刹那が高町家に居候することが決まった次の日。

昨日はいろいろと騒がしかった(特に風呂騒動)、が今日は今日でかなり朝から騒がしい。

昨夜、同じ部屋で寝るということになった刹那は恭也と同じ布団で寝るとだだをこねた。

しかしこればっかりは断固として恭也はダメだといい、結果として恭也の部屋に二つの布団を敷いて寝るということになった。

刹那は不満そうな顔をしていたがしぶしぶ恭也の隣の布団で寝ることにした。

が、翌朝、恭也が目を覚ましてみると……

 

「……なぜ?」

 

刹那が恭也の布団に潜り込み、あろうことかしがみつきながら寝ているではないか。

寝る前は確かに隣の布団で寝ていたはずなのに朝起きてみれば自分の布団。

いったいいつの間にと思わなくもなかったがそれよりも動揺のほうが強いのか焦り始める。

 

「こ、こんなところを見られでもしたら……いや、よそう。 考えるだけでも恐ろしい」

 

昨日の風呂騒動がトラウマになっているのか考えまいと首を振る。

 

「と、とりあえずこの状況をどうにかせねば…」

 

そう呟いて刹那を起こそうとする。

しかし、いくら呼んでも刹那は起きる気配を見せなかった。

それならばと恭也はしがみついている刹那を剥がそうとするが、予想以上に強くしがみついているため剥がせない。

あまり乱暴にしてはならないという思いもあるためか強くは出れないというのが理由でもあるだろう。

そして結局、刹那を引き剥がせず焦りがさらに強まった恭也に対して廊下から声が聞こえてくる。

 

「恭ちゃ〜ん、もう朝だよ〜?」

 

ある意味地獄へのカウントダウンという風に恭也は聞こえた。

そして恭也の頭の中でカウントダウンが始まる。

5…4…3…2…1…

 

「まだ寝てるの〜?」

 

0と同時に美由希は恭也の部屋の戸を開ける。

そして目に入ってきた光景に固まってしまった。

 

「あ〜、美由希……これはだな」

 

「な、ななななななな」

 

硬直が解けた美由希はかなりどもりまくっていた。

美由希のそんな様子を見て次に来るであろう叫びを回避するため耳を塞ぐ。

 

「なんで刹那さんと一緒に寝てるのーーーーーーーーー!?!?!?!」

 

朝から近所迷惑になりかねない絶叫が恭也の部屋から響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永ワノ刻ヲ渡ル者

 

第三話 怪奇事件

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、朝っぱらからあんな大声を出すとは……近所迷惑もはなはだしいぞ」

 

「うう……」

 

うな垂れる美由希を横目で見ながら恭也はご飯を口に運ぶ。

あの後、何やらわけのわからないことを言いながら襲い掛かってくる美由希を手刀で沈黙させ、復活した後事情を話した。

そして今は説教を食らっている。

ついでに原因である刹那はたくさんの人に囲まれての食事であるためか少しびくびくしながら食べている。

 

「まあまあ、お師匠もそのへんで」

 

「ふむ、そうだな。 この辺にしといてやろう」

 

レンが止めに入ったことで明らかにホッとした表情をした美由希を横目で見ながら説教を終える。

 

「それでお師匠、今日のお味はどないですか〜?」

 

「ああ、さすがの一言に尽きるな」

 

「恭也ってば最近そればっかりね」

 

「む……」

 

「あはは、でも感想がもらえるだけで嬉しいです〜」

 

レンは笑いながら答える。

皆がそんな会話をしながら食事をしている中、刹那は誰とも目を合わさず俯き気味で食べていた。

そんな刹那の様子に気づいてか桃子は刹那に話を振る。

 

「刹那ちゃんはどう? レンちゃんの料理は美味しい?」

 

「あ、う……」

 

会話の流れからすると自然なのだが刹那にとっては突然だったため箸を止めてさらに俯く。

ちょっとだけ場に沈黙が流れる。

 

「刹那、ちゃんと言葉を返さないと相手には伝わらないぞ?」

 

箸を置いた手で刹那の頭をぽんぽんと叩きながらそう言う。

その言葉に刹那は小さく頷いて桃子のほうを見ようとする。

だが、やはりいきなりは無理だったのか若干上目遣いになりながら言った。

 

