大学で講義を受けるが、講義の内容は頭に入ってはこなかった。

頭に浮かぶのは今朝の夢のこと。

よく見る夢ではあるのだがこんなにも気になるのは今日が初めてだった。

昼食を食べていても、忍に話しかけられても、頭にあるのは夢のことばかり。

 

「……や、……うや、……恭也!」

 

「ん? なんだ、忍」

 

「なんだじゃないよ〜。 どうしたの? 今日はなんかおかしいよ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

「ならいいけど……」

 

忍は釈然としないながらも頷く。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「あ、うんとね、次の講義が講師の都合で休講になったみたいなの」

 

「そうなのか…」

 

「それでね、恭也は今日の講義って次で終わりだったよね?」

 

「ああ、そうだが…」

 

「じゃあこの後どっか行かない? 私も次で終わりだし」

 

「ふむ……俺と行っても面白くないと思うぞ?」

 

「そんなことないよ。 私は恭也と一緒だから面白いんだし」

 

「そうか……なら、行くか」

 

「うん♪」

 

満面の笑顔で頷くと二人して席を立ち教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永ワノ刻ヲ渡ル者

 

第一話 懐カシイ声

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也と忍は大学を出た後、商店街のゲームセンターに足を向けた。

道を歩きながら忍は恭也にいろいろ話かけていたが恭也の反応はああ…や、そうか…といった気のない返事ばかり。

そんな恭也にどうしたんだろうと気にかけながら二人はゲームセンターに辿り着いた。

 

「じゃあ、今日は何しよっか?」

 

「ああ…」

 

「あ、あれなんかどうかな?」

 

「そうだな…」

 

「……ちゃんと聞いてる?」

 

「ああ…」

 

忍は恭也の反応に溜め息をつく。

そんな忍に気づかないのか恭也はぼーっと何かを考えるように立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ほんとにどうしたの?」

 

「なにがだ?」

 

あらかた遊び終わった後、そう尋ねてくる忍にいきなりなんなんだというような顔をする。

その恭也の反応に忍は再度溜め息をつく。

 

「だから…話しかけても生返事ばっかりだし、何か悩み事でもあるの?」

 

「いや……」

 

「ほんとに?」

 

「ああ……」

 

「ふぅ……ならいいけど」

 

納得はしていないものの何もないと言う以上聞くことも出来ず、そこで追求を打ち切る。

 

「じゃ、もうそろそろ出よっか」

 

「そうだな……」

 

またも生返事のような声で返す恭也に今度は内心で溜め息をつき、二人は揃ってゲームセンターを出る。

その後、途中まで一緒に帰ろという忍に小さく頷き二人は帰路を一緒する。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いた後、忍と別れた恭也はなんとなく家に帰る気がせずぶらぶらとその辺を歩く。

特に目的があるわけでもなくぶらぶらと歩いていき、辿り着いたのは公園だった。

もうすぐ日が沈むという時間であるためか公園にはあまり人はいなかった。

 

「ふぅ……」

 

恭也はベンチに腰を下ろし、深く息をつく。

特に疲れたというわけではない。

ただ、なんとなくだった。

 

「なんでこんなに気になるんだろうな……たかが夢のことなのに」

 

忍にもレンにも美由希にも、その他の人たちにもなんでもないと言った。

だが、内心ではこんなにも気になっている。

他の人の声が耳に入らないほどに。

 

「覚えはない……はずなんだが」

 

そう呟いて考える。

だがやはり答えはでない。

出ないからこそ悩みは深まる一方だった。

そして気がつけばもう日は沈んでいた。

 

「そろそろ…帰るか」

 

そう言って立ち上がり、恭也は公園を後にした。

 

 

 

 

 

 

自宅に向けてしばらく歩き、信号につかまる。

横断歩道の手前で足を止め、なんとなく信号をぼーっと見る。

しばらく信号を見ていたが一向に青にならない。

そこまで時間は経っていないのだが、なんとなく恭也は長く感じていた。

 

「……」

 

そのまましばらく見ていると横に誰かが並ぶ。

恭也は信号から視線を外し、またなんとなくその横に並んだ人を見る。

横に並んだのは小さなバックを肩から下げた小柄な少女だった。

首からは懐中時計を下げており、髪は金の長髪。

見た目からしておそらくレンや晶より若干下といった年齢の少女だった。

だが恭也が一番気になったのは外見や持ち物ではなく少女の目だった。

 

