誰も寝静まっているだろう深夜の住宅地。

その内のとある一軒の家にその男はいた。

 

「……」

 

男は目の前には人が倒れている。

それは二十台前半くらいの若い女性だった。

女性の衣服はところどころが破けており露出した肌は無残に切り刻まれていた。

男はすでに虫の息であろう女性を見下ろす。

その顔には楽しくてしょうがないと言わんばかりの笑みが張り付いている。

 

「くっくっく……たいした力じゃないか」

 

そう言いながら男は女性の首筋に手を当てる。

そして次の瞬間、そこから血が噴出した。

血の勢いが収まると虫の息だった女性は事切れていた。

 

「これだから止められないな……くっくっく」

 

事切れた女性を見下ろしながら男はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永ワノ刻ヲ渡ル者

 

第四話 フタツノユメ

 

 

 

 

 

 

 

「……や、……きょう…、……恭也!」

 

「…ん、んん」

 

横から聞こえた声に恭也は目を覚まし上体を起こす。

 

「忍か……どうした?」

 

完全に意識を覚醒させた後、声を掛けてきた忍に用件を聞く。

恭也のその発言に忍は呆れたといった表情をする。

 

「どうしたって……もう講義終わったよ?」

 

「む……そうなのか?」

 

「うん。 それにしても珍しいね、恭也がチャイムが鳴っても目を覚まさないなんて」

 

「ああ……たぶん疲れがたまってるんだろ。 変な夢も見るしな…」

 

「変な夢? どんな夢だったの?」

 

「……いや、話すほどの夢じゃないから」

 

「む〜、そんな言われ方すると逆に気になっちゃうよ」

 

「いいから気にするな。 それじゃ、俺は帰るから」

 

そう言うと鞄を持って立ち上がる。

 

「あ、恭也ってこれで終わりなんだ」

 

「ああ。 忍はまだ残ってるのか?」

 

「あと一限だけね。 でも、それなら一緒に帰れないね」

 

「ああ、そうなるな。 言っておくが次の講義が終わるまで待ってて、というのは出来ないからな」

 

「ぶ〜、なんでよ〜」

 

「人を待たせてるんだ」

 

「む〜、じゃあしょうがないか……」

 

「そういうことだ。 すまんな」

 

恭也はそう言うと同時に歩き出し、教室を出て行った。

 

「そういえば待たせてるって誰を待たせてるんだろ」

 

恭也が教室を去った後、忍は独り言のようにそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也は教室を出た後、まっすぐに中庭を目指した。

その足は急いでいるのか早足になっている。

恭也がなぜそこまで急ぐのか。

刹那をあまり待たせるわけにはいかないというのもある。

だが、恭也の急ぐ理由はそれではなくもっと別の理由だった。

それは中庭に向かう途中で擦れ違った学生の会話にあった。

最初こそ普通に歩きながら向かっていたのだがその学生と擦れ違った際、その会話の内容の一部が聞こえた。

 

「中庭に可愛い女の子がいるらしいぜ」

 

「まじ? あとで見に行ってみよ」

 

という会話である。

中庭、女の子、この二つに当てはまる人物に恭也は心当たりがあった。

もしその人物だとすれば急いだほうがいいだろうと思い、早足になっているわけである。

なぜその人物だと急いだほうがいいのか。

それは簡単でその人物は激しく人見知りをするのだ。

知らない人と話すことさえ怖がるくらいに。

そんな人見知りの激しい人の周りに多くの人が集まったとしよう。

そうなればその人はどんな反応をするか。

想像するのは難しくないだろう。

だから恭也はなるべく早く中庭に駆けつけるべく早足になったというわけである。

そして案の定、中庭についてみるとベンチの周りに囲むように人が集まっていた。

中心にいる人物は恭也の想像通りの反応をしていた。

その人物は恭也の姿を見つけるとすぐさま恭也の後ろに移動し隠れる。

 

「すまん刹那、待たせてしまったな」

 

「うぅ……きょうや〜」

 

その人物―刹那は半泣きのような表情で恭也にしがみつく。

しがみついてくる刹那を落ち着かせようと恭也は微笑を浮かべながら頭を撫でる。

数回撫でると刹那は落ち着いてきたのか半泣きの表情から一転して気持ち良さそうな表情になる。

ちなみに刹那の周りにいた女子は恭也の表情に見惚れ、男子は嫉妬と殺気が入り混じったような表情で恭也を見ていた。

 

「それじゃ、帰るか」

 

「うん……」

 

歩き出す恭也にしがみついたまま刹那は歩き出す。

周りの視線はそんな二人が見えなくなるまで二人に注がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

大学の門を出てからしばらくして恭也は未だにしがみついている刹那を見て言う。

 

「刹那……そろそろ離れてくれると嬉しいんだが」

 

