てて受け止める黒髪の青年と興奮気味で称賛する鞄の少年。街の人々もまた、信じられない光景に目を疑いながらも少女に感謝の言葉を掛ける。

だけどその中でただ一人、恭也だけは彼らと距離を置いた地点で佇みつつ少女の事をしばし見続け、小さく息をついたと同時に今度こそ街を去るために背を向けた。

 

(さっきの事……リタに聞かせたら、どんな顔をするんだろうな)

 

この世界のでは無いが、彼も剣士にして魔導師。正式な教育は受けていなくも、ある程度の知識は持っている。

でも、先ほどあの少女が使ったものは全く未知の術式。そしてその効力もまた、多くの魔法を見てきた彼でも目を疑うほど。

恭也でさえそうなのだから、リタなどはもっと驚くだろう。だがまあ、どんな力が行使されたのであれ、結界が直ったのは重畳。

そう思いつつ恭也は人々の喜びの声を耳に聞きながら少しずつ木から離れ、そしてアスピオへ帰るべく街を去った。

 

 

 

 

 

歩いて三時間、走れば四十分から一時間程度。もっと早く彼が帰ろうとしたなら、更に早い時間に帰宅出来る。

だけどリースはともかく研究に没頭すると食事も忘れるリタの事だから、多少食事の時間が遅れたところで文句は言わないだろう。

そう考えると間に合えばいい時間まで少しばかり時間に余裕がある事から、恭也は来たときと同様に徒歩で帰宅路を歩いていた。

本来なら結界の外の夜道を一人で歩けば自ずと魔物に襲われる危険もあるが、最近はなぜか魔物に襲われる事がほとんど無くなった。

その理由を挙げるなら、おそらくこの道を通るたびに襲いかかってきた魔物たちを倒し続けていた故、自分たちでは手も足も出ない相手だと魔物も知ってしまったから。

魔物だって若干の知能はあるのだから、危険な相手かどうかの記憶ぐらい出来る。だからこそ、彼を危険な敵と認識して襲ってはこない。

つまりはそういう事なのだろうが、別段彼としては気にする事もない。むしろ襲い掛かってこないのなら、いちいち倒す手間が省けていいくらいだと思っているぐらいだった。

 

「…………」

 

ただまあ、それならそれで道中を暇に思ってしまうのも事実。魔物の襲撃が無ければ、ただ歩くしかないのだから。

その暇を紛らわせるように街で買った品を眺め、一体何に使うのかを適当に想像したりなど無駄な行動をしてみたり。

それが以外と暇潰しになると知ってしばらくそんな事をしながら歩き続ける事四十分程度の時間が経ったとき、不意に後ろから複数の足音が聞こえてきた。

この時間に結界の外を歩く人間がこの付近で自分以外にいるのかと少し珍しく思いながら、駆け足気味に近付いてきているのを知って顔だけを振り向かせてみた。

 

 

 

――すると驚く事にその眼に映ったのは、ハルルの木を直した三人と一匹の姿だった。

 

 

 

待ってと叫びながら近づいてきてる辺り、恭也の事を追ってきたというのは何となく分かる。

だが、その内の誰とも面識などまるでない彼からすれば、何で夜更けに結界の外へ出てまで追ってきたのかは理解出来なかった。

しかしまあ、目的が自分なら無視するわけにもいかず、歩みを止めて身体も振り向かせる。そしてそのすぐ後に彼らも恭也に追いついた時点で足を止めた。

 

「はぁ、はぁ……あの……貴方が今から向かう先って、アスピオって街です?」

 

「え、ええ、そうですけど……それが何か?」

 

「ああ、俺たちもその街に行きたいんだけど、東のほうにあるってだけしか情報がなくてね。そんなときにハルルの街の道具屋でアンタの話を聞いたもんだから、どうせなら案内してもらおうかと思って慌てて追い掛けてきたってわけだ」

 

「なるほど。ですが、アスピオにどういったご用事で? 言っては難ですが、本ぐらいしかないような街ですよ?」

 

「ちょいと会いたい奴がその街にいるみたいなんでね。モルディオって奴なんだが、知らないか?」

 

黒髪の彼から口にされた名前は確かに恭也も良く知っている。何を隠そう、その口にされた人物の家に厄介になっているのだから。

それに彼女の名前が他者の口から出る事も、そこまで珍しくはない。アスピオのリタ・モルディオと言えば、外部でもそこそこ有名らしいから。

だが、今まで彼女に直接会いに来た人はほとんどいない。魔導師としては天才と名高くても、『変人』という称号も外部へ広がっている故に。

だから一応知ってはいるとだけ話して直接の知り合いだという事は語らず、その人物にどういった用事があるのかと聞いてみた。

すると別段隠す必要性を感じていないのか青年が理由を語ろうとするが、それより先にようやく息を整え終わった少女のほうが語った。

 