「美味しい……」

 

「そういってもらえるとがんばって作ったかいがありますな〜」

 

刹那の返答にレンが笑顔で答える。

周りの者たちも顔に笑みが浮かんでいた。

それが刹那が高町家に溶け込む第一歩となった。

 

 

 

 

 

 

朝食のあれから少し控え気味ではあるが、話を振ればちゃんと返すようになった。

昨日までの刹那を見ればけっこうな進歩だろう。

その中でもとりわけ桃子やなのはの前では前のような怯えた表情は出さなくなった。

どちらも積極的に話かけてくるのもあるが刹那の言い分からすると二人は優しい人だからだそうだ。

他の人たちにとってもそれは言えることなのだが、桃子やなのはほど積極的にというわけではなかったためまだ二人のようにはいかない。

だが優しいというのはわかっているのか徐々にその怯えた表情はなくなっていっていた。

そして現在は仕事で桃子が出ており、なのはも他の者たちも学校に出ているという時間。

家にいるのは居候である刹那と大学の講義が二時限目から入っている恭也のみだった。

 

「刹那、お茶飲むか?」

 

「飲む…」

 

ソファーから立ち上がりそう尋ねる恭也に刹那は頷きながら答える。

そして恭也がその場から離れて数分後、両手に熱いお茶の入った湯呑みを持って返ってくる。

それを刹那に手渡して恭也はソファーに腰掛ける。

 

「……っ」

 

無言でお茶を口につけると、途端に刹那は湯呑みを口から放す。

そしてそれをすぐさまテーブルに置き口を押さえている。

 

「どうした? 熱かったか?」

 

「……」

 

口を押さえたままコクコクと頷く。

どうやら相当熱かったようだ。

恭也自身はその暑さに慣れているためかいつも通り普通に飲んでいたのだが、刹那にとっては熱すぎたようだ。

 

「ちょっと口を開いてくれ…」

 

刹那が口を押さえている手を退けて口を開けさせる。

口を開けた刹那の舌を見るが目立つ火傷は見当たらなかった。

 

「もういいぞ……って、大丈夫か? 顔が赤いぞ?」

 

「……」

 

顔を赤くしたままコクコクを頷く。

大丈夫という意思表示らしい。

 

「大丈夫ならいいが……具合が悪いならすぐにいうんだぞ?」

 

「うん」

 

暑さによる痛みが和らいだのかやっと声に出して答える。

 

『昨夜から行方不明となっておりました、山下生江さん(37)が今朝海鳴市の山中で遺体となって発見されました』

 

つけっぱなしのテレビでそんなニュースがやっていた。

 

「山中……神社のほうだな」

 

恭也はそう呟く。

普段なら物騒だなと思うだけなのだが、このニュースだけはなぜか気になった。

自分の知っている場所だというのもあるだろうが、それ以前にその遺体となって発見されたという人物を恭也は知っていた。

 

(山下生江……昨日休講になった講義の講師じゃないか)

 

だが、気になるのはそれだけじゃない気がする。

恭也はそう考えるがその気になる理由がわからない。

 

(そういえば数日前にもこれに似た事件があったな……何か関連性があるのか?)

 

「恭也……」

 

刹那が服の袖を引っ張りながら声を掛ける。

それで恭也は我に帰り刹那のほうを見ると若干怯えが浮かんでいる。

 

(思い過ごしだといいが…)

 

「どうした?」

 

「怖い顔……してた」

 

「む、そうか……怖がらせてしまったみたいだな。 すまなかった」

 

そう言って恭也は微笑を浮かべながら刹那の頭を撫でる。

刹那は自分の頭を撫でる恭也の手を気持ち良さそうに受け入れる。

そして気づけば大学へ行く時間だった。

 

 

 

 

 

 

恭也は大学への道を歩きながら溜め息をつく。

それは疲れたからの溜め息ではなく後ろからする気配による溜め息だった。

その気配の正体は……

 

「刹那」

 

である。

呼ばれた刹那は気づかれていないと思っていたのかびくっと肩を震わせる。

ちなみに今は電柱の影に隠れている(隠れ切れてはいないが)。

いきなり呼ばれて驚いたものの隠れている辺りまだ気づかれていないと思っているらしい。

 

「はぁ……」

 