「うぅ……」

 

刹那は呻く様に声を漏らしながら首を横に振る。

 

「このままだと……その、歩きづらいんだが」

 

「うぅ……わかった」

 

若干悲しそうな表情をして恭也から離れ横に並ぶ。

離れてくれたことに恭也はほっとするのも束の間、刹那は恭也の手を握りだした。

 

「これなら……いい?」

 

「あ、ああ……」

 

さすがにダメとは言えなかった。

まあなのはと手を繋ぐこともよくあるからこれぐらいならと思うことにし頷いた。

それに刹那は表情を一転させ、嬉しそうな表情で歩いていた。

そんな刹那に苦笑しながら恭也もまた歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

時間が流れ、今は深夜といってもいい時間である。

その日もいろいろあり疲れたのか鍛錬が終わるとすぐに汗を流し布団に入る。

何がそんなに疲れたのか。

朝の騒動や大学でのこともあるが、つまりは刹那による疲労ということである。

とにかく刹那は恭也についていきたがるのだ。

前日のお風呂騒動に続き、恭也の布団進入や大学に向かう恭也の尾行。

さらには鍛錬に向かうときでさえついていくと言い出すのだ。

さすがに遅くなるし、鍛錬に刹那を連れて行くわけにはいかないためなんとか説得して諦めてもらった。

まあついてくるだけならそこまで疲労もないが、問題は美由希たちの視線である。

前日のお風呂騒動や今日の布団進入などから美由希たちの視線に若干の殺気が含まれていたりするのだ。

それは大学についていったということが知られたときにも向けられた。

なぜそんな視線を美由希たちが向けるのかはご想像のとおりである。

そして当然の如く恭也はその視線の意味に気づいてはいない。

まあ、その視線の意味に気づいたなら恭也が鈍感といわれることはまずなかっただろうが。

ともかくそういう理由で恭也は主に精神的に疲れていた。

ちなみにその視線の原因である刹那はすでに恭也の隣に敷かれた布団で眠っていた。

恭也のもうねようと思い、目を閉じる。

そして睡魔はすぐに訪れそれに身を委ねて恭也は寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―コン太視点―

 

 

今日も僕は森の中を駆けていく。

キミと早く会って遊びたかったから。

僕に向けてくれるキミの笑顔を早くみたいから。

 

「今日は何して遊ぼうか?」

 

キミのしたいことでいいよ。

僕はキミといれるだけで楽しいから。

 

「う〜ん……それじゃあこのままコン太と一緒にソラを眺めてようか」

 

いいけど……。

キミはほんとにソラが好きなんだね。

 

「コン太は嫌いなの?」

 

う〜ん、別に嫌いじゃないかな。

でも、特別に好きってわけでもないけど。

 

「そうなんだ……じゃあやっぱり退屈だよね?」

 

そんなことないよ。

さっきも言ったけど僕はキミといられるだけで楽しいから。

 

「そう……ありがとね」

 

なんでお礼を言うの?

僕、お礼を言われるようなことしてないよ?

 

「ふふ…そんなことないよ」

 

ほんとにしてないと思うけど……。

まあいいや。

でも、やっぱりずっとこうしてると眠くなっちゃうね。

 

「そうだね……一緒にお昼寝しようか?」

 

うん、それじゃあ一緒に寝よう。

 

「じゃあコン太、こっちにおいで」

 

うん。

 

「コン太は暖かいね」

 

そうなんだ…。

でも、キミに抱かれながら寝るのもなんだか恥ずかしいね。

 

「ふふ……それじゃ、おやすみ、コン太」

 

うん……おやすみ。

 

「……コン太」

 

何?

 

「ずっと……一緒にいようね」

 

……うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第四話をお届けいたしました〜。

【咲】 長く掛かったわりには短いわね。

そ、それをいうなよ……。

【咲】 ま、執筆が遅いのはいつものことだし半分諦めてるけどね。

だ、だったらなんで拳を握ってるんでしょうか?

【咲】 あくまで諦めてるだけであって制裁を加えないわけではないのよ。

ぼ、暴力反対です。

【咲】 問答無用!!

ぶばらっ!!

【咲】 でも、四話まできてまだ何も起こらないわね。

うう…痛い。

【咲】 いつになったら話が進むのかしら?

進んでるじゃないか。

【咲】 ほんとに?

じわじわと。

【咲】 ゆっくりすぎるのよ!!

はべしっ!!

【咲】 まったく……。

いつつ……ま、まあさっきのは冗談だよ。 一応次の話で大きく物語が動く予定だ。

【咲】 ……ま、期待はしないでおきましょう。

しろよ。

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

無視かよ……と、次回もまた見てくださいね〜ノシ

 

 

 

 

 

 

 

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