先ほどまでいたページからかなり先のほうに位置する場所。
ガイアの復活により、廃墟と成り果てていると言っても過言ではないほど崩壊した街。
ジールパドン……それが、ガイアの脅威によって崩壊したその街の名前だ。
「……酷い有様だな」
「ガイアが復活した後だしねぇ……本当はこんな感じじゃなかったのよ、ここは」
リリスの言うとおり……元は中央にある噴水を中心に広がる溝を水が流れ、少し古く見えるが立派な建物が多く建っていた。
そして、街には他の種族たちが多く訪れ、ある程度いざこざを起こしながらも賑やかと言える場所だった。
だが、この場所に降り立った三人の目に映る光景は、元の姿が想像出来ないほど荒れ果てた街の光景。
建物は良い状態であっても半壊、悪ければ見る影もないほど崩れ、街にはそれを成したと思われる巨大な触手がある。
その触手はガイアの手足と言える部分であり、本体はまた別の場所にある。
それを見て思うのは、手足でそれだけの大きさを誇るのであれば、ガイア本体はどれだけ大きいのか、という一点に尽きる。
「それで……そのガイアバトラーとかいう魔物はどこにいるんだ?」
「ん〜……さすがにまだ出てないみたいね。まあ、そこまで時期は離れてないし、ある程度経てば出てくるでしょ」
「いい加減やなぁ……」
ケンの呟きを黙殺し、リリスは周りを一通り見渡す。
しかし、見渡す先には人の姿が見えず、映るのは荒れ果てた街の光景のみ。
それをリリスは見渡した後に僅かながらため息をつき、止まっていた足を動かし始める。
そして突然歩き出したリリスに恭也とケンは少し驚きながらも、少し遅れて歩き出すのだった。
ヤミと剣士と本の旅人
【グランディアの世界編】
PAGE OF 6
歩き出したはいいが、見るものなど今のこの街には少なかった。
以前なら噴水なり路上で開かれる露店なりと見る物はたくさんあったのだが、現在はそれも見れることはない。
建物同様に綺麗な噴水も元の形が分からないほど崩れており、露店など開ける状況ではないのだ。
そんな中で唯一見れるめぼしい物と言えば、ガイアの手足たる巨大な触手だった。
見た感じ、色も形も良い趣味とは言い難いそれだが、街の中央を通るように端から端まで伸びているため、嫌でも目がいってしまう。
「なんというか……ガイアというのは、でかいんだな」
「そうねぇ……まあ、大きさだけじゃなくて、かなりの力も有してるみたいだけどね」
「一つの文明を崩壊させるくらいやからなぁ。まあ、自業自得と言えばそれまでなんやけど」
自業自得という言葉に、事情を知らない恭也は不思議そうに首を傾げる。
それにケンは恭也がそれの示す意味を知らないことに今更ながら気づき、しゃあないなと言って説明をしようとする。
そのどこか偉そうな物言いに当然の如く恭也はちょっとムカッときたが、とりあえず我慢して静かにそれを聞くことにした。
だが、そんな恭也にケンが話し始めるよりも早く、リリスがケンの頭上から思いっきり拳骨を落とし、地面に叩き落す。
その様子から、ケンの偉そうな物言いには恭也だけならず、関係ないリリスもムカついたというのが分かるだろう。
「あら……どうしたの、ケンちゃん? 地面に減り込みなんかして」
「あ、あんさんが、やったんや……がな…………がく」
相当強い力で叩き落されたのだろう、ケンは地面に減り込んだ状態で白目を剥き、気絶した。
自分もムカつきはしたものの、さすがにそれは哀れだなと思う恭也だが、いつもの如く助けようとはしない。
というか、同じ状況に何度も陥ることが多いのだから、助けても助けてもキリがないだろう。
そんなわけで、気絶したケンを放置の方向で歩きつつ、ケンに変わってリリスが事情の説明をしだした。
「まあ、あれね……ガイアっていうのは、精霊の力を借りずに自分たちだけで欲望のままに精霊石を使おうとした結果の産物なのよ。もっと詳しく言うなら、人の欲望っていう闇を吸収した結果、精霊石が変質してガイアが生まれたというわけね」
「ふむ……つまり、人間たちのせいでガイアが生まれたのだから、その当時の文明が滅びても自業自得というわけか?」
「そういうこと。ま、文明自体は人間たちだけのものじゃなかったけど、その時点で当時の人間たちは精霊から見放されたようなものだし……文明もまた然り、ね」
欲望に走り、精霊たちに見放された人間の末路。
語られた過去の事実が表すのはつまり、そういうことであった。
「でま、今回も自身の欲望に走った馬鹿な人間のせいでこんな事態になってるわけだけど……ほんと、人間っていうのはろくなこと考えないわよね」
「そういうリリスも、人間じゃないのか?」
「私? 私はまあ……人間とも言えるし、人間じゃないとも言えるわね。あの世界でなんか、魔王なんて呼ばれたりもするし」