「彼は帝都の下町で水道魔導器(アクエブラスティア)魔核(コア)を盗んだ人を追い掛けてるんですけど、その犯人というのがモルディオって名前の人らしくて」

 

「水道魔導器の魔核を盗んだ? それは、確かな事なんですか?」

 

「まあな。故障した水道魔導器の修理を頼んだって相手がモルディオって名前のやつっていう証言は取れてるし、実際に修理が終わった直後に魔核が盗まれてるからな」

 

「そう、ですか。ですが確かここ数ヶ月、モルディオさんがアスピオから外に出たなんて話を聞きませんでしたよ?」

 

「外に出たってだけで話題になるくらいの人なんです、アスピオでは?」

 

「それはまあ……それなりに有名人ですし、何より基本的には引き篭もりって聞きますからね」

 

「そうなんだ……じゃあ、ユーリが追い掛けてるっていうモルディオとその人って、別人なのかな?」

 

「どうだろうな。ま、どっちにしたところで会ってみれば分かる事だろ……そういうわけで、悪いけど案内してくれないか?」

 

「……分かりました。自分もそこへ帰る途中ですから、別に断る理由はありませんしね」

 

了承を口にすると彼――ユーリと呼ばれた青年は礼を言う。少女の方などは律義にお辞儀までして。

そして彼ら三人を引き連れて再び歩き出す最中、恭也は思う。魔導器好きとはいえ、本当にリタが他人の物を盗んだりするだろうかと。

ああは言ったが、恭也とて常にリタといるわけじゃない。少ない事とはいえ、買い出しで港町まで出て行ったりする事だってあるのだ。

だから盗まれた時期が定かではないが、明確なアリバイはない。しかし、彼女の性格的に他人の物を盗んだりするというのは考え難い。

それに帝都はアスピオからハルルに行くよりも更に遠い。港町までの買い出しで一日近く留守にする事はあっても、その期間で行って戻るのは至難の業。

決して無理というわけじゃないが、彼女の体力的にはほぼ不可能と言っていい。だとすれば、彼女の名を語る誰かの仕業と見るのが妥当だろう。

だが、これは実際に彼女と面識がある者の考え方。会った事がない彼らがそこへ至らないのは仕方のない事なのかもしれない。

 

(まあ、実際に会えば誤解も解けるだろう……)

 

会った事が無いなら会わせればいい。実際に会って彼女の人となりを見れば、疑いも晴れるだろう。

そういう考えから案内を了承した彼は三人と一匹を連れ、少しだけ賑やかになった夜の帰り道を彼らと共に歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

前回もそうだが、今回も少しばかり短めのプロローグになってしまった。

【咲】 アンタって地文でほとんど書こうとする傾向があるから、台詞少なくて全体的に見ると短めになる事多いわよね。

言葉もありません……字数的には普通と似たり寄ったりなんだけど、俺が書くとどうしてもこうなり勝ちなんだよね。

【咲】 地文が多いのが悪いとは言わないけど、台詞が少ないのはどうかと思うわよねぇ。

うぅ……俺も少しは改善しようと日々努力はしてるんだよ? でも、クセってものは中々抜けなくて……。

【咲】 そこを頑張ってしっかり改善して書き続けるのがアンタの仕事でしょうが。

……ごもっともです。以後、地文だけに頼らず台詞も多くなるよう心掛けます。

【咲】 よろしい。で、今回の話は前回のあとがきで言った通り、恭也サイドのお話ね。

うむ。ついでに原作序盤であったハルルでの一件を軽く書いてみた。

【咲】 最後の方ではユーリたちから恭也に話し掛けたわね。しかも、ユーリたちがアスピオに行く理由を恭也が知っちゃったし。

まあ、知っても問題じゃないだろ。彼だって変な理由で会いに行こうとしてたなら、案内を断るだろうし。

【咲】 それはまあ、確かにね。ていうか、ユーリなら恭也がリタと面識があるってあの会話で気づいてそうだけどね。

つうか気づいてるだろうね。表情では読みとれんだろうけど、会話の内容で察しはつくはずだし。

【咲】 でも、実際に口にして確認を取ったりしない辺り、ユーリっぽいといえばそうよね。

それをユーリっぽいといっていいのかは微妙だけどな。

【咲】 そんなわけで前回と今回でリタ加入イベントに入る前をやったわけだけど、次回はやっぱりリタ加入?

そういうことになる。加えてもう分かると思うが、あの二人も同時加入だ。

【咲】 恭也とリースね。という事は、シャイコス遺跡も一緒に行ったりするのかしら?

そこはまだ模索中。シャイコス遺跡前か後か……加入するのは間違いないんだけどな。

【咲】 ふ~ん。じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲】 じゃあね。バイバ~イ♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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