恭也は再度溜め息をつく。

そもそもなぜこのような状況になっているのか。

それは簡単なことで恭也が大学にいってくると言ったところ刹那が一緒にいくと駄々をこねたのだ。

それに対してさすがに一緒に講義を受けるわけにもいかない恭也はなんとか説得した。

大学は遊ぶところじゃないから、すぐに帰ってくるからなどなど。

その説得に寂しそうな顔をしながらしぶしぶ頷いたのを見てわかってくれたと重い刹那の頭を撫でてから安心して大学へいった。

だがやはり諦めていなかったのかこうやって家からずっと隠れてついてきているというわけだ。

 

「おっす、高町」

 

溜め息をついていた恭也の後ろからそう声が掛かる。

 

「赤星か」

 

声の主は恭也にしては珍しい?男の親友、赤星勇吾だった。

知り合ってからずいぶん経ち、ずっとクラスが同じだったのだが大学では別となった。

同じ大学ではあるのだが、学部も学科も違うためこうやって朝の通学路で会うこともあるかないかである。

まあ、だからといってここでしか会わないわけではなく赤星はたまに木刀を持って高町家を訪れたりするため頻繁ではないがよく会う。

 

「なあ、高町。 あそこの」

 

「聞くな……俺も今あれで困ってるんだ」

 

「知ってる子か?」

 

「昨日から家に居候することになった子だ」

 

「そうなのか……で、なんで高町の後ろをついてきてるんだ?」

 

「それは俺が知りたい…」

 

そう言ってまた溜め息をつくと刹那のほうへ歩み寄る。

このまま大学へ行くわけにもいかないからだろう。

 

「刹那……なんでついてきてるんだ?」

 

「あ、う……」

 

気づかれていたことが今更わかったのか俯いてしまう。

 

「家で待ってるように言っただろ?」

 

「うう……」

 

「まあ、高町もその辺で」

 

刹那に赤星がフォローを入れる。

刹那はそこでようやく赤星がいることに気づいたのか恭也の後ろに隠れながら覗き見る体勢となる。

 

「刹那、怖がることはない。 こいつは俺の親友でいいやつだから」

 

「……」

 

恭也がそういっても、服をぎゅっと掴んだまま覗き見る体勢をやめない。

どうしたものかと恭也が困っていると赤星が行動に出た。

といっても手を差し出して笑顔で自己紹介をしただけだが。

 

「初めまして、刹那ちゃん……でいいかな? 俺は赤星勇吾、高町の親友をやらせてもやってるよ」

 

「……」

 

手を差し出したまま笑顔を向ける赤星を刹那は見る。

そして少し経ってからおずおずと自らも手を差し出した。

 

「よろしくね」

 

赤星は刹那と握手をしながら笑顔でそう言う。

刹那は怯えの表情のままだったがその言葉にちゃんと頷いた。

そして赤星が手を離すとすぐさま恭也の後ろにまた隠れてしまった。

 

「あ〜、なんというか、気にしないでくれ。 最初は誰でもこんな感じになるんだ」

 

「ああ、俺も気にしてないさ。 それはそうと、もうそろそろ時間やばいんじゃないか?」

 

「む、そうだな……そういうことだから刹那は家に戻っててくれ」

 

「……」

 

フルフルと首を横に振る。

さっきから恭也がどう説得してもこればっかりである。

どうしたものかと悩むと赤星から助け舟が出る。

 

「なら、連れて行けばいいんじゃないか? 中庭ででも待っててもらえばいいと思うぞ?」

 

訂正、助け舟ではなかった。

それはどうかと恭也は思ったが、さすがに時間もやばくなってきているし、どう説得しても聞きそうにないということで赤星の提案を了承した。

その後、刹那に赤星が言った内容をいうと嬉しそうに頷いた。

そして三人は時間もやばくなってきているため急いで大学へ直行するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

気づけばバレンタインですよ。

【咲】 そうね。 執筆遅かったものね。

トゲにある言い方だ……。

【咲】 当たり前でしょ。 どれだけ遅れたと思ってるのよ。

えっと……数えてないからわかんない。

【咲】 ……。

そ、そんなに睨まないで欲しいな……。

【咲】 はぁ……まあいいわ。じゃ、短いけど今回はこの辺でね♪

  また次回会いましょう〜ノシ

 

 

 

 

 

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