「魔王? リリスがか?」
「ええ」
告げられたその事に対して、恭也は珍しく表情に出して驚いた。
それは初めて聞いたからというのもあるが、魔王という単語が目の前の少女には当てはまらないのが強かったからだ。
今まで自分が見てきたリリスは我侭で迷惑行為バンザイな性格、しかし困っている人は放っておけない優しい少女。
まあ、後半部に限っては恭也限定での話なのだが、前半部だけを見ても魔王というよりは小悪魔というほうがピンと来る。
「そんな風には見えないかしら、やっぱり?」
浮かべた表情で心中を察したリリスはそう尋ね、恭也は僅かに間を空けて頷く。
実際のところ、先ほども言ったとおりリリスの容姿や性格から見ても魔王だなどとは思わない。
良い言い方で悪戯好き、ちょっと悪い言い方でも子悪魔……これらの言い方が当てはまる少女だ。
そしてそう見てしまうのは恭也とて例外ではなく、リリスの問いかけには怒るかと思いつつも素直に頷くしかなかった。
しかし、予想に反して彼女は恭也が頷いたことに嬉しそうな笑みを浮かべ、続いて悪戯っぽい笑みへと変え、恭也の腕に抱きついて尋ねる。
「ん〜、なら恭也は、私のことをどんな子だと思ってたのかしら〜?」
「むぅ……普通の……いや、ちょっと変わった女の子だな」
「ほんとに〜? ほんとにそれだけ〜?」
「あ、ああ……というか、離れてくれ。その……あ、当たってるから」
腕に感じる柔らかい感触に恭也は顔を赤くし、離れるように頼む。
しかし、その反応がリリスにとっては良かったのか、更に押し付けるようにして強く抱きつく。
それによって恭也の顔の赤みは更に増すが、それはリリスにとっては楽しみを増長させることにしかならない。
とまあリリスのこの行動は恭也の反応が楽しいからというのもあるが、言わずもがな実際は別の理由も存在していたりする。
だが元来の鈍感さ故に恭也がその意図に気づくわけもなく、そちらのほうで見たら効果なしという他なかった。
というか、普通はまるで好意もない相手にする行動ではないのだが、それに気づかない辺り恭也の鈍感度はかなり高いことが伺える。
そんな傍目からしたらラブラブ、恭也からしたら困りものな状況の中、後方から一匹の黄色い物体が羽をパタパタと動かして寄ってくる。
そしてその黄色い物体――ケンは二人の近くまで寄ると、その様子に呆れ混じりのため息と共に口を開いた。
「こんな昼間っからなにラブコメっとるんかいな……歳考ええや、リリぶばっ!?」
だが、言葉は最後まで口にされることはなく、再び地面とキスする羽目となった。
まったくもって、学習しないオカメインコである……。
目的の場所、目的の魔物を探して歩き回ること三十分弱、一同はようやくそれを見つけた。
ジールパドンの人々が避難する一角、その人々に徐々に迫っていく魔物。
姿的には人型にも見えるが、口や手、足の形や全体の肌の色を見る限りでは正直気色悪いと言える姿。
そんな姿をした魔物が一直線に歩み寄る先には、逃げることも出来ずに怯える一組の親子。
はっきり言って放っておける状況ではない……それを見るや否やそう思った恭也は瓦礫の影から助けるために出て行こうとする。
しかし、その動きは完全に瓦礫の影から姿を表す前に、横から伸びたリリスの手にて止められることとなった。
「……なぜ止めるんだ、リリス? 早くしないとあの親子が――」
「放っておけないのは分かるけど、助けに行くのは駄目。本の世界の重要な場面に下手な干渉すれば、歴史そのものが狂っちゃうわ」
今までこの世界に三人は関わってきたが、関わる中で重要な部分には極力干渉しないようにしてきた。
まあ、それが実際に実を結んでいるのかどうかはさておくとしても、世界に自分たちが入ったことの影響をなるべく出さないようにはしてきた。
だが今、目の前に広がる光景はリリスが言うには歴史に置いて重要な場面であるらしく、関われば今までのことが無となってしまう。
故に目の前で襲われそうになっている親子を助けようにも、非干渉の原則が邪魔をして助けることが出来ないのだ。
しかし、原則があるからといって助けることが出来るのに助けてはいけないなど、口で言って恭也が納得するわけがなかった。
そのためリリスは簡単な説明をした……あの親子は死なない、ちゃんと助けが来ると。
成された説明に今のも駆け出しそうだった恭也は納得して落ち着きを取り戻し、再び瓦礫の影に隠れるように身を動かす。
「それで……ページを取り込んだ魔物というのは、あれのことなのか?」
「そのはずやけど〜……ん〜、どこにあるんやろなぁ」
「取り込んだなら外部から見て分かるわけないじゃない。まったく、これだから食べられるしか能がない東京バ……って、あれ? あの微妙にはみ出てるのって、もしかして……?」