(悲しみに満ちたような目……だな)

 

少女の瞳からは傍目からでもわかるくらい悲しみに満ちていた。

なぜこんな幼い少女がそんな目をしているのか恭也はなぜか気になった。

 

(なぜこんなに気になるんだろうな……見たこともないはずなのに)

 

自分がなぜそんなにその少女のことが気になるのかわからなかった。

そして恭也がそう考えていると不意に少女は歩き出した。

少女が歩き出したことで信号が青に変わったと思い恭也も動こうとする。

だが、そこで気づいた。

信号はまだ赤のままだったのだ。

 

「な! あぶないぞ、キミ!」

 

恭也は足を止めない少女に声をかけるが少女は止まらない。

そして図ったかのようにその少女に車が向かってきていた。

車の運転手は少女を確認するとすぐにブレーキを踏む。

だが明らかに間に合わない。

 

「ちっ」

 

恭也は舌打ちをして神速の領域に入る。

モノクロの世界で周りのものの動きがスローになる。

その中を恭也は駆け出し少女を抱きかかえて横断歩道の渡りきる。

そこで神速は解け周りのものに色が戻る。

 

「ふぅ……」

 

息をついて恭也は少女を地面に下ろす。

 

「だ、だいじょうぶでしたか!?」

 

車の運転手が車から降りて二人に近寄りそう声をかけてくる。

恭也は運転手の人に大丈夫ですというと運転手の人はほっとしたような表情をし、再度謝ってから車に乗って去っていく。

去っていく車を見た後、恭也は少女に視線を向ける。

少女は先ほどの悲しみに満ちた目ではなく、信じられないといった驚きの目で恭也を見ていた。

さきほどの出来事がそんなに驚いたのかと思い恭也は微笑で返しながら立ち上がろうとする。

 

「ぐっ!」

 

立ち上がろうとした恭也の膝に激痛が走る。

原因はわかっていた。

恭也の膝は昔砕いているのだ。

だからその痛みにも慣れてはいた。

痛みを我慢して立ち上がろうとする恭也の体に不意に手が当てられる。

視線を向けるとそれは少女の手だった。

 

「っ…」

 

少女に触れられてからすぐに膝の痛みが治まっていった。

それに恭也は驚くがもう一つ驚くことがあった。

自分に触れた少女が苦しみ出したのだ。

いったいどういうことなのかわからない恭也は内心混乱していた。

 

「あ……」

 

少女は小さく声を漏らし静かに気を失う。

気を失って倒れこむ少女を恭也はすんでで抱きとめる。

気を失った少女は小さく呼吸をしながら眠っていた。

 

「……」

 

その顔を見て恭也は不意に夢のことを思い出す。

なぜかはわからない。

だがその少女が夢に出てきた少女に似ているような気がした。

そして頭の中に聞き覚えのないはずの言葉が響く。

 

『ずっと一緒にいようって……』

 

それは昔、遠い遠い昔……

 

『ずっと友達でいようって……』

 

ここではないどこかで……

 

『約束したよね……』

 

聞いたような言葉。

 

(覚えはない…覚えはない、はずなのに)

 

恭也は日の沈んだ空を見上げ……

 

(なんでこんなに懐かしいんだ……)

 

静かに涙を流した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第一話終了で〜す。

【咲】 暗いわね。

しょうがないっしょ。永ワ刻自体暗いお話なんだし。

【咲】 そこを明るくするのがあんたの仕事でしょ。

そ、そんな無茶な……。

【咲】 ま、シリアス好きのあんたには無理な話よね。

よくわかっていらっしゃる。 ていうかなら言わないで欲しいですね。

【咲】 そこはまあお約束ということで。

そんなもんないわ!!

【咲】 あいた! ……あんた。

あ、し、しまった……つい突っ込みを。

【咲】 覚悟はできてるわね…?

お、お許しを……。

【咲】 どりゃ!!

ぶばっ!!

【咲】 まったく、痛いわね……。

な、何も顔面を…殴ることは……ないじゃ…ない、か……がく。

【咲】 乙女を傷つけた代償よ。 それでもまだぬるいくらいなんだから…って、聞こえてないか。

……。

【咲】 じゃ、しばらく起きそうにないし、今回はこの辺でね〜♪

 

 

 

 

 

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