「あ〜、間違いなくあれがページやろなぁ」
リリスの指差す先にケンは目を向け、同時に確信するように頷いた。
そんな二人の反応に恭也も同じ場所に視線を向けると、そこにあったのは人々に迫る魔物の背中。
その背中をよく見てみると中心からやや右上の右肩付近にて、ヒラヒラと風邪に靡く微妙にはみ出た紙が一枚。
遠目から見ても何が書いてあるかはよく分からないが、魔物の背中にそんなものがある時点で目的のページだと容易に想像がつく。
「なんていうか、まだ吸収しきってなかったのね……」
「まあ、ガイアの眷属ゆうても、ページを完全に取り込むには時間が掛かるわなぁ。それほど、個々が持つには大きすぎる魔力やし」
「しかし完全に取り込んでないにしても、どうやってあれを手に入れるんだ? 非干渉の原則があるのだから、さすがに駆け寄って取ってくるわけにもいかないだろ?」
「ええ、もちろん。だから、ちゃんとこのときを考えて用意しておいたわよ」
「? 何をだ?」
「ふふふ、それはね〜……これよ!」
不敵な笑みを見せながら懐に手を入れ、言葉と同時に一本の竿を取り出す。
正直、竿の長さ的にどうやって入れていたのかというのが疑問だろうが、そこは気にしてはいけない。
「ふむ、釣竿か……だが、そう簡単に引っ掛けられるものでもないだろ?」
「大丈夫よ。確実に引っ掛けるためのルアーがここにいるから……って、逃げないの、ケンちゃん」
「ぐえっ!」
嫌な予感を察知して逃げようとしていたケンを、リリスは逃がすまいと鷲摑みにする。
今までのように強く握り締めているわけではないが、それでもキツイのかケンは顔を真っ赤にしていた。
しかし、そんなケンの様子に構うことなくリリスは告げた言葉どおり、ケンの胴体に釣竿から伸びる糸を巻きつける。
「っと、はい完成♪ これなら確実にあれを手に入れることが出来るわ」
「……まあ、策としては悪くはないが、ケンがミスをしたらどうするんだ?」
「それも問題ないわよ……ケンちゃんがミスしなければいいんだから。 ね、ケンちゃん?」
「ぜ、善処はしてみるわ……」
「…………」
「か、必ず目的の物を手に入れてまいります、サー!」
無言の圧力にあっけなく負け、あまりの恐怖に関西弁で話すことも忘れてケンは敬礼する。
それにリリスは満足するように一度だけ頷き、向こう側に気づかれない程度に大きく竿を振りかぶる。
「一世一代の大勝負よ! 準備はいいわね、ケンちゃん!」
「え、いや、その、まだ心の準備が……」
「い・い・わ・ね!?」
「オッケーであります、サー!!」
「よろしい。じゃ、いっくわよ〜……」
竿を振り被った腕に目一杯の力を込め、目標を視界に捉える。
そして込めた力を一気に解放し――――
「どりゃぁぁ!!」
「ド、ド根性ぉぉぉぉ!!」
訳の分からない叫びを耳に、渾身の力で竿を振るった。
あとがき
はい、蒼鳥さんのキリ番リクエストでした〜。
【咲】 リクエストされてから出すのが遅すぎよ。
し、仕方ないだろ……他の執筆や、リアルの事情とかもあるんだから。
【咲】 そんなのは理由にならないわね。 特に私に対しては。
あ、相変わらず無茶苦茶な……と、とまあそんなわけで、今回は崩壊後のジールパドンでのお話だったわけですが。
【咲】 ケンちゃんの扱いが酷いのは相変わらずだけど、リリスが恭也にべったりって感じがするわね。
まあ、からかうという部分が多くあるわけだが、恭也に好意を持っているわけだしな、実際。
【咲】 それはそうだけど、キャラが微妙に変わってない?
そうか? ゲーム版のヤミ帽でリリスエンドだとかなり主人公にべったりだし、そんなに変わらないと思うが。
【咲】 ん〜……まあ、そこは見た人が判断することよね。
だな。 さてさて話が変わって、今回の最後でケンちゃんがまた酷い目に合ってるわけだが。
【咲】 気になるところで次回に続くのね。
まあ、この結果がどうなのかは、次回が出るまでに読者の方々でご想像を……という終わり方だな。
【咲】 ふ〜ん……まあ、そういうのもいいんじゃないの? いっつもやってることだとは思うけど。
確かになぁ……と、そんなわけで、次回は今回の続きということになります。
【咲】 もうそろそろグランディア編もお終いよね?
あと一、二話程度なもんだな……というわけで読者の皆様、どうぞ最後までお付き合いくださいませ。
【咲】 じゃ、改めまして蒼鳥さん、キリリクありがとうございました!!
続けてお取りになられているキリリクにつきましてはなるべく早く書き上げれるように致しますので、もうしばしお待ちを……。
【咲】 じゃ、まったね〜♪
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